「ああ~食い過ぎた。それにこの椅子が気持ち良すぎてもう動けねえや……」

「同じくお腹がいっぱい……」

「キュウ……」

「みんな本当によく食べたね」

 俺の部屋のソファにはヴィオラさんが横たわり、そのソファにもたれかかるようにリリスが、カーペットの上には大きくなったお腹を上にしているハリーが寝転がっている。

 結局カップラーメンの他に冷凍食品のチャーハンと餃子を奪い合うように食べ終えた3人はお腹がいっぱいで動けなくなっている。あまりの勢いに思わず俺はチャーハンと餃子の方は自重したぞ。

 ヴィオラさんはお酒も飲めるらしいから、こっちのお酒を試してもらおうかと思ったが、酔うとどうなるかわからないので今はやめておいた。

「それにしてもあんだけうまいだけでなく、すぐにできて技術もいらねえなんて、ケンタの世界の料理は本当にとんでもねえな。それにこの電灯ってやつも夜なのに魔力も使わずにこれだけ明るいなんて不思議で仕方ねえよ」

「確かにいろいろと進んでいる気がしますね。俺の世界だと、魔法がないぶん科学という技術が発達したんです」

「なるほどな。もしかすると俺の世界でも魔法がなければ違う技術が発展していた可能性もあるわけか」

「ケンタの世界と同じ技術が発達するかはわからないけれど、その可能性は十分にある」

 人間不便であるほど、それを何とか改善しようと新しい技術を開発しようとするものだからな。

「くっくっく、面白そうなもんがいっぱいあるし、しばらくは退屈しなそうだぜ」

「あっ、そういえばレジメルの街の冒険者ギルドマスターから話があるんじゃなかったっけ?」

「そういえばそうだった。あまりにもいきなり師匠が来たから忘れていた。あとで連絡をしておく」

 確かに連絡もなしにいきなり飛んでやってきたからな……。あの状況でその約束を覚えている人も少ないだろう。俺もヴィオラさんの登場で今の今まですっかりと忘れていた。

「ああん、そんなもんパスに決まってんだろ。こんな面白え世界が目の前にあるのにそんな話受けてられっか」

 まあ、ヴィオラさんの性格上、そう言うと思っていた。

「でも今回は深刻そうだったから、一応師匠を見つけたことと、どんな依頼があるのかだけ聞いておく」

「んなもんほっときゃいいのによ」

「最近依頼をサボっているみたいだから、たまには依頼を受けないとSランク冒険者の称号が剥奪されてしまう」

「別にそれならそれで構わねえぞ。初めからそんな称号なんて興味はねえよ」

「……それだと自由にいろんな国へ行けなくなる。それにいろいろと問題を起こした時に冒険者ギルドが間に入ってくれたことも多くあった」

「ちぇっ、面倒くせえなあ」

 自由な人みたいだし、本気でランクなんかも気にしていないらしい。ただ、その分高ランク冒険者には見返りや優遇などがあるのだろう。

 リリスもヴィオラさんのお目付け役が大変みたいだ。

「まあ、気が向いたら行ってやるよ。それよりも、ケンタの家だけでも気になる物が山ほどあることだし、街へ行くのが楽しみだぜ!」

「それなんですけれど、街へ行く前に最低限のことは教えたいのと、2人には変装をしてもらいたいのでいろいろと準備をしてからにしてもらいます」

「面倒だな……。こういうのは準備なんか必要ねえだろ。細かいところは実際に街へ行ってから確認すればいいんじゃねえか?」

 うん、そう返されると思っていた。だけど、これについては俺のリスクもあるわけだし、いくらリリスの師匠だからといって引くつもりはない。

「俺の世界では車という危険な乗り物も多いですからね。それにこっちではヴィオラさんやリリスのようなエルフという種族が存在しません。その長い耳をそのままにしていたら間違いなく目立ってしまい、俺の家やこの鏡のこともバレてしまう可能性もあるのので、これだけは譲れませんよ」

 道路交通法で本当に基本的な赤信号と青信号から教えることになりそうである。俺の世界もこちらの世界とは異なる理由でいろいろと気を付けなければならないことが多い。

 そしてただでさえハリーを連れたキャリーケースが目立ってしまうのに、綺麗かつ尖った耳が特徴的な2人とそのままに行くと、注目を集めることは必至だろう。

 ……まあ、本物のエルフであるとバレるよりも、コスプレをしているようにしか見えないだろうけれど。

「至るところに監視カメラという道具があって、場所を特定できてしまう仕組みがあります。俺はのんびりと平和に生活をしたいだけなので、あまりにも目立つ行動は避けてほしいです」

 そこはヴィオラさんにはっきりと伝えておく。

 最近は技術も進み、嘘か本当か分からないが、衛星からも個人を追うことができるらしい。今後の生活のためにも目立つ行動は厳禁である。