「……今のは違う」

 リリスが顔を赤くしながらお腹を押さえている。

 いまさらそんなに恥ずかしがることはないのにな。そういえばリリスと初めて出会った時もお腹が鳴ったんだっけ。

「そういや腹減ったな。ケンタ、こっちの世界のうめえもんをご馳走してくれよ」

「ええ、俺もお腹が空きましたからね。一応食材はいろいろとあるけれど、何にしようかな?」

「手っ取り早く師匠にケンタの世界の食文化を見せるためにカップラーメンがいいと思う」

「確かに今からご飯を作っていたら時間がかかるから、今日は簡単でおいしいカップラーメンにするかな」

「キュキュ♪」

 確かに初めて俺の世界のことを知ったヴィオラさんにはこちらの料理の味と技術を見せるためにはカップラーメンが最適か。

 それにしてもリリスとハリーは本当にカップラーメンが好きだな。まあ毎回新しい味を試しているから、俺も楽しめるからいいんだけれど。

「そのカップラーメンてのはどんな料理なんだ?」

「すぐにわかりますよ」



「最後に液体スープを入れてから麺を混ぜて完成です」

「すげえ、こんな短い時間でうまそうな匂いのする料理ができちまったぜ!」

 カップラーメンにお湯を入れて待つこと数分、俺たちの目の前にはそれぞれ味の異なるカップラーメンが4つ並んでいる。

 お湯についてはいつものようにリリスが出してくれたのだが、ケトルを使う前につい魔法を使ってしまった。幸いお湯を出すくらいだったらそこまで魔力を使わないから大丈夫らしいけれど、魔力が自然に回復しない以上、あちらの世界にいる時の感覚で魔法を使わないよう注意をしなければならないと言っていた。

 向こうでは魔法を使うことに慣れているから、ちゃんと意識しないといけないかもな。

「うおおおお! こいつはうめえじゃねえか!」

 いただきますをする前にヴィオラさんがフライングをして、フォークでカップラーメンを食べ始めてしまった。

 そういえば向こうではいただきますの習慣はないんだったな。あとでヴィオラさんにも教えてあげるとしよう。

「「いただきます」」

「キュウ!」

 俺とリリスとハリーはいつものように両手を合わせてからカップラーメンを食べ始める。

 今日俺が選んだものはちょっと変化球な豚キムチ味だ。量も多いし、なんとも癖になる味だから学生の頃はよくこれを食べていたんだよなあ。久しぶりに食べてみると懐かしい思い出がよみがえってくる。このジャンクな味がたまに食べるとたまらない。

「ぷはあ~こんなうめえ麺料理を食べたのは初めだぜ! ケンタ、もっとないのか?」

「師匠、みんなでシェアするっていったのに!」

「まあまあ。最初は止まらない気持ちもわかるからね。ちゃんと今日は他のも用意してあるよ」

 チーンッ

 おっと、噂をしていたらちょうど台所の方から電子レンジの音が鳴る。そして火をかけていたフライパンの方も完成したようだ。

「師匠、少しだけって言ったのにひとりで取りすぎ!」

「キュキュ!」

「うるせえ、こんなにうまい料理が悪いんだ! うおっ、こっちもさっき俺が食べた味と全然ちげえじゃねえか!」

「………………」

 台所へ行ってお皿に料理を盛り付けている間にリビングからみんながシェアしたカップラーメンを取り合っている声が聞こえてくる。

 ひとり増えただけでだいぶ食卓が賑やかになったものだ。とはいえ、うちで魔法や針をぶっぱなされても困るので、さっさと仲裁に行くとしよう。

「こらこら、喧嘩しない。まだ料理はいっぱいあるからね。はい、こっちの世界だとラーメンと一緒によく食べられるチャーハンと餃子だよ」

「うおっ、こいつもうまそうじゃねえか! こいつもカップラーメンと同じでお湯を入れて作ったのか?」

「いや、こっちのチャーハンはさっき見せた料理や食材を温める電子レンジという道具で温めたものですね。そっちの餃子はフライパンで少し熱した料理です。どちらもさっき見せた冷凍庫で凍らせておけば何ヶ月も保存できるんですよ」

「そいつはすげえな!」

 前に買っておいた冷凍食品のチャーハンと餃子だ。やはりラーメンにあうものといえばこの2つだろう。

 最近は自分で料理を作ることが多いけれど、この冷凍食品シリーズは好きなので、常に常備してある。

「くっ、うますぎるぜ! こいつは米料理か。前に食った米とは味がまったく違うぞ!」

 向こうの世界でも米料理はあるが、俺の世界の米は時間をかけて品種改良された米だからそれも当然だ。だけどあちらの世界の野菜は自然のものでもおいしかったし、一度は食べてみたいものだ。レジメルの街で米は売っていなかったんだよなあ。

「こっちの餃子という料理もおいしい! 薄い皮の中からおいしい肉汁が溢れて、醤油とよく合っている!」

「キュキュウ!」

 冷凍食品とはいえ侮ることなかれ。最近の冷凍食品の技術はとんでもないからな。特にチャーハンと餃子は俺も社畜時代にものすごくお世話になった。簡単で早くできるうえに味も本当にお店で出てくる料理並みにうまいのだ。一人暮らしで冷凍食品はだいぶ重宝するぞ。

 前にデパ地下でお惣菜を買ってきた時にチャーハンはあったけれど、餃子は初めてだからリリスとハリーも楽しんでくれるようだ。

「おい、リリスにチビ! おまえら餃子を俺よりも多く食べやがったな!」

「師匠はカップラーメンをひとりで全部食べたから、こっちの餃子は私たちが多く食べる権利がある!」

「キュキュ!」

「ちっ、ならこっちのチャーハンは俺が多く食べるからな!」

 今度は餃子とチャーハンを奪い合っている。

 ……なんとも騒がしい食卓になったことだ。だけど、こんな騒がしい食卓も悪くはないものだな。