『むっ、戦いが始まったようだな』
クロウの言う通り、僕たちの先の方で男の人たちの声が上がった。
その上を飛んでいるシロガネには何の動きもないから、セリシアさんは大丈夫だと思うけれどそれでも心配になってしまう。
『ふたりとも戻ってきたようだな』
「よかったあ~」
男たちの声がしてからしばらく経ったあと、空を飛ぶシロガネがゆっくりとこっちに戻ってくる。たぶんセリシアさんもこっちに戻ってきているのかな。
「お待たせしました。やはり盗賊でしたね。今はすべて拘束しております」
『セリシアひとりで問題なかったわよ』
「セリシアさんとシロガネが無事で本当によかったよ!」
『うむ、無事で何よりだ』
戦っていたセリシアさんに怪我はなさそうでほっとする。
「盗賊たちは一応生かしております。少し面倒ですが、近くの街まで連行しましょう」
『むっ、そのまま魔物のエサにしても良いと思うがな』
「ええっ!?」
クロウがいきなりとても物騒なことを言う。
「最初はそう思ったのですが、大した相手ではなく拘束できそうだったので、生かしております」
『そうね、ソラの教育上あまり良くないかもね。それに生きたまま街の衛兵に引き渡せばお金をもらえるのでしょう?』
「はい。相手が懸賞首の者であるならば、生きていた方がより多くもらえます」
「そ、そうなんだ……」
この世界では盗賊を生きたまま引き渡すとお金がもらえるらしい。
『うむ、それならばさっさと連れていくとしよう』
「はい。ソラくん、先に言っておきますが、彼らを治療しようとは思わないでくださいね。ソラくんがとても優しいことは知っていますが、やつらは善良な村人や商人を襲い、殺そうとします。ここで彼らに情けをかけようとすると、別の者が被害を受けることになるのです」
「う、うん。わかった!」
セリシアさんの言う通りだ。
正直に言うと、その盗賊たちの怪我くらいは万能温泉の力で治してあげてもいいかなとおもっていたけれど、もしも僕が盗賊たちの怪我を治したおかげで逃げられると、別の人が襲われちゃうかもしれないんだ。
「うう、痛え……」
「う、腕が……」
「さっさと歩け。このままここに置いていってもいいのだぞ」
元の道へ戻るとそこにはセリシアさんの倒した盗賊たちが拘束されていた。
盗賊たちの腕や肩にはセリシアさんが弓で射った怪我がある。街まで連れていくから足じゃなくて腕や肩を狙ったのかな。さすがセリシアさんだ。
セリシアさんは拘束した盗賊たちを連行しつつ、クロウとシロガネは小さいまま僕と一緒にその後ろを歩いている。たぶん僕に近付けないように配慮してくれているんだろうなあ。
アレンディールの森から一番近い街へ盗賊たちを連行する。盗賊たちの引き渡しは問題なく終わって、お金ももらえた。本当にこの世界では盗賊たちを捕まえると報奨金がもらえるみたいだ。
やっぱりこの世界は怖いなと思いつつ、僕たちは街を出て先を目指した。
「ここがアレンディールの森だね」
「はい。昼くらいにはここまで来るつもりだったのですが、盗賊たちが出たおかげでだいぶ遅くなってしまいましたね」
予定だと今日のお昼ごろに到着予定だったけれど、街まで寄り道をしていたから遅くなってしまった。それでもクロウとシロガネがすごく速く頑張ってくれたから、最初の予定よりは早いけれど。
『ふむ、だいぶ広い森であるな』
「そうですね。普通に入ると迷って出られなくなる者も多いです。それに加えてエルフの里には魔法による人や魔物除けの結界もあるので里までたどり着ける者はいないのですよ」
『なるほどね』
そんな結界もあるんだ。魔法って本当にすごいなあ。
「それでは私が先行しますので、そのままついてきてください」
4人で森の中に入る。
僕がこの世界に来た時のことをちょっとだけ思い出したけれど、今はクロウとシロガネ、セリシアさんが一緒にいてくれるからちっとも怖くはなかった。
セリシアさんは深くてなにも目印がない森の中をスイスイと進んでいく。まるで道が全部わかっているみたいだ。ここからは木がいっぱいあってシロガネに乗って空を飛んでいくことができないから、クロウの背中に乗せてもらった。
「ここが里の入り口です。皆さん、改めてここまで一緒に来てくれてありがとうございます」
森に入ってから数時間進んで行くと目的地の場所についたみたいだ。
僕の目には何もない空間に見えるけれど、セリシアさんが胸のペンダント外して前に突き出すと、そこに突然ツタでできた入り口が現れた。
「うわあ~すごいね! これも魔法なんだ!」
「はい。エルフの者はほとんどの者が魔法を使えるので、里の中では生活に様々な魔法を使っているのですよ」
『ほう、魔法を使って生活しているのか』
『面白いわね。私もエルフの里へ入るのは初めてだから楽しみだわ』
いよいよエルフの里に到着した。すっごく楽しみだ。


