「おっ、気が利くじゃねえか。もちろんもらうぜ」
「わ、私も!」
「キュ!」
「了解だよ。ちょっと待っていてね」
ふう~うまく話を逸らせたようだ。前にみんなで食べようと思って購入しておいたけれど忘れていたやつだ。さっき冷凍食品を探して冷凍庫を開けた時に思い出したんだよな。
「ほう、冷たい氷菓子か?」
「でも氷と違ってすごく柔らかい」
どうやら向こうの世界にも氷菓子はあるみたいだな。リリスは氷魔法を使えたし、果物なんかを凍らせて食べることはあるのかもしれない。
「これはアイスクリームというお菓子だよ。牛乳や生クリームに砂糖、卵、香料を加えて、空気を混ぜつつ冷やしながら固めたものだ。いくつか種類があるから、好きな物を選んでね」
今回出したお菓子はアイスクリームだ。しかも安いやつじゃなくてちょっと贅沢なやつのいろんな種類が入っているマルチパックのやつである。
ちょうど6個入りだったから3人で分けるとぴったりだったけれど、今は4人だから、また購入してこないといけないな。さすがに量がそこまでないから、これは4人でシェアせずにそのまま食べた方がいいか。
「うおっ、なんじゃこりゃ! 柔らかいうえにめちゃくちゃ甘えじゃねえか!」
「おいしい! 白くてふわりとした食感にこの赤くて甘い果実がよく合っている!」
「キュキュキュウ♪」
みんなアイスクリームに大興奮である。レジメルの街でも砂糖は少し高額だったし、あまり甘いお菓子なんかを見かけなかった。甘くて冷たいアイスクリームは向こうの世界の住人であるみんなには新鮮だったようだ。
ヴィオラがバニラ味、リリスがストロベリー味、ハリーと俺がクッキー味だ。さすがちょっといいアイスだけあってうまい。
「こいつはいいな。ケンタ、もう一個くれよ! 今度は別の味がいいぜ」
「ケンタ、私もほしい!」
「キュキュ!」
早々に自分のアイスクリームを食べて空っぽになったカップを掲げる3人。
さっきあれほど晩ご飯を食べたのによく入るな。まあアイスクリームは別腹というやつか。
「あと2個しかないから3つに分けるよ。そんなに気に入ってくれたなら、また明日買ってくるか。今度は別の味にしようかな」
個人的にはこのクッキー味と季節限定のパンプキン味が好きなんだよなあ。最近は新しい味もいっぱいあることだし、明日は別の味を買ってくるとしよう。
本当はアイスは太るからあまり食べるのはよくないから、明日からは多くても一人一つまでにしてもらうとしよう。
「いやあ~今のアイスクリームと晩飯はうまかったし、あの風呂ってやつも気持ちが良かった。本当にこっちの世界は最高だぜ!」
「楽しんでくれたみたいでよかったよ」
ヴィオラもこちらの世界の生活に満足してくれたようだ。やはり生活水準は俺の世界の方がだいぶ高いようだな。
「ケンタの世界は本当にすごい。電気というものを使った道具もすごいけれど、さっきの綺麗な鏡もすごかった」
「俺の世界だとそれほど高い物じゃないんだよ。あの鏡で銀貨1~2枚くらいだね」
「マジか! あの綺麗な鏡だけでも貴族なら金貨100枚はくだらねえぞ!」
鏡一枚で100万円かよ……。そういえば前にネットで調べたら、俺の世界でも今くらい鮮明に映るような鏡は19世紀に入ってからだったらしい。鏡ひとつだけとってもこれだから、あっちの世界に物を持っていって販売するのは相応のリスクがありそうだ。
「他にも俺の世界の技術を使えばいろんな物が作れると思う。リリスにはもう伝えていたね。こっちの世界の技術を使って何かを作るのはいいけれど、武器や争いになりそうな物を作るのだけはやめてほしいんだ」
そう、それだけは俺の世界を案内することに対する最低限の条件だ。綺麗ごとかもしれないけれど、向こうの世界にこちらの技術を使った兵器なんかだけは持ち込んでほしくない。
「おう、いいぜ。俺もそういったもんには興味がねえからな」
「ありがとうございます」
即答だった。
確かにヴィオラの行動はすごかったし、セレナさんから聞いた話ではいろいろと物を破壊していたみたいだけれど、やはり人を傷付けるようなことをするつもりはないみたいだ。
それにド直球な人みたいだから、嘘はなさそうである。ヴィオラの人柄がわかって、また少し安心できた。
「ははっ、こいつは快適だぜ!」
「ケンタ、本当にいいの?」
「ああ、もちろん。みんなはお客様だからね」
今日は2人もこちらの世界で寝たいようなので、俺が普段寝ているベッドで寝てもらう。ちょっと大きめのベッドだし、リリスは身体が小さいから2人でも寝られるだろう。
俺とハリーはリビングでソファと以前リリスに渡した低反発のマットで寝る。
せっかくだし、俺の世界の寝具のすばらしさを体験してもらうとしよう。柔らかいベッドと暖かな布団はあちらの世界にはないものだからな。

