「たった1晩だけだったけれど、なんだか寂しいね……」
「旅での出会いとはそういうものなのですよ。ですが、旅で出会った人とはまたどこか別の場所で再会することもよくあります。ヘーリ殿とはまた会うことがあるかもしれませんね」
「そうなんだ! また会えたらいいな~」
今までいろんな場所を旅してきたセリシアさんにはそういった経験があるみたいだ。
なんだかそういうのもいいなあ。
『さて、我らも先を進む準備をするとしよう』
『そうね。まずはソラの温泉で昨日の疲れを癒しましょう』
「うん!」
昨日は温泉に入ることができなかった。
僕の方は昨日ぐっすり寝たから疲れも完全に取れているけれど、クロウとシロガネはずっと動きっぱなしだったから疲れが取れていない。朝から温泉に入るのはちょっと贅沢な気持ちになる。
『さて、今日はこの辺りでいいだろう』
昨日や一昨日と同じように何度か休憩やお昼ご飯を挟んで、今日の目的地に到着した。
今日は山の麓にある森で野営をすることになった。
『村からだいぶ進んできたわね。あともう少しといったところかしら?』
「はい。ここまで来れば明日のお昼ごろには到着すると思います。まさか村からたったの3日半でアレンディールの森まで進めるとは思ってもいませんでした」
『ふむ、明日の昼頃か』
クロウとシロガネのおかげで予定よりもずっと早く到着することができるらしい。
いよいよ明日はエルフの里に到着する。セリシアさんの故郷がどんな場所なのか楽しみだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『……あら、ちょっと止まった方がいいわね』
「どうしたの?」
『あとで説明するわ。まずはクロウとセリシアにも止まってもらいましょう』
昨日の夜も特に大きな問題はなく、今日も順調に進んできたところで、空を飛んでいるシロガネから待ったがかかった。
下に降りてクロウとセリシアさんと合流した。
『この先にある道で武装した複数の人がいたわね。おそらく盗賊だと思うわ』
「ええっ!?」
「……なるほど。この道はアレンディールの森近くにある街へと続く道なので、そこを通る商人を待ち構えているのでしょうね」
ここまで僕たちは他の人に見られないように他の人が通る道から少し離れた場所を通ってきた。
僕は全然気づかなかったけれど、空を飛んでいたシロガネにはその道で待ち構えている盗賊が見えたみたいだ。
「ど、どうしたらいいのかな……?」
『この道を遠回りして戦闘を避けることも可能であるな』
「……そうですね。ですが次にこの道を通る者が襲われる可能性が高いです。シロガネ師匠、相手はどれくらいいましたか? もしもそれほど数が多くないのでしたら、私が排除したいと思います」
僕たちがその道を迂回することもできるけれど、そうすると次にこの道を通る人が襲われてしまう。セリシアさんはとても優しいから、その人たちを見捨てたくないみたいだ。
『空から見える範囲だと3~4人だったわね。だけどおそらく見えない範囲にも潜んでいる可能性もあるわ』
「なるほど……。どちらにせよおふたりのことは隠したいので慎重に様子を見ながら近付いて様子を見て、もしも私だけで対処できそうなら対処し、それが難しそうなら迂回して街へ行き衛兵の者に報告をするという流れでいかがでしょうか?」
『うむ。それなら問題ない』
『ええ、いいわよ』
様子を見ながら近付いて、セリシアさんが対処できそうなら対処するみたいだ。
「……やはり盗賊ですね。そしてこの程度なら問題なさそうです」
見つからないように少し迂回しながら、シロガネが発見した盗賊たちの横へ回り込んだ。僕の目には見えないけれど、目が良いセリシアさんはすでに盗賊たちの姿を捉えているらしい。
『何かあったら加勢するけれど、無茶だけは駄目だからね』
『うむ。我らの手を借りることを躊躇する必要はないぞ』
「ありがとうございます。もちろん無茶をするつもりはありませんのでご安心ください。それでは行ってきます」
「セリシアさん、気を付けてね!」
「はい。ソラくんはクロウ師匠のそばから離れては駄目ですよ」
「うん」
そう言いながらセリシアさんは背を低くして草むらの中に身を隠して進んでいく。
『私は何かあったらセリシアに加勢するからソラをお願いね』
『うむ、心得ている。相手がただの盗賊とはいえ、シロガネも十分に気を付けるのだぞ』
『ええ、もちろんよ』
シロガネは小さな姿になって、セリシアさんが危なくなったら加勢してくれる。
なにかあれば2人が持っている万能温泉のお湯で怪我を治癒できるとはいえ、すごく心配になってくる……


