「これで少しは良くなるといいなあ」
みんなで手分けをして聖天の樹の周りの地面と上の方にある変色した葉っぱへ万能温泉のお湯をかけた。
作物の時と同じで、万能温泉の効果が出るまでには少し時間がかかる。それにこの村に到着した時はもう夕方で、今は日が落ちて暗くなってきたから、これ以上今できることはもうなさそうだ。
「もしも変わらなくとも、ソラくんがここまで足を運んでくれたことにとても感謝しておりますよ」
セリシアさんはそう言ってくれるけれど、せっかくここまで来たのだし、効果があってくれると嬉しいんだけれどなあ。
「聞けばクロウ様とシロガネ様と一緒にかなり離れた地よりここまで来てくれたそうですな。どうか存分に疲れを癒してくだされ」
長老さんは優しくそう言ってくれた。どうやら僕たちを無理やり引き留めるようなことはないみたいだ。セリシアさんの言う通り大丈夫だとは思っていたけれど、ここへ来る途中に遭遇した盗賊みたいな悪い人もいるみたいだし、ちょっとだけ不安だったからほっとした。
「うわあ~! すっごくおいしそうだね!」
『ふむ、これは見事であるな』
『あらあら、おいしそうね』
村の方へ戻って晩ご飯をいただくことになった。
今日みたいに何かあった時は村の中心にテーブルや椅子を出して、外でみんなでご飯を食べるみたいだ。アゲク村と一緒で、みんなで食べるご飯ってなんだかいいよね。
テーブルにはたくさんの料理が並んでいる。それもアゲク村ではまったく見たことがない食材を使っていて、料理の方法も違うみたいだ。セリシアさんみたいに種族がエルフでも食べるものは人族と同じみたいだから、その土地ごとにいろんな料理があるのかな。
「それではソラくん、クロウ様、シロガネ様の来訪を歓迎して乾杯!」
「「「乾杯!」」」
みんなで手に持ったコップをぶつけ合う。乾杯の仕方はどこでも一緒みたいだ。
「うん、甘くておいしい! それにすごく冷たいよ!」
僕のコップに入っていた赤い液体は果物の果汁らしい。リンゴのようなブドウのような不思議な味がして、とても甘い。たぶんシロガネが水魔法で氷を作って冷やしたのと同じで、魔法を使って冷やしてくれたのかもしれない。
こんなに甘いジュースは初めてだ。元の世界のジュースよりも甘くてとってもおいしい。
『ふむ、これはいけるな』
『本当ね、初めての味よ』
小さくなったクロウとシロガネも机の上にあるコップから上手に果実のジュースを飲んでいた。僕もそうだけれど、背が低くて普通に座るとテーブルに届かないから、椅子の上にクッションを置いてもらっている。
「久しぶりの味ですね。こちらはこの辺りの森でしか採れないルミエオレンという珍しい果実なのですよ。皆様に気に入っていただいてよかったです」
「そうなんだ。本当においしいよ、セリシアさん」
『せっかくならこの果物の種をもらえるかしら?』
『うむ。ソラの力があれば、あの村でも育てられるかもしれぬ』
「ええ、もちろんです。他にもこの森付近でしかない作物もあるので、そちらもぜひお持ちください」
クロウとシロガネの言う通り、他の作物と同じで万能温泉の力があれば、コショウやサウィードとおなじようにこの地方でしか育たない作物でも育てることができるかもしれない。
「ソラくんは果物や作物を育てることもできるのですかな?」
同じテーブルに座っている長老さんが尋ねてきた。
「うん。僕が育てるわけじゃないけれど、あの万能温泉のお湯をかけると植物の生長が早くなるんだ。それに味もおいしくなるんだよ」
「なんと!?」
「それはすごいな!」
長老さんたちがすごく驚いている。改めて考えても、怪我を癒して穢れを取り除いたり、作物を育てる効果があって本当に万能だ。
あとで長老さんたちに確認してから、この里の畑にかけてみてもいいかもしれない。
「うわっ、こっちの料理も本当においしい! それにすごくいろいろな料理があるね!」
出てきた料理はいろんな野菜やお肉に魚、どれも見たことのない食材ばかりだし、いろんな調理方法で作られているみたいだ。
お肉はとても柔らかくて、噛むと口の中いっぱいにおいしさが溢れてくる。焼いたばかりのお魚の皮はパリッとして、フォークを入れるとその白い身からはじゅわっと脂が滲み、ほろほろとほぐれていく。野菜はとてもみずみずしくてシャキシャキで、それぞれの野菜ひとつひとつの旨みがとっても濃かった。
『ふむ、これはなかなか見事であるな』
『ええ。どの料理も本当においしいわ』
クロウとシロガネも絶賛している。本当にどの料理もとってもおいしい。


