「うわあ~すっごいね!」
「う~む、魔法というのはとんでもないものだ……俺たちが何人かでやるよりも何倍も早いとはな……」
みんなで麦踏みをしたあとは他の畑作業は村のみんなに任せて、僕たちの家を建てている場所へ移動してきた。
今は午前中にシロガネとセリシアさんが森から持ってきてくれた木を家の材木に加工しているところなんだけれど、僕の隣にいるグラルドさんもすごく驚いている。
『こっちはこれくらいでいいかしらね。あとは任せるわよ』
「はい、シロガネ師匠!」
シロガネは水魔法を使って鋭い水の刃を作り、大きな木を大雑把に切っていく。そしてシロガネが切った木を魔法で身体能力を強化したセリシアさんが細かい家の木材の形に整えていく。
2人が魔法を使って手分けして作業をすることによって、すごいスピードで家の材料である木製の板が次々と出来上がっていった。
『よし、これでいいだろう。次を持ってきてくれ』
「は、はい!」
「こちらも本当ならばかなりの時間を必要とするのだがな……」
出来上がった木の板はクロウが火魔法を使って乾燥をさせている。
さっきグラルドさんに聞いたけれど、切ったばかりの木は根っこから吸い上げてきた水分をいっぱい含んでいるらしい。もちろんそのまま木材を使っても家を建てることはできるけれど、乾燥させてから使った方が反りやねじれなんかがなくて長期間使える家になるって教えてくれた。
少なくとも何週間か乾燥させる時間も魔法によって短縮できるのだから、本当に魔法は便利だよね!
「グラルド殿、こちらでいかがでしょうか?」
「うむ、これで大丈夫だ。それではこれらを組み立てていこう」
「はい」
ここからはグラルドさんの指示で本格的に家を立てていく。セリシアさんが家の支柱となる大きな支柱を中心に固定して、村のみんなの力を合わせてどんどんと家の形になっていった。
今回建てているのは僕とクロウとシロガネが住む家になる。セリシアさんには申し訳ないけれど、先に僕たちの家を優先してもらい、この家が完成したら今僕たちが使わせてもらっている家でセリシアさんに生活してもらう予定だ。
家を建てるのは僕じゃなにも手伝えないけれど、この様子ならすぐに完成してしまいそうかも。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし、これで完成だ!」
「「「おおお~」」」
あれからたったの2日後。
特に大きなトラブルも起きず、セリシアさんもこの村で生活を初めて多少は慣れてきた頃に僕たちの家が完成した。
「すっごく大きな家だね!」
僕たちの目の前にあるのは立派な木製の家で、僕たちが借りていた家の倍以上に広くて大きかった。……というか、村長さんの家よりも大きい。
『ふむ、これは見事であるな』
『ええ。前の家よりも広くてとても立派ね』
「クロウ様とシロガネ様にそう言っていただき、嬉しく思います。これもシロガネ様とセリシア殿が良い木材を手に入れてくれたおかげです!」
シロガネとセリシアさんが森の奥から手に入れてくれた木は家を建てる素材としてはかなり立派な木だったらしく、グラルドさんがとても張り切っていた。
「中はとても広いですね。これなら師匠たち本来の姿でも快適に過ごせそうです」
家の中は広くて高い部屋になっている。これなら2人とも元の姿で家の中を快適に動くことができそうだ。
「ああ。これもセリシア殿が手を貸してくれたおかげだ。俺たちだけでは素材があってもこれほど大きな家を建てることができなかっただろうな」
「そうだね。セリシアさん、ありがとう!」
グラルドさんの言う通りとても力があって魔法を使えるセリシアさんがいなかったら、こんなに大きな家をこの短時間で建てることはできなかったと思う。本当にセリシアさんのおかげだ。
『そうね。とても助かったわ』
『うむ、感謝しているぞ』
「と、とんでもないです! 皆さんのお役に立つことができて光栄です。私の方こそ、師匠たちの素晴らしい魔術を間近で学べて嬉しいです!」
クロウとシロガネに褒められてセリシアさんも顔を赤くして嬉しそうにしている。
「テーブルや家具などもありますので、こちらもどうぞ皆さんでお使いください」
家の中には大きなテーブルや椅子、物を入れる箪笥みたいな家具もあった。これまでの家には家具なんてなんにもなかったからすごいや。
それにちゃんと僕の背に合うくらいの高さにしてくれているからとっても嬉しい。
「……うちよりも随分と立派なもんだぜ」
「焦らずとも、村の皆の分も作ってやるからもうちっと待っていてくれ。それにしても、身体が自由に動かせるということは気持ちが良いものだな」
アリオさんが羨ましそうにしている。確かに村長さんの家にもこんなに立派な家具はなかった気がする。グラルドさんは身体が良くなって張り切ってくれたらしい。
「うむ。セリシア殿の家や収穫した作物を保管しておく小屋も必要じゃからグラルドには頑張ってもらうが、あまり無理をしてはいかんぞ」
「ああ、もちろんだ。だが、あの温泉もあるし、毎日うまい飯を腹いっぱい食えるんだから、以前よりも遥かに快適だな。他にも収穫した麦を粉にするための道具も必要だし、楽しくなってきたぜ!」
最近はいろんな物をずっと作り続けてくれたグラルドさんだけれど、その表情はとても明るい。やっぱり好きなことができるのは嬉しいみたいだ。


