完全にクロウが敵を圧倒している。

 スピード差があって、クリムゾンベアはクロウの動きに全然ついていけないみたいだ。クロウと出会った時のあの大きなお腹の傷は最初にやられてしまって、それであのスピードが出せなくなったのかな。

『グルウウ!』

「うわっ、炎が!?」

 クリムゾンベアが唸り声を上げると、その両方の腕へ真っ赤に燃え上がる炎がまとわりついた。あれはクロウやシロガネが見せてくれたのと同じ魔法だ!

『ふん、確かにすごい熱気だが、そんなもの意味はない!』

「グウ……」

 炎によってクリムゾンベアへ近寄りにくくなったけれど、クロウは雷魔法を使って遠距離から攻撃を始めた。クロウは火魔法も使えるけれど、同じ火を使うクリムゾンベアを相手にするのなら雷魔法の方が良いのかもしれない。

 さっきの爪の攻撃で血がたくさん流れて、何度も電撃が当たり、クリムゾンベアの動きが目に見えて落ちてきた。

『これで終わりだ! 黒雷!』

 バリバリバリッ

「ガアアアアアア!」

 クロウの目の前に大きくて真っ黒な雷が現れ、そこから放たれた黒い雷がクリムゾンベアの巨体を貫いた。

 そしてクリムゾンベアはそのまま前に崩れ落ちていく。

「「「おおおおおお!」」」

 村のみんなから大きな勝どきが上がった。

「すごく格好良かったよ、クロウ!」

『ふっ、まともに戦えばこんなものだ』

 クリムゾンベアをたったひとりで倒してクロウは胸を張っている。

 特に最後の黒雷は本当にすごかった。目の前に黒色の雷が現れたと思ったら、一瞬でクリムゾンベアを撃ち抜いた。あんなの避けられるわけがないよ。

『お疲れさま。ちょっとでも怪我をしたら、私の力も見せられたのに残念ね』

『ふん、あんな大きくて力だけの魔物は不意さえ突かれていなければ問題ない』

 シロガネが小さな姿に戻って僕の肩にとまる。

 そんなことを言っているけれど、クロウが無事で嬉しそうだ。

「クロウ様、とても素晴らしかったです!」

「本当にとんでもない魔法だったぜ!」

 村長さんやアリオさんたちもこちらの方へやってきた。

『これですぐに森も落ち着くだろう。さて、解体は任せるぞ。多少は傷付いたが、クリムゾンベアの素材は高く売れる。それにこいつの肉は非常に美味だ。みなで食べるとしよう』

「「「おおおおおお!」」」

 どうやらこんなに大きくて凶暴だった熊さんは食べることができるみたいだ。



「うわあ~これがクリムゾンベアのお肉なんだね!」

 目の前のお皿に載せられた大きなお肉はさっきクロウが倒したクリムゾンベアを村のみんなで解体したものだ。あの大きな巨体を村の男の人たちで解体していった。

 僕も手伝いたかったけれど、力も弱かったし、刃物を使うのは危ないということで、みんなに任せた。とっても大きいから、まだ解体は全部終わっていないけれど、先に一部のお肉だけ切り出してそのお肉を焼いている。

「とってもおいしそうだね!」

 シロガネの隣にはローナちゃんが座っていて、食べるのが待ちきれないとう様子でいただきますを待っている。

「クロウ様のおかげでこれほどの肉を食べることができます」

『なに、元はと言えば我が引きつれてきたとも言えるから気にする必要はない。十分に味わうといい』

「ありがとうございます。それでは皆の者、乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 みんなが持っていたコップをクロウに向かって掲げる。もちろん僕もだ。

 なんだかこういう雰囲気ってとてもいいよね。

「うわっ、おいしい!!」

 大きな焼いたクリムゾンベアのお肉はとっても柔らかくって、噛むとこれまでに食べたことがない最高の味が口の中へ溢れてきた。

 ワイルドボアやワイルドディアのお肉もすごくおいしかったけれど、このクリムゾンベアのお肉はそれよりも上の味だ! あんなに怖くて凶暴だった熊さんがこんなにおいしいだなんて思ってもいなかったよ。

『クリムゾンベアはおいしい魔物なのよね』

『ふむ。我もこれほどの肉を食せたのは久しぶりであるな。だが、クリムゾンベアよりも美味なる肉はまだまだあるぞ』

「そうなんだね」

 元の世界の経験を含めても一番おいしいお肉だと思ったけれど、この異世界にはまだおいしい食材があるみたいだ。

 それにしても本当においしい。どんどん食べられちゃうなあ。



「ふう~お腹がいっぱいだよ。ご馳走さま」

「お腹いっぱい!」

『ふふ、子供はよく食べなきゃね』

『うむ。いっぱい食べてたくさん成長するのだぞ』

 僕やローナちゃんが満腹になっているのを見て、クロウとシロガネもなんだか嬉しそうにしている。

 ご飯がおいしくて、こんなにお腹いっぱい食べたのは初めてかもしれない。

『クリムゾンベアの素材はかなり高く売れるわ。これで街へ行って必要な物を購入することができるわね』

『ああ。この村に必要な物を購入してくるとしよう』

 お肉がおいしいだけじゃなくて素材も売れるらしい。

 森の騒ぎも収まったみたいだし、僕たちが街へ行っても大丈夫みたいだ。

 異世界の街はきっと僕がいた日本の街とは全然違うんだろうなあ。今からとっても楽しみだ!