「おお、ソラ、シロガネ様。それにローナも来てくれたのか!」

 僕とローナちゃんとシロガネが麦畑の方へ行くと、すでに村の人が大勢集まっていた。

 アリオさんは相変わらずローナちゃんの前だとデレデレしている。

『随分と立派に育ったものね』

『うむ。これだけ早く成長するならば、余計な虫に食われたり、病にかかったりすることもないであろう』

「ええ。まさかこれほど立派な麦がこんなに短期間で育つとは驚きました」

 クロウやセリシアさんもいる。みんなで一面に広がったこの麦を収穫するみたいだ。

 最初は緑色の芽が出て、それがぐんぐんと伸びて今では黄金色に変わり、一粒一粒にしっかりとした実が詰まっている。風が吹くと実った麦畑が波立つ海のように揺れて、ザアザアと葉のこすれる音がしてくる。

 野菜が立派に実った時も感動したけれど、これほど広い麦畑がこんなに立派に育ったことにも驚いた。短い期間とはいえ、種から芽が出てから麦踏みをして、そこからぐんぐんと伸びて色が緑色から黄金色に変化しているのを全部見ているからかな。

 実際にはこの何倍、何十倍も時間がかかるんだから、それを一から育てている人は僕の何倍も感動して嬉しい気持ちでいっぱいになるんだろうなあ。

「……麦ってそんなにおいしいの?」

「ふふっ。このままじゃ食べられないのよ、ローナ。麦は粉にしてから焼くとパンになるのよ」

 一面に広がった麦畑だけれど、この麦の実をそのまま食べるわけじゃない。確かにこのままの茶色い実だけだったら、さっきまで収穫していたトマトやダイコンなんかの方がおいしそうだ。

 僕も麦から小麦粉ができるのは知っているけれど、実際にどうやってこの茶色いものからあの真っ白い小麦粉ができるのかは知らないなあ。エマさんも言っているけれど、確かその小麦粉を水とかと混ぜて生地を作ってから焼くことで、あのふんわりとしたパンができるんだよね!

「パン?」

「温かくて柔らかい食べ物だ。とはいえ、実際にパンが食べられるまでにはもうちょっとかかっちまうがな」

「この村で焼き立てのパンが食べられるようになるとは本当に嬉しいことじゃのう。他の料理を作ることもできるし、なにより麦は保存が効くため有事の際の備蓄となるし、お金に換えることもできるのじゃ」

 村長さんや他の人たちも嬉しそうにしている。

 なるほど、冷蔵庫なんかもない世界だし、保存が効く小麦粉だと腐ってしまう野菜よりも小麦粉の価値は高いのかもしれない。それに小麦粉はパンを作るだけじゃなくて、麺とかお好み焼きとかもできるんだよね。いろいろと楽しみだなあ。

「さて、それではいよいよ収穫じゃ」



「うわあ~すごい!」

 セリシアさんが風魔法を使うと、鋭い風の刃が地面を這うようにして麦が一気に根元から刈られていく。

「……やっぱり魔法ってのはすげえもんだな」

「お、俺たちも負けちゃいられねえぜ!」

 向こうの方ではみんながセリシアさんに負けじと鎌を使って麦を刈り取っているけれど、明らかにセリシアの風魔法の方が早い。

「セリシアお姉ちゃん、格好いい!」

「ありがとう、ローナちゃん。でも魔法を使っている時は危ないから離れていないと駄目ですよ」

「ほら、ローナ。こっちで大人しく見ていようね」

 ローナちゃんがセリシアさんに近寄ろうとしたところでエマさんに止められる。

 確かにセリシアさんが魔法を使っているところはとっても格好いいから気持ちは分かるなあ。

「ローナ、お父さんも頑張っているぞ!」

「お父さんも頑張ってね~!」

「うおおおおお、やるぞおおお!」

 ローナちゃんの声援でアリオさんがすごくやる気を出している。でも残念ながらセリシアさんの風魔法の方が全然早かった。

『くっ、我の爪では麦の実ごと刈り取ってしまうな……』

『私の魔法も難しいわね。ここは他のみんなに任せましょう』

 クロウとシロガネは麦を刈り取る作業を手伝えないみたいだ。

 僕も鎌を持って刈り取り作業をするのは止められたし、大人しくみんなが刈り取ってくれた麦を集める作業を頑張ろう!



 あんなに広かった麦畑をたったの一日で刈り取ることができた。これもセリシアさんのおかげだ。風魔法を使ってたった一人で半分以上の麦を刈り取っていたもんなあ。

 刈った麦は方向を揃えて束にして紐で縛る。次は麦の上の方に育っている実を集める作業だけれど、それをする前にやることがあるらしい。

「それではクロウ様、セリシア様、よろしくお願いします」

『うむ、任せておくがよい』

「ク、クロウ師匠に置いていかれないよう頑張ります!」

 クロウの火魔法とセリシアさんの風魔法を使って、刈り取った麦を乾燥させなければいけないらしい。

 本当なら1~2週間は天日干しするらしいけれど、家を建てる時に使っていた魔法を使うことで、すぐに乾燥させることができるようだ。

『……あまり役に立てないのも辛いものね』

「シロガネはお水や氷を出せるからすごいよ!」

「シロガネちゃんはすごいもん!」

『ふふっ、ありがとうね』

 いつもみたいにローナちゃんに抱き抱えられているシロガネがそんなことを言うけれど、たまたま麦を収穫する作業では手伝えることがなかっただけで、普段は村のことをたくさんしてくれているからね。

 村のみんながいくらでも飲めるように水魔法で飲み水を出してくれているし、シロガネが出してくれた氷のおかげで、肉や野菜なんかを冷やしておいしく食べたり保存もできる。

 獲物を狩ってきてくれたり、空を飛んで遠くの森から木材を運んできてくれて、クロウもシロガネも本当にすごいよ。