『今日の目的地の川が見えてきたようね』

「うわあ~とっても大きいね!」

 休憩を挟みながら順調に午前中を進んで、午後も引き続き道のりを進んで行くと、とても大きな川が見えた。

 シロガネの背に乗って空を飛びながらここまで進んできたから、すごく綺麗な景色をずっと見て来られたけれど、この大きな川は空から見ると本当にすごい景色だった。

 元の世界とは違って、周りには家やビルなんかの大きな建物がひとつもないから、この大きな川と草原とその奥にそびえ立つ山がより広大に見えるのかもしれない。こんなに広くてすごい景色を見るのは初めてだ!

 シロガネが一度下の方へ降りて、クロウとセリシアさんと一緒にこのあとのことを相談する。

「このイグドルの大河はこの辺りでも有名な川です。もう少し進むと大きな橋があるので、そこを超えて少し進んだところで今日は野営をしましょう」

「こんな大きな川にも橋が架かっているんだね。本当にすごいなあ!」

『ふむ、人族の技術も侮れぬな』

 こんなに大きくて流れの速い川に橋があるなんてすごい。

 クロウも小さくなってシロガネの背に乗って何回か往復すればこの大きな川も超えられると思うけれど、僕がその大きな橋を見てみたいということもあって、その橋へと進んで行く。

 橋のある場所は大きな道もあって人が通る可能性もあるから、橋が見えてきたら用心してクロウとシロガネは小さな姿になる。その橋は立派で大きな橋で、少し先に馬車でこの橋を渡っている人が見えたけれど、重そうな馬車が何台かいっぺんに通っても大丈夫なくらい頑丈みたいだ。

「うわあ~すごいなあ!」

『思ったよりもしっかりとした橋なのね。確かにこれなら安心して渡れそうね』

「この川にはいくつか橋が架かっておりますが、この橋よりも大きな橋もあります。どの橋も長い時間を掛けて少しずつ作った物となりますね」

「へえ~この橋よりも大きな橋があるんだ!」

 この橋でも十分に大きな橋だけれど、これよりも大きな橋があるみたいだ。この世界は元の世界よりも文明が進んでないみたいだけれど、元の世界にはない魔法という技術があるから、それを使ったのかもしれない。

 みんなと一緒に楽しみながら橋を渡る。これくらい頑丈なら大きくなったクロウとシロガネでも大丈夫な気がする。



『さて、この辺りで良いか』

『ええ、ここまで来れば人も来ないでしょう』

 橋を渡って道を外れながら川沿いを進んできた。今日はここで野営をするみたいだ。

「クロウ師匠とシロガネ師匠のおかげで、ここまでとても早く進んでこられました。このペースでしたら明後日には到着するかと思います」

「予定よりも早いね!」

 確か最初はもう少しかかる予定だった。クロウとシロガネが本当に速かったんだろうなあ。

『ふむ、早いようなら何よりだ。さて、これほど大きな川がそばにあるわけだし、今日の晩ご飯は魚にするとしよう』

「はい。私もお手伝いします」

 今日の晩ご飯はこの川で捕る魚みたいだ。アゲク村の近くにも川はあるけれど、このイグドルの大河みたいに大きくはなかった。どんな魚がいるのか楽しみだなあ。



「すっごくおいしそうだね!」

「さすがはシロガネ師匠でした。これほどの大きな魚を一瞬で仕留めるとは!」

 僕たちの目の前には大きくてこんがりと焼かれたお魚さんがいる。

 シロガネが空を飛びながら川に急襲して大きな魚をかぎ爪で鷲掴みしてきてくれた。すごく速かったから、たぶんお魚さんも何が起こったのか全然わからなかった気がする。

 その大きな魚をセリシアさんが綺麗にさばき、鱗や内臓なんかを取り除いてそのまま焼いて塩を振りかけたものがこれだ。

『……雷魔法を使って良ければ魚など山ほど仕留められたのだがな』

『そんなに多くの魚を獲っても私たちだけじゃ食べられないわ。あまり無暗に命を取るのは駄目よ』

『ああ、もちろん分かっている』

 クロウの雷魔法を使えば、近くにいるお魚さんを一気に獲ることができたらしいけれど、そんなにあっても僕たちだけで食べられない。

 シロガネの言う通り、狩りをする時には必要な分だけにしないと駄目だよね。いつもシロガネと張り合っているクロウだけれど、そういうことは僕以上に分かっているみたいだ。

「クロウの火魔法のおかげでこんなにおいしそうな焼き魚ができたんだよ」

「ええ、クロウ師匠のおかげです。本来の野営では火を起こすだけでも一苦労ですからね」

『……うむ』

 もちろん僕たちもクロウとシロガネがいてくれるおかげで快適に野営ができていることは分かっている。こんなにおいしそうなご飯が食べられるだけでとっても贅沢なことなんだよね。

「うん、とってもおいしい!」

「香ばしく焼き上げられた皮がパリッと裂け、その中からふっくらとした白身が現れますね! 脂がとてものっていて、ほどよい塩気と本当によく合います」

 焼きたての魚から立ち上る真っ白な湯気と香ばしい匂い。柔らかい身からはジューシーなお魚さんの旨みが溢れてくる。

『たまには魚もいいわね』

『そうであるな。村に戻ったあとも定期的に魚は獲ってきても良いかもしれぬ』

 シロガネとクロウもすごくおいしそうに焼いた魚を食べている。

 確かにお肉もとてもおいしいけれど、焼いた魚もとってもおいしいよね。塩だけでもお魚さんのおいしさが十分に伝わってくる。

 あとは醤油があれば完璧だったなあ。