村の見張りをしていた人からの知らせを受けてアリオさんが僕たちの方へやってきた。

「どうしたの!」

「クロウ様が帰ってきたんだが、例の魔物が追ってきているようだ。すぐにソラとシロガネ様を呼んできてくれと!」

『ソラ、先に行くわよ!』

「うん、わかった!」

 シロガネはいつもの大きな姿になって空を飛んで村の入り口に飛んでいく。

 僕はアリオさんと一緒に急いで村の入り口へ向かった。



「クロウ、大丈夫!」

『ああ、まだ戦闘は行っていない。我の方が足は速いから、やつが来るまでもう少しかかるだろう』

『ええ、見えてきたけれど、ここに来るまでもう少しかかりそうね』

 村の入口へ行くと、大きくなったクロウが大きな壁の前に立っていた。

 シロガネはその上空を飛んでいる。すでにシロガネの目には例の魔物の姿が見えているらしい。

『ふん、本当は我一人でも十分に倒せる相手なのだがな』

『そんなことを言って、また油断をしているわよ。ソラの温泉もあるし、私もいるんだから、より安全にいきましょう』

「僕もクロウが危険なのは嫌だよ!」

『……ああ、そうだったな。約束した通り、やつとは戦わずにここまで退いてきたぞ』

「うん!」

 もしもクロウが森で例の魔物と遭遇した場合はここまで連れてくるように約束していた。

 ここならシロガネもいるし、村のみんなもいる。僕も戦闘には役に立てないけれど、万能温泉でクロウの怪我を癒すことができる。

「クロウ、温泉はここにあるからね!」

 村の端に設置していた万能温泉を消して、できたばかりの村の壁の中に配置する。村の壁はまだ全体の4分の1くらいしかできていないけれど、クロウの跡をおってきているなら、この正面から来るはずだ。

 入り口の簡易的な門をクロウが入れるくらいの隙間だけ開けている。もしもクロウが怪我をしたら、すぐにここまで退いてもらって門を閉める予定だ。

「俺たちもクロウ様を援護するぞ!」

「ああ、みんなでこの村を守るんだ!」

「「「おおおお!!」」」

 アリオさんたちの号令に村のみんなが大きな声を上げた。

 村の中で戦える人達は弓や剣を持って村の入り口に集まっている。万一怪我をした時のために温泉のお湯を水筒にくんで持っている。すでにこっちの準備は万端だ。

『……皆すまぬが、我が傷を負うまでは手出しは無用だ』

「うん、だけどクロウが危なくなったらすぐに助けるからね!」

 例の魔物をこの村の前まで連れてきたあとのことはすでにみんなで話してある。

 僕としてはたとえどんなに卑怯でもクロウが少しでも危険になるのならみんなで同時に攻撃を仕掛けてほしかったんだけれど、その前にクロウはどうしても一人で戦いたいらしく、シロガネもそれに賛成していた。

 聖獣は誇り高いと前に言っていたから、大勢で敵と戦うのは嫌なのかもしれない。でも相手はクロウにあんな大怪我を負わせた相手だし、ちょっとでも危険なら、クロウが嫌でも僕は助太刀をしたかった。

 クロウも心配している僕たちの気持ちを汲んでくれて、少しでも怪我をしたらみんなで戦うということに決まった。どうか誰も大きな怪我をすることなく終わってほしい……

『来たか』

「ガアアアアアアアッ!」

「ひっ……」

 クロウの前に現れた巨大なクマ型の魔物が巨大な咆哮をあげ、僕はたまらず尻もちをついてしまった。

「あ、あれがクリムゾンベア……」

「な、なんて大きさだ!?」

 3メートル近い大きなクロウよりもさらに巨大な身体、暗い赤と黒の縞々の体毛、鋭い牙と爪を持ったその魔物は元の世界にいた頃も含めて、今まで見たことがある生物の中で最も恐ろしいと思えた。

 全身に悪寒が走り、圧倒的な威圧感に冷や汗が出る。あんなに大きな魔物と戦って、クロウは本当に大丈夫なのかな……

『ふっ、前回は我が油断をしていて不意を討たれたが、今回はそううまくいかんぞ!』

「っ……!」

 クリムゾンベアを目の前にして、クロウが臨戦態勢に入る。いつも優しくて穏やかな雰囲気のクロウとはまるで別人だ。

「グルウウ……」

 その様子も敵のクリムゾンベアも感じ取ったようで、先ほどの勢いがなくなった。

 クロウとクリムゾンベアが対峙する。シロガネと村のみんなはクロウが危なくなったらすぐに加勢できるよう緊張した雰囲気で見守っている。

「ガアアッ!」

 クリムゾンベアが動き、一気にクロウへ向かって襲い掛かる。

 あんなに大きいのにすごいスピードだ!

『ふっ、遅い!』

「ガアア!」

 だけどクロウはその動きのさらに上をいって、クリムゾンベアの鋭い爪を回避する。

 というか、僕の目にはクロウが速すぎて消えたように見えた……

『今回は手傷すら負うわけにはいかぬからな。すぐに決めさせてもらおう!』

「ガウッ……」

 クロウが素早い動きでクリムゾンベアを翻弄しながら、すれ違い様にあの鋭い爪でクリムゾンベアを切り裂く。

 クリムゾンベアはまったくクロウの動きについていくことができず、あちこちから赤い血液が流れる。