「ふあ~あ……」
「むにゃむにゃ……」
目を覚まして身体を起こす。僕の隣のシロガネの隣にはローナちゃんがすやすやと眠っている。小さくなったシロガネもローナちゃんに抱き着かれてとても気持ちよさそうに眠っていた。
うん、やっぱり元気にぐっすりと眠れることが一番だ。
『おはよう、ソラ』
「おはよう、クロウ」
反対側にいるクロウはすでに起きていたみたいだ。2人を起こさないように小声で話す。
「あれ、アリオさんとエマさんがいないね」
『あの2人なら他の者に呼ばれて出ていったぞ。なにやらいろいろと村全体が騒がしい雰囲気であったな』
「なにかあったのかな……?」
なんだろう、ちょっとだけ嫌な予感がする。
「おい、魔物が村に来た時のことを考えて、もっと準備をしておこう!」
「ちっ、もっと柵を強化しておけばよかったぜ!」
本当だ、なんだか村の様子が少しおかしい。
村の大人たちがみんな慌てている。
「エマさん、何かあったの?」
そんな中でエマさんがおうちに戻ってきた。アリオさんはいないみたいだ。
「ソラくん、なんだか村の近くの森の様子がおかしいみたいなの。この村を出発して街へ行くって言っていたけれど、今日は止めておいた方がいいかもしれないわ」
「森の様子がおかしいの?」
「ええ、なんだか南の方が騒がしくて、いつもよりも魔物がざわついているみたい……おばさんはみんなともう少し話してくるわね。ローナが目を覚ましたら、すぐに戻るからって伝えておいて」
そう言い残すと、エマさんは村の人たちのところへ戻っていった。
この村から南の森は僕たちがやって来た森だ。普段の森の様子はわからないけれど、何かあったのかな。
『……すまない、ソラ。もしかすると我のせいかもしれぬ』
「えっ!?」
クロウが小声で僕に耳打ちする。
『我と戦った魔物が追ってきたのかもしれぬ。ソラの万能温泉で血は止まったから、それを追ってこの村までくることはないと思うが、あの森までは追ってきた可能性がある。他の魔物がざわついているのはそのためかもしれない』
「そ、そうなんだ」
あの大きいイノシシを一瞬で仕留められる強いクロウにあんなに大きな傷を負わせるような魔物だ。そんなのが森に入ってきたら、他の魔物が騒ぐのも当然なのかもしれない。
「どうしよう、北の方に避難したらいいのかな……?」
その魔物は南の方から来るから、北に逃げた方がいいのかもしれない。でも、この村の人たちがそんな簡単に村を捨てて避難することはできないかもしれない。
『いや、仮にここへ来ても今度こそ我が倒すから問題ない。むしろ、ここへ来てほしいものだ』
大きな怪我を負わされた相手だけれど、クロウは自信満々だ。いつも冷静で頭のいいクロウのことだし、もしかすると大怪我を負ったのは不意打ちだったり、なにか別の原因があったのかもしれない。
とても頼もしいけれど、この村にその魔物が来るのは怖いなあ……
『とりあえず、しばらく南の森へ入るのは止めておいた方がいいな。ここからは離れているが、その魔物を恐れた別の魔物が興奮して森全体で普段の魔物とはまったく違う動きを見せるかもしれぬ』
「うん、わかった。村長さんに伝えよう!」
『そうであるな。村の者も魔物が普段よりも興奮していることは察知したようだが、我らの来た南の森が普段よりもざわついていたと伝えるといい』
「うん!」
クロウから話を聞いたあと、すぐに村長さんにそのことを伝えた。村の人たちもすでに森が騒がしいことには気付いていて、今は万が一森から村の方へ魔物がやってきた時のことを考えているみたいだった。
お昼は過ぎたけれど、近くの森へ偵察に向かっていたアリオさんたちがまだ戻ってこない。
僕たちがやってきた南の森はこの村から結構離れていて、アリオさんたちが偵察に行ったのは近くの森だから大丈夫だと思うけれど、クロウに大怪我を負わせた魔物のせいで周辺の森全体の魔物が興奮した状態になっている。
今日はこのアゲク村を出発する予定だったけれど、少しだけ滞在を伸ばすことにした。
「お父さん遅いね……」
「大丈夫よ。森の様子を見に行っただけだし、大勢いるからね」
今はアリオさんの家で、ローナちゃんとエマさん、クロウとシロガネと一緒に偵察隊の帰りを待っている。
相変わらず僕には何もできることがなくてちょっとだけ辛い……
「お~い、みんなが帰ってきたぞ!」
そんな中で村中に大きな声が響き渡った。
「そ、そんな……!」
みんなと一緒に村の入り口の方へ急ぐとそこには怪我だらけになった村の男の人たちが森から戻ってきていた。
森の中で普段とは行動の違う魔物の群れに遭遇してしまったと聞こえた。
「あなた!」
「お父さん!」
「すまない、アリオは俺たちを逃がすために一番後ろで魔物と戦ってくれたんだ……」
戻ってきた村の人たちはたくさんの怪我をしていた。そして昨日まであんなに元気だったアリオさんの全身が血で真っ赤に染まっていた。
「お医者さんは! お医者さんはいないの!」
隣にいた村長のエルダさんに聞く。
いっぱい血が出ているし、あのままにしておいたらアリオさんが死んじゃう!
「……この村には医者などおらぬし、たとえ医者がおったとしても、あれほどの大怪我は治せぬ。最後にエマとローナの顔が見られただけ、運の良いほうなのじゃ」
「……っ!!」
村長さんの言葉を聞いて、僕はすぐに走り出していた。


