「ケンタの事情はわかった。だが、この金は渡しておく。こっちの世界でもこの金は換金できるんだろ?」
俺の事情を説明したうえで、ヴィオラはそう言う。
「うん、むしろ俺の世界の方が価値は高いくらいだよ。だけど、本当にいいの?」
「おう、その方が俺たちも気兼ねなくいろいろと頼めるからな。こっちの世界は高価な物が多いみたいだし、ケンタは俺たちの世界でそこまで欲しいものはねえんだろ?」
「そうだね。そっちだと珍しい素材や魔道具なんかが高いみたいだけれど、俺が欲しいとしたら魔道具くらいかな」
レジメルの街でいろんな商店をまわってみたが、高価なのは武器や防具に使う珍しい金属や魔物の素材に魔道具くらいだった。俺は戦う訳じゃないから金属は必要ないし、魔道具もたいていの物なら俺の世界で代用できる物が多かった。
香辛料も少し高いが、こちらの世界で何十万円もするような物は少ない。
「だったら俺たちの方がもらいすぎちまうから気にせずもらってくれ。ぶっちゃけ俺とリリスは金なんて余っているくらいだからな」
「私もタブレット代や食事代は渡しておく」
「……わかった。それじゃあ、ありがたくいただいておくよ」
リリスまで金貨をジャラジャラと積んでいく。
確かに投資で一発当てた俺とは違って、2人は高ランクの冒険者でいつでもお金を稼げそうだ。大金があるとはいえ、1億円では一生遊んで暮らすというのは難しいし、緊急時に換金できる用の金貨があると助かるのは事実である。
「よし、受け取ったな。そんじゃあ早速この世界の街へ行くとしようぜ!」
「………………」
なるほど、ヴィオラは意外としっかりしていると思ったら、お金を気にせず俺の世界の物を買うという狙いもあったみたいだ。俺としても対価をもらえるのなら今まで以上に買いやすくなるもんな。
だけど今すぐ2人を街まで連れて行くわけには行かない。先にその準備をするとしよう。
「うおっ、本当にでけえ鉄の塊が魔法もなしに動きやがった!?」
「これがケンタの世界の車。動画は見ていたけれど、実際に動いているところを見るのは初めて」
「それじゃあすぐに戻って来るよ。午後からはちゃんと街まで連れて行くから、今だけは大人しく待っていてね」
「キュ」
初めて車を見る2人が動く車を見て驚いている。リリスはすでにタブレットで車のことを知っていたが、実際に動くところを見るのは初めてだからな。
さすがに今の2人がそのまま俺の世界の街を歩いていたらだいぶ目立ってしまう。その特徴的な服と長い耳を隠すため、ハリーと一緒に女性ものの服を購入しに行ってくるつもりだ。
逆にあまりに非日常すぎてコスプレをしている人に見られる可能性も結構ありそうだが、SNSなどで拡散されてしまうと大変だもんな。
「ちぇっ、魔法が普通に使えるんなら1人でも行けるんだけどな」
「師匠と一緒に大人しく待っている」
「よろしくね、リリス」
2人……というかヴィオラを家に置いて出掛けるのは不安だけれど、リリスがいるから大丈夫だと信じよう。
魔法が自由に使えないという制限は俺にとっても少しありがたい。こちらの世界で自由に魔法を使われたら騒ぎになってしまうだろう。
昨日もこっちでは魔力が自然に回復しないことを忘れてつい魔法を使ってしまっていたらしいから、今後は気を付けてもらわないといけない。
「とりあえず服はこれでオッケーか」
「キュキュ」
車で大きなチェーン店の服屋へ行き、リリスとヴィオラの分の服を購入してきた。最近は男女兼用の服が売っているから本当に助かった。俺にお洒落のセンスはないので適当に選んだのだが、むしろ目立ち過ぎない普通の服でいい。
……さすがに女性ものの下着なんかについてはどうすればいいのかわからなかったから、もう一度お店へ行って自分たちで選んでもらうとしよう。
「さて、次は大きな質屋か」
そして家へ帰る前にもう1か所、質屋へと寄り道をする。
たくさんの金貨をもらったことだし、これ1枚がいくらになりそうなのか把握しておいた方がいいだろう。いざ大金が必要となった時に目安となる金額を知っておいた方がいいのである。

