「ええ~と、クロウ師匠、シロガネ師匠。私の記憶が正しければ、昨日こちらの畑にこんな立派な野菜は実っていなかったと思うのですが……」

 無事に村の周囲の壁が完成したあと、まだ日が暮れるまでに少し時間があるから、みんなで今ある畑を拡張することになった。

 昨日セリシアさんに村の案内をした時に畑も見てもらったから、今日になって一気に成長した畑を見てとっても驚いている。

『これもあの温泉の力よ。あの温泉のお湯を植物に与えると成長が早まるの』

「……っ!? そ、そんなことがあり得るのですか!? 体力や魔力を回復するうえに植物の成長を早めるなんて……」

『それに加えて浄化の力もあるぞ。あの温泉の湯を汲んで服などを浸せば汚れが取れるのだ』

「じ、浄化の力まで……。そういえば、なんだか昨日よりも髪がサラサラになって肌もツヤツヤしているような……」

「うん、髪の毛もサラサラになるよね!」

 肌はあんまり意識をしたことがなかったけれど、あの万能温泉のお湯で頭を洗うと髪の毛がサラサラになる。たぶん浄化の力だとおもうけれど、元の世界にあった石鹸やシャンプーやリンスがなくても、温泉のお湯で身体を洗えばすっきりするんだよね。

「あの温泉はいったい……」

『私たちにも詳しいことはわからないわね』

 うん、なにせ実際にこの能力を授かった僕にも詳しいことはわかっていない。なぜかこの温泉の使い方や効果は感覚で分かっていたけれど、どうしてこの異世界へやってきて、この能力を授かったのは謎だ。

「……浄化の力。あの、もしかしてこの温泉に浸かれば呪いなども解けるのでしょうか?」

『ええ、それについてはすでに確認ができているわ』

「そうなのですね……」

 セリシアさんは腕を組みながら少し考え込んでいるみたいだ。

 呪いを解呪できることはすでにシロガネが温泉に浸かって実際に経験しているもんね。

「……本当に不思議ですね。正直に言いますと、この村に来た時はどうしてこれほどの大きな壁を作っているのかと思っていましたが納得できました。確かにこの温泉を求めてこの村に押し寄せてくる者は多いでしょう。もちろん絶対に私もこのことは他の者に話しません!」

『うむ、そうしてもらおう』



「ウインドカッター!」

「うわあ~すっごい!」

「セリシアお姉ちゃん、格好いい!」

 セリシアさんが風魔法を唱えると、地面に沿って見えない風の刃が走り、ボウボウだった雑草が一気に刈れた。

「……こいつはすげえ。本当に魔法ってのは便利だぜ」

 アリオさんもすごく驚いている。

 やっぱり魔法はすごいなあ。

『見事なものだな。我の魔法ではそこまで細かな芸当はできぬ』

『私もね。魔法の調整が難しそうだわ』

「ありがとうございます! ですが、私のほうこそ師匠たちのような強力な魔法を放つのにはまだ修業が足りません」

 クロウやシロガネの魔法は威力がすごい分、細かい調整が難しいのかな。

 クロウとシロガネがセリシアさんに魔法を見せてあげた時はすっごく感動していた。僕や村の人も2人の魔法を見た時はびっくりしたもんね。



『さて、こんなものでよいだろう』

「お疲れさま、クロウ!」

 元々の畑の隣に生えていた雑草をセリシアさんが刈ってくれたあとはみんなで大きな石や木の根なんかの邪魔な物をどかす。セリシアさんやクロウやシロガネはとっても力持ちだから、これもすぐに終わった。

 そのあとは土を耕して固まっている土を細かくして柔らかくするらしい。土を耕すことで作物が育ちやすくなるんだって。

「土を耕すのはクロウ様が一瞬でやってくれたし、この短期間で村がどんどんと良くなっていくな」

 クロウが元の大きな姿に戻って、その大きな爪で地面を何度かひっかくだけで、みんなが鍬を使って耕すよりも早く土を柔らかくできた。

「さて、新しく作ったこっちの畑には小麦を植えるぞ。まさか村でパンが食えるかもしれないとはなあ」

「そういえば、これまでに小麦は育ててこなかったんだね?」

 ふと思ったことを聞いてみた。これまでこの村では野菜しか育てていなかったみたいだ。

 街ではパンみたいな小麦を使った食べ物が売っていたし、小麦があればいろいろできそうなのに。

「うむ。実は何度かミアの店から買った小麦を育ててみたことはあったのじゃが、すべてうまく育たなくてのう……」

「この辺りの土質じゃあ、根菜か育ちやすい野菜くらいしかうまく育たなかったんだよ」

「そっかあ……」

 そういえばこの村の付近はそんなに自然や土が豊かじゃなかったんだっけ。

 元の世界だと野菜を育てる時に肥料を使っていたと思うんだけれど、この村じゃ使っていなかったみたいだ。というか、万能温泉が肥料みたいなものなのかな。

「麦は私の里でも作られておりました。収穫した後も結構大変なのですよね」

「うむ。様々な道具も必要であるからな。今はグラルドが街で買ってきたものを使っていろいろと作っておるぞ。あやつも物作りが好きじゃから楽しそうじゃ」

 街へ行った時に麦を収穫した後のことも考えていろんな道具や材料を買ってきてある。

 この村ではドワーフのグラルドさんが道具を作ったり整備してくれるみたいだ。村の壁もグラルドさんが主導で作ってくれて、とっても忙しそうだったけれど、腰を悪くしてあんまり大きな物を作れなくなってしまった時よりもすごく楽しいって言っていたなあ。