「平和だな~」
「キュウ~」
アウトドアチェアに座りながらのんびりと釣り竿を垂らす。
ハリーは横のチェアでのんびりと日向ぼっこをしているようだ。リリスの方はというと、いつも通り小屋の中でタブレットをいじったり、鏡や俺の世界の物の研究をしている。
初めて釣りを初めてから3日が経った。最近では朝の方が魚の食いつきはいいことがわかり、午前中は釣りを楽しんでから、午後は畑を少しずつ拡張している。畑の方は芽が出始めた。やはり芽が出ると嬉しいものだな。とはいえ、もう少し育ったら間引きをしなければならないのだが。
本当に人生は何が起こるかわからないものだ。少し前まで死にそうになりながら仕事をしていた時とはえらいちがいだな。こんな生活がずっと続けばいいものだ。
「キュキュキュ!」
「えっ、どうし――」
ドゴーーーンッ
「なっ!?」
日向ぼっこをしていたハリーが突如空を見上げて針を逆立て臨戦態勢になったと思ったら、俺の目にも空に影が浮かんでいるのをとらえた。
しかし、とらえた瞬間にはすでにもう遅く、その影はとんでもない速度で俺たちの目の前、ミスノル湖の手前に空から飛来してくる。
その衝撃で地面はえぐれて地響きが起こり、水しぶきが雨のように空へと舞った。
「キュウ!」
「ハリー、ちょっと待って!」
俺が止める間もなく、臨戦態勢に入ったハリーがその針を飛来してきた影に向かって攻撃を開始する。
俺も何が起こったのかまったくわからないが、いきなり飛来してきたその影は人の形をしていたため、ハリーを止めた。だが、ハリーは目の前に現れた突然の脅威に対してすでに動いてしまったあとだった。
「ああん?」
その人が右手を前に差し出すと、ハリーから放たれた巨大化した複数の針が見えない壁かなにかによってすべて弾かれた。
この人も魔法を使えるのか!?
「ぺっ、ぺっ。あ~くそ、びしょ濡れだぜ。ちっと着地点をミスっちまったか」
その人はダナマベアを仕留めたハリーの巨大化した針をまったく気にした様子もなく、周囲に舞ってかぶった土や水を振り払っている。
「そんでいきなり攻撃をしてくるってことは、てめえらは俺の敵ってことでいいんだよな?」
「「っ!?」」
ものすごい重圧が俺とハリーを襲う。
立ち上がって横に置いてあるクマ撃退スプレーを手にしたところで、この人の魔法か重圧なのかはわからないが、俺の身体は蛇に睨まれたカエルのごとく、指一本動かせなくなってしまった。
「ち、違います! いきなり攻撃をしてしまったことについては謝罪します。まずは話をさせてください!」
今の轟音と衝撃は間違いなく小屋にいるリリスにも届いたはずだ。
もしも戦うことになったら、俺とハリーだけで勝てるような相手ではない。リリスが来て隙を見せたところでなんとかクマ撃退スプレーを当てて気を逸らしつつ、他の護身用グッズでなんとかして撃退してみせる!
「ケンタ、大丈夫?」
「リ、リリス、大変だ! 突然この人がいきなり空から現れたんだ!」
動けなくなった俺とハリーの後ろから聞きなれたリリスの声が聞こえた。クラウドワイバーンを一人で倒した彼女の魔法なら――
「……師匠、いったいなにをしているの?」
「おお、リリスか。なにってお前に呼ばれたから、遠路はるばる愛弟子にまで会いに来てやったんじゃねえか」
「………………師匠?」
「ああ、そういや手紙には男と小さな魔物が一緒にいるって書いてあったか。わりいな、完全に忘れて泥棒かと思っちまったぜ!」
「「「………………」」」
目の前にいる女性は敵ではなく、リリスの師匠らしい。
以前連絡を送ったと聞いていたが、まさかこんな登場の仕方をされるとは想定外過ぎて、そのことが頭の中から吹き飛んでいた。ハリーがいきなり攻撃をしてしまった気持ちは分かる。
確かにリリスの師匠ならば、この小屋の周囲にあるリリスの張った結界を通り、ハリーの攻撃を防ぐことが可能なわけだ。
「ほら、サンキューな」
「あっ、はい」
リリスの師匠から貸していたバスタオルを受け取った。
女性にしてはとても背が高く、175センチメートルくらいある俺と同じくらいで、まるでモデルのようだ。リリスの紫色の髪とは異なるキラキラと輝く銀色の髪を後ろにまとめている。そしてその銀髪からはエルフ特有の長い耳が見えていた。

