エルフの里の入り口のツタのトンネルをくぐって先に進む。
そのトンネルを抜けると一気に開けた場所に出た。
「うわあ~すっごく綺麗だね!」
『ほう、これは見事であるな!』
『確かにこれは綺麗な場所ね!』
トンネルを抜けた瞬間、目の前に広がる光景に息をのんだ。澄んだ空気に満ちた森の奥、そこにはまるで夢の中のように美しいエルフの里が広がっていた。
高くそびえる木々の隙間から日の暮れ始めた暁色の光が降り注いで足元を照らす。風がそよぐたび、いろんな色の花々が揺れ、奥の方から小川のせせらぎが響いてくる。その川の水はまるで宝石のように透き通っていて、ここからでも川底の小石すら鮮明に見えるほどだった。
森の奥にある木の上に築かれた建物は、森と一体となるように作られている。滑らかな白木と蔦で編まれた家々は、大樹の枝に寄り添いながら自然と調和し、自然にあふれた幻想的な雰囲気を漂わせていた。
「いつ戻ってきてもこの里は変わりませんね。そしてあちらが聖天の樹です」
奥の樹と建物があるそのまた更に奥の方にひときわ大きな大樹があった。この距離からでもあんなに大きく見えるということは、近付いたらきっとものすごく大きいに違いない。
『実に見事な大樹だが、上の部分の葉の色が他とは異なるな』
『本当ね。あそこだけ茶色く色あせているわね』
「……はい。50年前にこの森の周囲で起こった瘴気の影響によって、あの樹は徐々に朽ちていくのです」
聖天の樹の葉っぱは上の方だけ周囲の鮮やかな緑色とは違って茶色くなっていた。どうやらあれが瘴気の影響らしい。
「んっ、もしかしてセリシアか?」
「ミリアル、久しぶりね」
エルフの里に入って、上に建物がある木々の方へ進んで行く。
人や大きな魔物は入ってこないから見張りは必要がないらしく、ここへ来るまでに誰とも会わなかった。セリシアさんがミリアルさんと呼んだ男性はとっても格好いいお兄さんで、これまでの村や街では見ない服を着ている。
セリシアさんと同じように背中に弓を背負っていて、もちろんその耳はエルフ特有の長くて尖った耳をしていた。
「むっ、人間の子供か。里に帰る際この森へ迷い込んだりでもしていたのか? それに魔物が2匹……ちょっと待て、この魔力はただの魔物ではないぞ!?」
ミリアルさんが最初僕の方を見て不思議そうな顔をして、そのあとクロウとシロガネを見てとても驚いた表情をする。
セリシアさんもそうだけれど、ミリアルさんもクロウとシロガネがただの魔物じゃないことがわかるみたいだ。クロウの方は大きな姿だったけれど、この世界にはもっと大きな魔物もいるらしいし、大きいから聖獣であるというわけではないのによくわかるなあ。
「ええ、こちらは聖獣様のクロウ師匠とシロガネ師匠です。いろいろとあってお二人に弟子入りし、この里までお越しいただきました」
「せ、聖獣様!? こ、これは失礼をいたしました!」
クロウとシロガネに向かって跪くミリアルさん。やっぱりこの里の人たちはセリシアさんと同じで聖獣を神聖視しているみたいだ。
『気にする必要はない』
『そうね。そこまで畏まらないでも大丈夫よ』
「は、はい!」
クロウとシロガネがそういうけれど、ミリアルさんはまだ跪いている。
「長老は家にいる?」
「ああ、今日は家にいるはずだ。たぶんいつもの会議をしているところだと思う」
「ありがとう、詳しいことはまたあとで話すわね」
「あ、ああ」
僕たちはセリシアさんについていく。
そのあともエルフの里の人たちは僕たちに驚きながらもみんなセリシアさんと僕たちを迎えてくれた。僕についてはみんな不思議な顔で見ていたから、もしかするとこの里に人族が来るのは珍しいのかもしれない。
セリシアさんの案内に従って、里の奥の方にあった大樹の太い木の幹にあるツタでできた階段を上っていくと、大きな家があった。ここがこの里の長老さんのおうちみたいだ。
長老さんの家に入ると広いお部屋に通された。長老さんの他にも何人かいて、話し合いをしていたらしい。
そこにいたエルフの人たちはおじいちゃんとおばあちゃんが多かった。若くて綺麗なセリシアさんが150歳と言っていたけれど、みんなはいくつくらいなのかな?
「聖獣様。この里の長老をしておりますヴァリンと申します。この度は我らがエルフの里まで足を運んでいただき、誠にありがとうございます」
『……クロウだ。ソラへの挨拶が抜けているぞ』
「こ、これは失礼しました! ええっと……ソラくんでよいのかな?」
「はい! はじめまして、ソラです」
「おおっ、礼儀正しい幼子じゃな。して、この子は一体……?」
長老さんたちがセリシアさんの方を見る。クロウたちはともかく、人族で子供の僕がここにいることが不思議なのかも。
「長老、ソラくんは迷い人です。そして聖天の樹に溜まってしまった瘴気を取り除けるかもしれません!」
「なっ、なんじゃと!?」


