「お気に召してくれたようでなりよりです。儂らは時間が山ほどあるので、野菜の育て方や調理方法など、いろいろと研究をしておるのですよ」
「へえ~」
なるほど、エルフのみんなは長生きだから、野菜を育てたり料理の得意な人がいるみたいだ。
「デザートはルミエオレンの実もあるので、お腹いっぱい食べてくださいね」
「うん!」
『ありがたくいただこう』
『ええ、感謝するわ』
「ふう~お腹がいっぱい。ごちそうさまでした、本当においしかったです」
「うむ、たくさん食べてくれた方が儂らも嬉しいからのう。なにせ久方ぶりの客人じゃ」
「そうなんだ。あんまり人は来ないんだね」
「こちらから人里に降りることはあるのじゃが、この里に誰かを呼ぶことはほとんどないからのう。稀に森で迷い負傷した者を見つけて保護した時くらいじゃな」
それでセリシアさんが僕たちを連れて来た時、この里にいたみんなが驚いていたわけだ。
「ぜひ明日は皆様で里の中を見て回ってください」
「うん!」
『ふむ、エルフの里か。楽しみであるな』
『ええ、他の街とは違って面白そうね』
僕たちがおいしそうにご飯を食べている様子を微笑ましく見守っていたこの里の人たちはみんなとても優しい。ここに来る前はいろいろと心配していたけれど、そんな心配はしなくていいみたいだ。
だからこそ聖天の樹が治ってくれればいいんだけれどなあ……
「ほおっ、これが温泉というものか!」
「ふうむ、普通の風呂よりも気持ちがええのう!」
「しかも怪我を癒して呪いを解き、作物を育てる効果があるとはいったいどういう仕組み何だ……?」
晩ご飯を頂いたあとは万能温泉の本来の使い方をしてエルフの里のみんなと温泉に入っている。
シロガネはセリシアさんと一緒に入るみたいだ。それにこの里ではアゲク村よりも住んでいる人が多いから、男の人たちも何回かに分けて入る。
みんなとても気持ちが良さそうに温泉に浸かっているようだ。不思議そうに温泉のお湯をじっくりと見ている人も多い。
「普通の風呂とは異なり心地が良いのう」
「ここにはお風呂があるんだね?」
「ああ、水魔法を使って出した水を火魔法で温めるんだ。でもこっちの温泉の方が気持ち良いな」
ミリアルさんが僕の質問に答えてくれる。
アゲク村にはなかったお風呂だけれど、エルフの里にはあるみたいだ。なるほど、魔法を使ってお湯を沸かせるのはとっても便利だ。
『景色はこちらの方が良いな。聖天の樹と星空が同時に見えるぞ』
「うん。とっても綺麗だね」
温泉を設置した場所は少し開けた場所になっていて、空には綺麗な星空が見える。そしてその先にはさっき見たとても大きな聖天の樹が見えていた。
ここに来るまでの道中で見た景色も綺麗だったけれど、今見えている景色も本当に綺麗だ。
「ふああ……」
大きな欠伸が出てしまった。
今日もたくさん移動をして、その途中で盗賊に遭遇した。その後はエルフの里にお邪魔してたくさんのおいしいご飯をご馳走になって、たった一日の間にいろいろとあったこともあり、一気に眠くなってきた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うう~ん」
目が覚めると、そこにはいつものように大きくなったクロウとシロガネがいた。
昨日の夜に温泉へ入ったあとはおうちに案内してもらった記憶がうっすらとある。ここ数日間は野営をしていたこともあって、いつもより疲れていたから、すぐに寝ちゃったのかもしれない。
『おはよう、ソラ』
『おはよう。夜も特に大きな問題はなかったようだな』
「おはよう、シロガネ、クロウ」
シロガネとクロウは僕よりも早く起きていたらしい。
ここには魔物も入ってこられないみたいだけれど、いろいろと警戒してくれていたみたいだ。
「そうだ、聖天の樹はどうなったの!」
ぐっすり眠っていたから忘れていたけれど、昨日万能温泉のお湯をかけた聖天の樹はどうなったのだろう?
『窓を開けて外を見て見るといい』
『ふふっ、外の方はすでに騒がしいわね』
「えっ!?」
二人の言う通り、外の方がざわざわとしている。僕は起き上がってこの家の窓を開けた。
「……茶色くなっていた部分の一部が緑色になっているのかな?」
この家は木の上じゃなくて開けた場所の地面に建てられているみたいだ。窓を開けると、遠くの方に聖天の樹が見えた。
遠くからだとあんまり見えないけれど、茶色い部分が昨日よりも緑色に変わっているように見える。
『うむ。間違いなく昨日から色が変わってきているぞ』
『瘴気というものが浄化されているみたいね』
「本当! よかったあ」
僕にはあんまり見えないけれど、二人にはここからでもよく見えるみたいだ。
万能温泉のお湯は効果があったみたいでホッとした。


