「皆様の跡をつけるような真似をして大変申し訳ございません! 聖獣様とお見受けいたします! どうか私を弟子にしてください!」
「「「………………」」」
シロガネと一緒にやってきたとても綺麗な女性はいきなりとんでもないことを言って、クロウとシロガネに向かって頭を下げている。
あまりにも突然の出来事に僕たちはかなり警戒をしていたはずなのにポカンとしてしまった。
「ええ~と、いまいち状況が飲み込めないんだが、どういうこった?」
アリオさんの言う通り、僕にも何が起こったのかよく分からない。お姉さんは背中に弓を持っているけれど、それを手に持ってはいないし、僕たちに敵意は持っていないように見える。
だけど弟子ってどういうことだろう? それにクロウとシロガネが聖獣だってわかったのかな?
『どうやら街で私たちを見た時に聖獣であるとバレてしまったみたいね。一応街中では声をかけずに配慮してくれて、私たちが街から離れた人目に付かないところへ移動するまで待っていたようだけれど、どこで声を掛けるか迷っていたみたいよ』
『むっ、この姿でも見抜かれてしまったか……』
お姉さんは2人が聖獣であることに気付いていたみたいだ。小さい姿のシロガネやクロウが喋っていることに全然驚いていない。
『ええ、彼女はエルフだから魔力には敏感なのかもしれないわね』
「エルフ?」
『彼女のような耳の長い珍しい種族のことだ。エルフ族は魔力に長けた者が多く、人族ではあまり使うことができない魔法を使える者が大半である。そしてエルフは寿命がとても長いことでも有名だな』
確かに長いロングヘアの中からは長くて先の尖った耳が姿を見せている。それに綺麗な青い色の瞳をしていて、なんとなく街で見てきた人とは雰囲気が違う。
「オオカミの聖獣様、お会いできて光栄です! 申し遅れました、私はセリシアと申します。歳は今年で150となります」
「「「150歳!?」」」
僕とアリオさんと村長さんの声が重なった。
こんなに若くて綺麗な女性が150歳なんだあ……。本当に異世界って不思議だ。
それにクロウが犬じゃなくてオオカミの聖獣であることも見抜いているらしい。
「私はここ100年ほど自らを鍛えながら旅をしております。私の故郷では永き時を重ね、森に愛された存在である聖獣様を敬っておりました。私はこれまで聖獣様にお会いしたことはなかったのですが、そのお姿を一目見て今の姿は仮の姿であると確信しました。その神々しいお姿や内包しております魔力に御見それしました! まだ若輩者の私ですが、どうかおふたりの弟子にしてください!」
「「「………………」」」
そう言いながら改めてクロウとシロガネに向かって頭を下げるセリシアさん。
聖獣は場所によっては狙われる存在だったり、敬われる存在だと以前2人が言っていたけれど、セリシアさんは後者みたいだ。
100年間も旅をしていること自体がすごいし、150歳を超えているのに弟子になりたいなんてえらいと思いながら、情報量が多すぎてついていけなくなってしまう。
『ふむ、なかなか見どころがある者のようだな。エルフという種族は高潔な種族で多少は信用もあるが……我は弟子など取ったことはないぞ』
『もちろん私もないわね。そもそも私たちが教えられるようなこともないと思うけれど』
「教えていただかなくとも、お傍にいさせていただけるだけで結構です! 微力ではありますが、皆様の身の回りのお世話をすることはできます。どうかよろしくお願いします!」
『……そうね、少しみんなと相談するから離れていてちょうだい』
「はい!」
『ふむ、どうしたものか……』
いきなりの展開にクロウが悩んでいる。クロウがこうやって悩んでいるところを見るのは初めてかもしれない。
「我々としては村に来ていただくことは一向にかまいませんよ」
「ああ、村に人が増えるのは大歓迎だぜ」
「もちろん僕も大丈夫だよ。いっぱい人がいたほうが楽しいもんね!」
村長さんとアリオさんはセリシアさんがアゲク村までついてきても問題ないみたいだ。
僕も村に新しい人が来てくれるのは嬉しい。
『……そうね、今のところ敵意はなさそうだし、彼女の周囲には他の者の気配は感じられなかったわ。しばらくは村の外で生活してもらって様子を見るというのはどうかしら?』
『それが良いかもしれんな。エルフとはいえそのすべてが悪意なき者とは限らないゆえ、ソラの能力のことは隠しつつ、しばらく様子を見た方がいいだろう。新たな作物を手に入れたことだし、人手がほしいのも事実だ。エルフならば魔法を使え、知識も人族より深い。村の発展には役立つに違いない』
少し距離を置きつつ、セリシアさんを弟子にすることで話はまとまった。
セリシアさんは優しくて真面目そうな人だけれど、さすがにすぐ信用はできないらしい。
『それにしても私たちが聖獣であると見破る人もいるのね』
『エルフは魔力に敏感な種族とはいえ、不覚であったな。やはり大きな街へ行くと、それなりの実力者がいるようだ。人の多い場所へ行く時はもっと警戒を強める必要があるな』
『そうね、気をつけましょう』
人が多い場所へ行くと、いろいろなリスクも多いみたいだ。
うん、やっぱり僕はみんなと一緒に静かに楽しく暮らしたいなあ。


