「黒コショウは香りが強くスパイシーなので、焼いた肉などの強い味によく合います。白コショウは少しまろやかな味なので、スープや魚などとよく合いますね」
「なるほどのう、料理や食材によって使い分けるわけか」
「はい。どちらもお互いの特徴をより引き出すために黒コショウは粗めに砕いて、白コショウは細かくしておいた方が良いでしょう」
「セリシアさんはとっても物知りだね!」
「たまに故郷へ戻りつつ、いろいろな場所を巡ってきましたからね。こういった知識を蓄えるのは好きなのですよ」
黒コショウと白コショウで大きさを変えるとさらに味が変わるみたいだ。本当にセリシアさんはすごいなあ。
コショウや他の作物の育て方にもすごい詳しかったし、いろんな土地を旅しながら勉強してきたみたいだ。
「セリシア殿にはとてもお世話になっているわい。本当にありがたいのう」
「こちらこそ、大変お世話になっております」
この村に受け入れてくれた村長さんや自分のことだけじゃなくてこの村をたくさん手伝ってくれているセリシアさんには僕たちもとてもお世話になっている。
やっぱりみんなには僕のことを全部話しておきたいと改めて思った。またクロウとシロガネに相談をしてみよう。前よりも村のみんなやセリシアさんとより仲良くなれたと思う。
「……というわけで、僕は別の世界から来た迷い人っていうらしいんだ。でも僕はまだ幼いうちに病気で死んじゃったから、あんまり元の世界の知識とかはないんだ」
「「「………………」」」
クロウとシロガネに相談をして、村のみんなとセリシアさんには僕の秘密を話すことに決めた。
2人は僕がより危険になるからあまり話す必要はないって言っていたけれど、僕たちに良くしてくれたみんなに隠し事をしたくなかったから、みんなへ話すことに決めた。
村長さん、アリオさん、ローナちゃん、エマさん、グラルドさん、村のみんなは黙って僕の話を聞いてくれた。
「……う~ん、その迷い人っていうのはよく分からねえが、少なくともソラが俺たちの命の恩人であることは変わらねえってことだな」
「ああ。それにソラくんやクロウ様とシロガネ様のおかげでこの村に立派な壁ができて、毎日うまいご飯を腹いっぱい食べられることになった。もちろん、あの温泉のことと同じで他の人には話さないと約束するぜ!」
そうか、そもそも迷い人というものがどんな存在なのかわかりにくいのかもしれない。僕だってこの世界に来なかったら、別の世界があるなんて信じられなかった。
それでもアリオさんたちは僕を僕として見てくれているみたいだ。
「うむ。まだ幼いのに本当に苦労したのじゃな。それなのにこんなに優しい少年に育つとはご両親もさぞ愛情を持って育ててくれていたのじゃろう……」
「ええ、本当に……。ソラくん、辛いことがあったら遠慮なくおばさんに相談してね」
「今は自由に走れるようになったし、クロウとシロガネも一緒にいてくれるから大丈夫だよ!」
どちらかというと僕が迷い人であるということよりも、これまで病気であんまり動けなかったことと、両親と幼いうちに別れてしまったことに対して同情してくれているみたいだ。
村長さんやエマさんも本当に優しい。だけど今の僕にはクロウとシロガネや村のみんながいてくれるから寂しくない。
『ふむ、予想はしていたが、やはり迷い人のことは知らなかったか』
『迷い人に興味があるのは一部の者だけだからね。それよりもあの特別な力を持った万能温泉をすでに見せている時点で今更かもしれないわ』
確かにあの万能温泉の力をすでに見せているし、今更なのかもしれない。それでも僕にとってはようやく胸にあったつかえが取れたみたいだ。これで優しい村のみんなに秘密にしていることはもうなくなった。
「………………」
ただ、僕のことを話したあとに唯一セリシアさんだけがずっと無言で万能温泉を見ながら考え事をしている。
セリシアさんには村のみんなにはすでに見せたように、万能温泉をいろんな場所に出したり消したりして、今までに確認できたこの温泉の効果を教えてあげた。
やっぱり、自分にだけこの温泉のことを秘密にされていたから怒っているのかなあ……?
「……ソラくん、この万能温泉という魔法とは異なるスキルはソラくんの思った場所へ自由に出すことができるのですね」
「うん。森の中や街に行った時の草原でも出すことができたよ。僕が設置した場所から遠くに離れると勝手に消えちゃうけれどね」
「逆を言えばソラくんが近くにいれば、どこにでもあの特別な効果を持つ万能温泉を出すことができるということですね。そしてクロウ師匠が自力で回復できなかった傷でさえも癒すことができ、シロガネ師匠が自力では解けなかった呪いすらも解除することができたと……」
『うむ。我だけでなく、そこの人間が受けた瀕死の怪我でさえも命を繋ぐことができた。おそらく死んでさえいなければどんな傷でも回復することができるかもしれぬ』
『あの強力な呪いをなんのリスクもなく短時間で解除できたことには本当に驚いたわね。時間を掛ければどんな呪いでも解除することができると思うわ』
「………………」
2人の言葉を聞いてセリシアさんはまた考え込んでしまった。どうやら秘密にしていたことを怒っているわけではないみたいだ。
「ソラくん、皆さん、お願いがあります!」
そう言いながらセリシアさんは僕に向かって頭を下げた。


