「コケー!」
「あっ、クルックスさんだ」
みんなと一緒に帰ってきた黄色くて大きなニワトリさんみたいな鳥。エルフの里にいたクルックスという魔物だった。
アリオさんたちは他にも倒したイノシシを担いでいる。狩りは無事に終わったみたいだ。
「一羽だけですが傷付けずに捕獲することができました。もう少し必要なのでまた明日も探しに行く予定です」
『鳥のくせに飛べず、逃げ足だけは早いから困る』
『クロウがいるから近寄ってこなかったんじゃないかしら? 明日は私たちだけで行ったほうがいいかもしれないわね』
『ふんっ……』
どうやらクルックスさんは大きくなったクロウの姿を怖がっていたらしい。
確かに大きくなったクロウの姿は格好いいオオカミさんだから鳥さんのクロックスさんは怖いのかもね。
「やっぱり大きくて可愛らしいね」
「コケコー!!」
「うわっ!?」
『『ソラ!』』
「ソラくん!」
僕がクルックスさんに近付くと、いきなりクルックスさんがその鋭いクチバシを前にして僕の方へ向かってきた。
「怪我はありませんか?」
「う、うん。セリシアさん、ありがとう!」
「よかったです。エルフの里にいたクルックスは長年飼育されていたこともあって気性が穏やかですが、野生の魔物は凶暴なので迂闊に近付くと危険ですよ」
「わかった。気を付けるよ」
クロウとシロガネがクルックスさんの前に出て、一番近くにいたセリシアさんが僕に飛びついて助けてくれたおかげで怪我ひとつなかった。
確かに最初にこの世界へ来た時の森にいた魔物は凶暴だった。最近はみんなと一緒にいてずっと安全だったから、そんな基本的なことも忘れていたみたいだ。
『この鳥風情が……ひき肉にしてくれる!』
「コッ、コケ……」
「やめて、クロウ!」
クロウがその大きな右爪を振り上げたところでクロウを止める。
『ソラ、なぜ止める?』
「クルックスさんからしたら、いきなり住んでいた森からたったひとりでここまで連れてこられたんだから怯えているのは当然だよ。それなのに何も考えずに近付いた僕が悪いんだ」
僕たちの都合でいきなり誘拐してきたわけだからね。そんな中で僕みたいな子供が迂闊に近付いていったら、攻撃をしてくるもの当たり前だった。
「クルックスさん、いきなり連れてきちゃってごめんなさい。少しだけここにいてもらうけれど、森に帰りたかったら教えてね」
「コケ?」
クルックスさんに向かって頭を下げたけれど、やっぱりクロウやシロガネのように僕の言葉はわからないみたいだ。
『ソラらしいわね』
「そうだな、普通は魔物相手にそんなことは気にしないんだが、無理強いは良くないよな」
「しばらく村に滞在してもらって、それから決めてもらえばいいんじゃないかしら?」
村のみんなも賛成してくれた。
魔物の中でも人を襲う魔物もいれば、エルフの里みたいに一緒に暮らすこともできる。それなら無理やりじゃなくて、一緒に楽しく暮らせたらいいなあ。
『……そうだな。無理強いはよくないものであるな。ただし、ここで暴れるようなら容赦はせぬぞ』
「コ、コケ……」
「コケー」
「おいしいかな?」
「コケコケ!」
「良かったあ!」
おいしそうに野菜の切れ端を食べるクルックスさん。言葉はわからないけれど、満足そうに食べているからきっとおいしいのかな?
あのあと早速クルックスさんを僕たちがエルフの里に出掛けている間に作ってくれた小屋へ連れていった。グラルドさんが中心となって作ってくれた小屋の周りは木の柵で覆われていてとても広いから走り回ることができる。
あとでクルックスさんにあわせて過ごしやすい環境に整えてくれるみたいだ。
「本当は野菜の切れ端でもあげとけば十分段なんだけれどな。まあ、ソラのおかげで野菜には困っていないからいいけどよ」
クルックスさんは野菜ならなんでも食べるみたいだ。身体が大きいから僕よりも食べるみたいだけれど、万能温泉で野菜をいっぱい育てているからご飯には困らない。
エルフの里からいろんな種類の作物をもらったから、むしろ野菜があまりすぎないように畑に植える物を調整する必要があるって村長さんが言っていた。でも余った野菜は刻んで畑とかに撒いておくと畑にもいいみたいだ。
この辺りの土地は栄養があんまりないらしいから、そういったことをすると土が豊かになるらしい。
「鳥さんはとっても可愛いね!」
「そうだろう、ローナ! だけど危ないからあんまり近付いちゃ駄目だぞ!」
ローナちゃんも僕と一緒に柵の外からクルックスさんがご飯を食べる様子を見ている。さっきの件もあるから、大人の人以外は近付かないようにしないといけない。
とりあえず数日間様子をみてから柵の外に出してあげて森に帰るかクルックスさんに決めてもらうみたいだ。一緒にこの村で暮らしてくれるといいなあ。


