「うわあ~すっごい!」

『ほう、これはまたなんとも』

『なかなかやるわね』

 ミリアルさんが右手を前に出すと、突然大きな風が畑を巡った。そしてその風は茎や枝の隙間を抜けながら、その実だけをもぎ取りながら宙に浮かんでいる。

「相変わらずミリアルは風魔法がうまいわ」

『あそこまで緻密な風魔法はクロウには無理ね』

『……ふん、あんな細々とした魔法など使う気もせん』

「クロウの使う魔法はすごく大きいもんね」

『うむ、そうであろう!』

 魔法にもいろいろあるみたいだ。でも、畑の収穫をする時にあんな魔法があったら便利だなあ。

 なるほど、こんなに広い畑でも魔法があれば土を耕したり収穫も少ない人数でできるんだ。

 ミリアルさんが収穫した中でそのまま食べられる野菜をいくつか食べさせてくれた。

「このままでもすっごくおいしいね!」

「芋みたいな根菜はそこまで変わらないけれど、こうした実のなる野菜は刈り取った瞬間から一気に鮮度が落ちていくんだ」

「ええ、こうやって刈り取った野菜を直接食べることができるのは生産者の特権ですね。ソラくんの温泉の効果もありますが、本当においしいです」

 トマトのような赤い実を食べると、プチンと弾ける果肉の中から甘みとほのかな酸味が溢れて、みずみずしい味わいが口いっぱいに広がる。緑色のキュウリのような実を食べると、ザクッとした歯ごたえのあと、ほとばしる冷たくてみずみずしく青々しい香りと、ほのかな甘みが喉を通っていった。

 こんなに新鮮でみずみずしい野菜を食べたのは初めてだ。元の世界だと畑から直接野菜を収穫して食べるなんて経験はなかったからね。アゲク村の野菜もおいしかったけれど、このエルフの里にある野菜も本当においしい。

『ふむ、これは野菜の種類が異なるようだな』

『ええ、こっちの野菜もおいしいわ。できればこの野菜の種がほしいわね』

「もちろんです。果物の種と合わせて、こちらの野菜の種もお持ちください」

「やったあ! ミリアルさん、ありがとうございます」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。ソラくんのおかげで聖天の樹の穢れが少しずつ治ってきている。本当にありがとう」

 エルフの里のみんなが喜んでくれて僕も嬉しい。

 アゲク村のみんなも喜んでくれるかなあ。



「コケー!」

「おっきいニワトリさんだ!」

「こちらの魔物はクルックスというのですよ。肉はあまりおいしくなくて食べられないのですが、毎日栄養たっぷりのタマゴをたくさん産んでくれるので家畜として需要があります」

「鳥なのに飛べないのも面白いよな。おかげで柵さえあれば簡単に飼えのは助かるけど」

 セリシアさんたちに案内されて大きな柵で囲われている小屋にやってきた。

 そこには黄色くてもふもふとした大きなニワトリさんみたいな魔物がいる。少し太っているけれど、その様子がなんだか可愛らしい。

「触っても大丈夫?」

「ええ。クルックスは穏やかな気性をしているので大丈夫ですよ。ただクチバシは硬くて尖っているので気を付けてくださいね」

「うん!」

 たくさんいるクルックスの一羽にゆっくりと近付いていく。

「コケ?」

 この中で比較的小さいこのクルックスは僕が少しずつ近付いても怯える様子はなく、むしろこっちに近付いてくれた。

「うわあ~可愛いね!」

「コケ~!」

 ゆっくりとクルックスさんのお腹の辺りを触ると柔らかな羽毛に手が沈んでいった。そのままお腹や頭を撫でてあげるとクルックスさんもとても気持ちよさそうにしている。

 周りにいるクルックスさんも近くによってきて、なんだかとてもほのぼのした気持ちになってきた。

『シロガネの羽毛よりも気持ちが良さそうだな』

『……あら、そんなことはないわ』

「大きくなったシロガネの方が柔らかいよ」

『そうよね! さすがソラだわ』

 相変わらずクロウとシロガネはお互いに謎の敵対心を燃やしている。

 2人ともどっちもすごいから、他の誰かと比べる必要なんてないのにね。



「本当に綺麗な里だね」

 そのあとも引き続きエルフの里を案内してもらった。

 魔法を使って水を出したり家を建てたりと、この里は魔法をたくさん使って生活をしていることがよくわかった。

「そう言ってくれると嬉しいぜ。俺たちはここでのんびりと暮らしているだけであまり他の村や街には行かないからな」

「確かにエルフという種族は珍しいから他の種族に狙われやすいけれど、もう少し里の外に出たほうがいいと思うわね」

「面倒な争いごとに巻き込まれたくないってのがみんなの意見の大半だと思うぜ。セリシアみたいなやつの方が少数派だぞ」

「……分かっているわよ」

 エルフという種族の中でもいろんな意見があるみたいだ。

 病気で自由に動き回ることができなかった僕にとってはいろんな場所にも行ってみたいと思うけれど、その分危険もいっぱいあるんだろうなあ。