「いやあ~やっぱりソラくんの温泉は格別だね!」

「うむ、旅の疲れがこの湯に溶けていくようじゃな」

「ミリアルさんも長老さんもお疲れさま。喜んでもらえてよかったあ」

 村の案内が終わって、今はみんなで温泉に入っている。普段は晩ご飯を食べてから温泉に入るけれど、今日はエルフのみんながこの村に到着ばかりだから先に温泉へ入ってもらっている。

 やっぱり疲れている時はご飯を食べる前に温泉へ入って身体を癒してからだよね。その分すぐに眠くなっちゃう気がするけれど。

「本当にここは良い村ですな」

「ありがとうございます。これも皆様のおかげですよ。ソラくんたちが来る前まではろくに作物も育たない小さな村でしたからな」

『うむ、すべてはソラのおかげだぞ』

「違うよ、クロウ。こんなに村が大きくなったのはみんなのおかげだからね。長老さんたちからいっぱい作物の種や苗をもらって、クロウやシロガネ、セリシアさんや村のみんなで一緒に頑張ったからこんなに大きくなったんだよ」

 万能温泉の力だけじゃない。みんながいっぱい力を出し合ったから、こんなに村が大きくなったんだ。

「……本当にソラ殿は子供とは思えないほどよくできた子じゃな」

「この村に来た時からよくできた子じゃったからのう」

 そうなのかな? でも長老さんと村長さんに褒められて嬉しい。

 前世では病気で周りの人にいっぱいお世話になったからかもしれない。

「そういえば、さっきはうちの娘が本当にすまなかった」

「そんなの気にしていないさ。子供が元気なのはいいことじゃないか。本当に良い村だよ」

「そう言ってくれるとありがたい」

 さっきローナちゃんがミリアルさんと挨拶をする時にエルフ特有の尖った長い耳が気になったのか、触らせてほしいとねだった。アリオさんとエマさんが慌てていたけれど、ミリアルさんは怒ることなくローナちゃんにその耳を触らせてあげていた。

 そういえばセリシアさんと初めて会った時も動く耳に触りたがっていたっけ。

 でも、アリオさんとミリアルさんも仲良くできそうでよかった。やっぱりみんなが仲良くしている方が嬉しいよね。



「おお、こいつはうまい!」

「ええ、野菜もお肉も本当においしいわ!」

 順番に温泉へ入ったあとは村の真ん中に集まって、みんなで晩ご飯を食べている。

 今日はエルフの里のみんなも一緒だから、いつもより賑やかだ。

「ふ~む、このクルックスの卵が絶品じゃな」

「ええ、里のものよりおいしいですね」

「私もそう思います」

 ここ数日でついにクルックスさんが卵を産み始めた。クルックスさんは安全な環境じゃないと卵を産まないらしいから、この村での生活に慣れてくれたみたいだ。

 クルコたちの卵を食べちゃうのはかわいそうな気がしたんだけれど、セリシアさんが教えてくれるにはオスがいない場所で産んだ卵は絶対に孵らないらしい。そういう卵は無精卵って言うらしいんだけれど、僕には難しくてよく分からなかった。セリシアさんもちょっとだけ説明を難しそうにしていたなあ。

 クルックスさんの卵はニワトリ卵の何倍も大きくて、一個だけで何人分もの料理ができる。今回はとっても大きな目玉焼きを作って切り分けて、塩とコショウで味付けをしてある。

『ふむ、言われてみると確かにそうだな』

『こっちの方が黄身の味が若干濃厚な気がするわね』

「う~ん、少しこっちの方がおいしいのかな?」

 初めて卵を食べた時にちょっとだけそう思ったけれど、その時はこの村で初めて食べる卵だからそう感じたのだと思っていた。だけど、エルフの里のみんながそう言うのなら、やっぱり味が少し違うのかもしれない。

「おそらくですが、こちらの村ではソラくんの温泉で育てたおいしい野菜を食べ、毎日温泉に入って暮らしているので卵の味もよくなったのかと思いますよ」

「確かに野菜がすごくおいしいですし、あの温泉に毎日入っているのは羨ましいですね……」

「なんとも贅沢だな……」

 セリシアさんたちの言う通りかもしれない。やっぱり健康的に育って産まれた卵のほうがおいしいのかな。

「それにこちらの肉もコショウが利いていておいしいですね」

「ああ、お土産としてもらったあのコショウは本当にうまかった。しかも2種類で微妙に味や香りが違って楽しめるのはいいな」

 コショウは成長の具合や皮を使うかどうかで白コショウと黒コショウに分かれる。

 黒コショウは香りが強くてスパイシーだから、焼いたお肉やサラダに使うとおいしい。白コショウは黒コショウに比べると香りがまろやかだから、スープやシチューなんかに使うってセリシアさんが教えてくれた。

 エルフの里のみんなが来ることを聞いていたから、コショウもサヴィードもお土産用にいっぱい作っておいたから、喜んでもらえるといいなあ。