「それじゃあ、みんなが無事に戻ってきたことと、この村を訪れてくれた客人に乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 みんなが温泉に浸かったあとは村のみんなで集まって宴会が始まった。

 いつもは晩ご飯を食べてから温泉に浸かっているけれど、今日は僕たちが疲れていたのと、僕たちがこんなに早く村まで帰ってくるとは思っていなかったから晩ご飯の準備ができていなかったんだよね。

 いつものように村の真ん中に集まって、地面に座る。今日は村のみんなだけでなくセリシアさんがいて、みんなで歓迎をしている。

「おおっ、これはとても美味ですね! これほどのお肉は貴族でもほとんど食べられませんよ!」

『ふっふっふ、我が倒したクリムゾンベアの肉だ。心して味わうがよい』

「クリムゾンベアですか!? さすがクロウ師匠です! 私ひとりではとても倒せない魔物です!」

 セリシアさんはクリムゾンベアを知っているみたいだ。セリシアさんの弓や魔法はすごかったけれど、やっぱりあんなに大きくて凶暴なクリムゾンベアには勝てないのかあ。

『あんまり調子に乗らない方がいいわよ。そのクリムゾンベアに不意を討たれてやられそうになったのはどこの誰かしらね?』

『むっ、まともに戦えば余裕であったではないか! そういうシロガネはクリムゾンベアに勝てたのかも怪しいところだ。呪われるようなミスを犯しているようではな』

『あら、そもそも私なら不意を討たれるようなミスをしないわよ』

「2人ともその辺にしておこう。今日は新しいお客さんもいることだし、みんなで楽しく食べようよ」

 2人ともよく意地を張って張り合うんだよね……

 不意を討たれたことと呪いを受けたことを2人とも気にしているみたいだから、あんまりその時の詳しい状況までは聞いていない。

『むっ、ソラがそう言うのなら仕方ない』

『そうね、せっかくなら楽しく食べましょうか』

「す、すごいな、ソラくん。クロウ師匠とシロガネ師匠が大人しくなってしまうとは……」

「クロウとシロガネは友達だからね」

 やっぱりみんな一緒に楽しく食べるのが一番だ。

「ソラお兄ちゃん」

「あっ、ローナちゃん」

 そんな話をしているとローナちゃんがこっちにやってきた。

「はじめまして、ローナです」

「はじめまして、セリシアです。ローナちゃんは子供なのに偉いです。ソラくんもそうですが、この村の子供はとても賢いのですね」

「そうだろう! 俺の自慢の娘だぜ!」

「アリオ殿の娘さんでしたか」

 セリシアさんにローナちゃんを褒められて、とても嬉しそうに顔を崩しているアリオさん。

 村に帰ってきた時にローナちゃんがアリオさんよりも先にシロガネへ抱き着いてすごくがっかりしていたけれど、立ち直ってくれたみたいだ。

「……セリシアお姉ちゃんのお耳はどうして長いの?」

「こら、ローナ! いきなりすみません、セリシアさん」

 エマさんがローナちゃんにめっをして謝る。

「いえ、全然構いませんよ。どうして長いのかはお姉ちゃんにもわからないの。私たちの種族はみんな耳が長いのよね」

 怒る様子もなく、そう言いながら髪をかきわけつつ、その長い耳をぴくぴくと動かすセリシアさん。あの耳は自分の意思で動かせるみたいだ。

「うわあ~すっごいね!」

「うん、僕にはできないや!」

 僕も自分の耳を動かそうとしてみたけれど、全然動かすことができなかった。

「ふふっ、これをやるとみんな喜んでくれるのですよ。子供が笑顔でいられるこのアゲク村は本当に良い村ですね」

 優しく微笑むセリシアさん。

 セリシアさんはいろんな場所を旅してきたと言っていたから、他の村と比べてもこの村は良い村なんだろうなあ。まわりのみんなも嬉しそうにしている。そのまま楽しい宴会は続いた。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ふあ~あ。おはよう、シロガネ」

『おはよう、ソラ』

 目を覚ますと、今日は隣にシロガネだけがいた。クロウはもうセリシアさんと一緒にいるようだ。

 それにしても、慣れたおうちはいいなあ。もちろん昨日と一昨日に野営をした時もクロウとシロガネが隣で寝てくれたから安心してぐっすりと眠れたけれど、屋根があって見慣れたおうちの中だとそれ以上に安心できる。

 着替えてからシロガネと一緒に朝ご飯を食べて、セリシアさんの様子を見に向かった。



「おはよう、ソラくん」

『おはよう、ソラ』

「おはよう、セリシアさん、クロウ」

 2人は壁を作っている場所にいた。

「あれっ、昨日よりもすっごく進んでるね」

 ふと気付いたけれど、村の周囲に作っていた壁が昨日よりも一気に進んでいた。

「セリシアさんのおかげだよ。俺たちが数人がかりで持つことができる丸太をたったひとりで軽々と持ち運んでいるんだ」

「これも良い鍛錬にまりますよ。あんなにおいしいご飯をご馳走になりましたからね。たくさん働かせてください」

 そう言いながらセリシアさんは太い丸太をたったひとりで軽々と持ちあげて運び、壁の横に設置していく。

 細身の女性なのに本当にすごい力だ。あれなら今日中に全部終わってしまいそうだ。