「かあああ! この酒はうまいな!」

「ああ。ワインなんて滅多に飲めないもんな。それに普段街で買ってくるワインよりもよっぽど上質だ」

 アリオさんたちがおいしそうにお酒を飲んでいる。

「気に入ってもらえてよかったのう。里で作っているワインなのですよ」

「こんなに良いお酒をいただいて本当に感謝しております」

「こちらこそセリシアがお世話になっておりますし、ソラ殿にクロウ様やシロガネ様を快く送り出してくれたと聞いております。お互い様ですな」

 長老さんと村長さんも仲が良さそうにエルフの里のお土産のワインを飲んでいる。

 この世界だとお酒は結構高価なものになるらしい。

「ワインってどんな味がするんだろうね?」

『ふふ、ソラにはまだ早いわよ』

『うむ。酒は身体が成長してからにした方が良い』

 少しだけお酒にも興味があったんだけれど、さすがにシロガネとクロウに止められた。

 この世界でもお酒を飲むのは大人になってからだけれど、みんながとってもおいしそうに飲んでいるとやっぱり気になるよね。

『ふむ、こいつはなかなかいけるな』

『ローナやソラが飲んでみたくなるから、クロウもほどほどにしておきなさいよ』

『ああ、わかっている』

 クロウはお酒を飲めるみたいだけれど、シロガネはお酒が駄目みたいだ。セリシアさんもお酒は飲んでいないみたいだし、大人でもお酒が飲めない人は結構いるもんね。

「……こんなふうに多くの者が集まって共に笑い合えるのは本当に良いことです。どうしても人族の中にはエルフという種族を狙う者がおりますからね」

『同感ね。私もこうやってのんびりと過ごせる場所が見つかるとは思ってもいなかったわ』

『そうであるな。こういった時間も悪くないものだ』

 エルフの里に行く時にいた盗賊みたいに悪い人もいっぱいいる。エルフや聖獣はすごく狙わるらしいから、こうやってみんなでゆっくりと過ごせる場所はあんまりなかったのかもしれない。

「里のみんなもずっと悩んでいた聖天の樹が元通りになって胸のつかえがとれたようですね。こうして心置きなく楽しめるのも本当にソラくんのおかげです」

「えへへ~」

 僕の力というよりは万能温泉の力だけれど、それでもみんなの役に立つことができてとても嬉しい。

 こうやってエルフの里とアゲク村のみんなが一緒に楽しんでいるのを見ているだけでもすごく温かい気持ちになってくる。住んでいる場所とか種族とか関係なく、みんなで集まっておいしいものを食べたり飲んだりしながら笑い合っている。

 身体が弱くてあんまり外に出ることすらできなかった僕がこうして元気に過ごすことができて、みんなを助けられる力をもらえたことに感謝している。僕はきっと今日の光景を忘れることはないと思う。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ふあ~あ」

『おはよう、ソラ』

「おはよう、クロウ」

 目が覚めるといつもの真っ黒でモフモフしたクロウのお腹に包まれて目が覚めた。

「あれ、シロガネは?」

『先に家の外に出ているぞ』

「ゆっくり寝すぎちゃったかな?」

『昨日はいつもより遅くまで起きていたから仕方がないだろう。それに他の者も酒を飲んでいたこともあって、まだぐっすりと眠っている者も多いようだぞ』

「そうなんだ」

 昨日はみんな楽しそうにしていた。僕は途中でウトウトしてきたから先に寝ちゃったけれど、あのあともみんなで楽しんでいたみたいだ。

 着替えてからクロウと一緒に家の外に出る。

「うわあ~すっごい!」

 僕が家の外に出ると、アゲク村の中に竜巻が巻き起こり、盛り上がった土の壁が生えてきていた。

 すごい光景だけれど、僕たちはこれを見たことがある。そう、エルフの里でみんなが使っていた魔法だ。きっとエルフのみんなが魔法を使っているんだろうなあ。

『おはよう、ソラ』

「ソラくん、おはようございます」

「おはよう、シロガネ、セリシアさん」

 村の入り口の方へ行くと2人がいた。

「すごいね、魔法ってこんなこともできるんだ!」

 僕たちの目の前で、長老さんが丸太でできた村の囲いを土の魔法を使って覆っていく。

 ただでさえ丈夫そうな丸太の壁があっという間に分厚い土の壁になった。

「乾燥した木は燃えやすいですが、土魔法で覆っておけば燃えませんからね。長老は土魔法も得意なのです」

「本当にいろんな魔法があるんだね。みんなすごいなあ」

 火、雷、水、風、土。これまでにいろんな魔法を見たけれど、本当に不思議だ。さっきの竜巻はきっと風魔法で、畑の収穫を手伝ってくれるんだろうなあ。

 セリアさんに聞いたら、みんなでこの村をさらに良くしてくれるみたいだ。

 エルフの里のみんなが協力してくれるのなら、きっとアゲク村は今まで以上に立派になるよね。