『それでは行ってこよう』
「気を付けてねクロウ。絶対に無理はしちゃ駄目だよ」
アゲク村の入り口で大きくなったクロウを見送る。
クロウはこれから森へ行って魔物を狩りに行ってくれる。例の魔物が森にいるかもしれないのと、その魔物の影響で魔物が凶暴化しているかもしれないから、村の人の代わりにクロウがお肉を確保してくれるんだ。
『ああ、了解だ。我だけでも大丈夫だとは思うが、ちゃんとソラの言う通りこの村へ退いてくる。シロガネ、すぐに戻ってくるが、我のいない間はソラを頼む』
『ええ、任されたわ。クロウも無理だけはしないようにね』
『うむ、それでは行ってくる』
そういうとクロウはすごいスピードで駆けて行った。クロウだったら大丈夫だと思うけれど、ちょっとだけ心配だなあ……
「すごいわね、服の汚れがあっという間に消えていくわ……」
エマさんが驚いた声を上げる。
「この温泉のお湯はいろいろな物を綺麗にする効果もあるみたいだね」
この村では服はまとめて水の中に入れてでこぼこした板でゴシゴシと洗っていたらしい。
だけど僕が出した万能温泉に入ると呪いを解いたり浄化をしたりする能力があるから、万能温泉のお湯を大きな容器に移して、そのお湯の中に服をしばらくつけておくと、すぐに服の汚れが消えていった。
たぶんしつこい汚れもお湯につけるだけで簡単に取れるかもしれない。
「寒い日は手が凍えそうになるから本当に助かるよ。それに洗わないでお湯につけて乾かすだけなんて本当に楽だね」
「昨日の温泉は本当に気持ちが良かったよ。本当にありがとうね!」
「うん!」
村での洗濯は女性の人たちが作業するらしく、エマさんや他の人たちの仕事らしい。確かに寒い日は手が冷たくなっちゃいそうだよね。
それに昨日の温泉はエマさんたち女の人たちにはとても好評だったみたいだ。みんなが喜んでくれて、僕もすごく嬉しい。
「シロガネさんも本当にありがとう! 水の量を気にしなくていいなんて本当に助かるわ」
「井戸の水だけだとあまり自由に使えないからね」
『ええ、別に構わないわよ』
そしてシロガネは水魔法を使って、この村の井戸と水を溜めるための池にいっぱいのお水を補給してくれた。この村の水は村の真ん中にある井戸と雨が降った時に水を溜める池から使うらしい。
作物を育てるための水はわざわざ近くの川から汲んでくる必要があって、井戸の水は飲み水が第一優先だから、あんまり水を自由に使えなかったみたいだ。
だけどシロガネの水魔法はなにもない場所からたくさんのお水を出せるらしい。魔力というものを使うらしいけれど、それほど疲労することはないようだ。
「シロガネちゃん、ありがとう!」
『その代わりにちゃんとお母さんの言うことをよく聞くのよ』
「うん!」
ローナちゃんはとっても嬉しそうだ。うん、やっぱり女の子は笑顔がいいよね。アリオさんの怪我が治って、エマさんとローナちゃんがまたこの笑顔を見せてくれて本当によかった。
『あら、早いわね。クロウが帰ってきたみたいよ』
「本当!」
そのあとは村のみんなと一緒に畑のお手伝いをしていた。いつもなら村の男の人たちは狩りに出かけて、女の人たちは洗濯をしたり料理をしているけれど、今日はみんながいるからすごく進んだらしい。
そんな中で僕の上を飛んでいたシロガネが、クロウが帰ってきたことを教えてくれた。すぐにみんなと一緒に村の入り口へ移動した。
「クロウ、大丈夫……だったみたいだね!」
村の入口へ行くと、クロウが大きな魔物を引きずってきていた。一度見たことがある大きなイノシシ型の魔物のワイルドボアと大きなシカを引きずってきた。
クロウには怪我はなさそうだったからホッとした。
『ソラは心配性だな。この程度の魔物ならば何十体いても大丈夫である』
「さすがクロウだね」
でもそんなクロウが危なくなるほどの怪我をさせた魔物が森の中にいるってことなんだから気を付けてもらわないと。
「お、おお……これだけ大きな獲物をこれだけの短時間で狩ってくださるとは!」
「普通の俺たちなら一匹も獲物がない日もあるのにな……」
村長さんとアリオさんも驚いている。
『我にかかれば造作もない。やはり森の中が慌ただしくなっていて、魔物が凶暴化しているゆえ、しばらくの間は森へ入らぬ方がよいであろう』
「承知しました」
『我が迷惑をかけた詫びとしてその獲物はみなで食べるがよい。例の魔物の件が解決するまでは狩りは我がいこう。解体を任せるぞ』
「あ、ありがとうございます!」
「ありがたく頂戴します!」
やっぱりまだ森の中は騒がしいみたいだ。早くその魔物が森からいなくなればいいんだけれどなあ。


