「……そうですね。クロウ師匠の言う通り、私がそれを保証することはできません。もちろん里の者がそんなことをすることはないと思うのですが、もしもソラくんが聖天の樹の穢れを取り除くことができ、それに長い時間を要するのであれば里の者がソラくんにそれを強いる可能性もないとは言い切れません」

「う~ん、さすがにそこまで心配する必要はないと思うけれど……」

『エルフは高潔な種族ではあるが、里の象徴であるという樹が関わるのであれば、どうなるのかはわからない。エルフという種族は魔法に長けている者が多いし、本気で我らと対立するとしたら、ソラを守れるか怪しいところだ』

『そうね……里にどれだけの人が住んでいるのかわからないけれど、セリシアレベルの魔法の使い手が何十人もいるのならさすがに厳しそうね』

 いつもは自信満々のクロウやシロガネだけれど、さすがにセリシアさんみたいな魔法の使い手が何十人もいたら厳しいみたいだ。

 エルフという種族はそのほとんどが魔法を使えるんだっけ。それにセリシアさんみたいに長生きしていたら、魔法を練習する時間もいっぱいあってすごく強そうだ。

「……見ての通り私は里の中でも変わり者のエルフで、熱心に聖天の樹を癒せる者を探していたわけではないのですが、それでもその可能性を見つけたならばなんとかしたいという気持ちはあります。私よりも長くあの樹に寄り添って生きてきた里の者の気持ちは間違いなく私以上だと思います」

『セリシアよりも長生きしているエルフも多いのね』

「はい、私よりも年上の方が多いくらいです。聖獣であるクロウ師匠とシロガネ師匠が一緒であれば、皆様に害を与えるようなことはないかと思うのですが」

 そういえばセリシアさんたちエルフの人はクロウやシロガネのような聖獣を敬っているんだっけ。

「セリシアさんの故郷ならきっと大丈夫だよ! 今だってやろうと思えばこっそり僕だけを攫うこともできたかもしれないのに、こうやって真っすぐにお願いしてくれているし、これまで万能温泉が使えることを知らなかった間も僕たちにとっても優しかったからね!」

「ソラくん……」

 うん、これまでずっと僕や村のみんなに優しくしてくれたセリシアさんとその家族がいる故郷の人たちがそんなに酷いことをするなんて僕には考えられない。

『……まあ、ソラならそう言うと思っていた。だが、少しでもソラに危険が迫るようであれば、ソラを引きずってでもその場から離れるからな』

『そうね、駄目そうならすぐに戻ってくるわよ』

「クロウ師匠、シロガネ師匠!」

 クロウとシロガネは僕がそう言うのをわかっていたみたいだ。2人にはいつも心配を掛けてばっかりだけれど、2人が一緒にいてくれるとすごく頼りになる。

「ここからエルフの里までは結構な距離があるんだよな。ちょうどいろいろと収穫ができたところでよかったぜ。エルフの里は一度見て見たいとは思うが、俺がついていっても足手まといになっちまうか」

「うむ、我々は皆さんの帰りを待つとしよう。食料は干し肉や野菜、小麦粉などもありますからな」

「アリオ殿、エルダ殿!」

 アリオさんと村長さんも僕たちを送り出してくれるみたいだ。

「皆様、本当にありがとうございます!」





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「それでは皆様、お気を付けて!」

「怪我しないようにな!」

「ソラお兄ちゃん、気を付けてね! いってらっしゃい!」

「うん、行ってきます!」

 翌日、早速僕たちはセリシアさんの故郷であるエルフの里があるアレンディールの森へと出発した。

 村長さんやアリオさん、ローナちゃんや村のみんなからの見送りを受けて、アゲク村を離れる。村のみんなが手を振って僕たちを見送ってくれて、なんだかとても嬉しくなった。

「これほど早く出発させてくれるとは……本当に皆様に感謝しなければなりません」

『ちょうど収穫が一区切りしたところであったからな』

『ある意味ではあのタイミングで良かったかもしれないわね』

 聖天の樹を穢す瘴気の進行は今すぐに癒さないといけないわけじゃないらしいけれど、僕やセリシアさんがそれを気にしながらこの村で作業をするのは良くないと、昨日村のみんなにも話をしてすぐに準備に取り掛かった。

 ここからアレンディールの森はクロウとシロガネでも数日はかかるから、しばらくこの村で万能温泉が使えなくなってしまう。ただ、麦やコショウはちょうど収穫をしたばかりだから、新しい麦や野菜を植えるのは僕たちが帰ってくるまで待つらしい。

 温泉がない間は狩りをしなくてもいいように、昨日中にたくさんの魔物をセリシアさんがいっぱい狩ってきてくれた。村の周囲には大きな壁も完成したし、今まで以上に安全だから、僕たちは安心してアゲク村を離れることができる。

『さて、それでは行くとしよう』

『ソラ、しっかりと手綱を持っていてね』

「うん! シロガネは苦しくない?」

『ええ、大丈夫よ』

 今回は前回の街への道よりも長いため、グラルドさんが大きくなったシロガネの首につけるための手綱を作ってくれた。これがあればずっとシロガネの身体に抱き着いているよりは楽になる。

 セリシアさんも長旅ということで、今回は自分の足じゃなくてクロウの背中に乗ってもらう。セリシアさんは身体能力強化の魔法を使えるから、クロウが速く走っても振り落とされることはないみたいだ。