「ふう~この作業も腰にくるなあ……」
「キュキュ……」
昼の休憩を挟んでから、ホームセンターで購入してきた鍬を振るって畑を耕す。
雑草を取り除く作業に引き続き、この作業も腰にくる。しかも腰だけでなく、肩や首回りまで早くも痛くなってきた。最近はマウンテンバイクで走って運動をしてきたとはいえ、その前はほとんど運動をしてこなかったから付け焼刃もいいところだ。
畑を作る作業がここまでしんどいとは想像していた以上だな。ネットの動画などを見て大変そうなことはわかっていたが、実際にやってみるのとはだいぶ違う。
ハリーも反対側からその爪を使って畑を耕してくれているけれど、身体が小さいこともあって苦労をしているようだ。
「ケンタ、私も少し手伝う」
「ありがとう、リリス。それじゃあ、少し交代してね。鍬の先は結構鋭いから気を付けて」
「わかった」
しばらくハリーと一緒に畑を耕していると、横に座ってタブレットを使っていたリリスが俺とハリーの方へやってきた。
もしかすると俺たちが畑を耕しているのを見て、自分でも少しやってみたくなったのかもしれない。それにこういうのはみんなでやるから楽しいものである。
「……えい!」
小さな身体で鍬を振るうリリス。すごい魔法をたくさん使えるけれど、力は見た目通りのようだな。
そんなリリスと頑張って土を掘るハリーの姿を見て、また少しだけ癒されてしまった。
「こんなに種を入れていいの?」
「うん。いくつか芽が出てきたら、その中から元気なやつ以外を抜いて少し残す感じにするらしいよ」
「キュウ……」
土を耕したあとは肥料をまいてからもう一度畑を耕して土と混ぜる。次に少し土を盛り上げて畝を作った。
そしてその畝に小さな穴をあけ、種を数粒ずつまいていく。一粒一粒植えてしまうと、発芽しない種も多くあるらしく非効率らしい。複数の種を植えて芽が出たら、一番元気に育っているもの以外を取り除く間引きを行う。
ハリーは残念そうにしているけれど、ひとつひとつを丁寧に育てるのはちょっと難しそうだ。
「種を植え終わったら水をあげよう。リリス、水をお願いしてもいい」
「うん」
ジョウロに水魔法で水を入れてもらってまいてもらう。あとはたまに水をやりつつ、育つのを待つとしよう。
今回の畑はそれほど大きくないのでまだまだ拡張するつもりだ。ベリスタ村のみんなからはいろんな種類の作物の種をもらったし、百均でも早く育ちそうな野菜の種を購入してきた。結構な肉体労働だったし、日を空けて少しずつ畑を拡張していくとしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うう、さすがに筋肉痛が酷いなあ……。ハリーは大丈夫?」
「キュウ!」
元気いっぱいで右手を挙げるハリー。俺の方はというと、肩、首、ふともも、そして特に腰がヤバいくらいに筋肉痛で、身体全体がギシギシときしんでいるみたいだ。
いつも通り軽い朝食を作り、鏡を通ってリリスと一緒に食べる。完全にいつもの日課となってしまったな。ちなみにリリスも俺と一緒で身体が筋肉痛らしかった。俺と一緒であんまり運動とかはしていなそうし、それも当然か。ハリーだけは元気いっぱいのようだ。
「さすがにまだ芽は出ていないか。それじゃあ今日は釣りをしてみよう」
「キュキュウ!」
さすがに昨日植えたばかりの苗は生えていないかった。水をあげつつ芽が出てくるのを待つとしよう。
筋肉痛もあることだし、どちらにせよ連日で畑仕事は厳しそうなので、今日はこの湖で釣りをする。
「疑似餌はどれにしようかな。まあよくわからないから、順番に試してみよう。ハリーどれがいいと思う?」
「キュ」
「よし、最初はこれから試してみよう」
3つの疑似餌を並べてまずはどれを使うかハリーに選んでもらった。ハリーはワームというミミズっぽい疑似餌を選んでくれたので、それを釣り糸の先に結ぶ。
もちろん昨日は動画でしっかりと釣りの動画を見て学んでおいた。すぐにほしい情報が手に入るのは本当に便利だよなあ。
「……私はしばらくこっちにいる」
「うん。一応竿はもう一本買ってあるから、やりたくなったら言ってね」
「了解」
百均で購入した千円の釣り竿は2本用意してあるけれど、リリスはさすがに疲れているようで、ゆっくりとした動きでアウトドアチェアへ座る。
一応見守ってくれているようでありがたい限りだ。リリスの結界があるとはいえ、どんな魔物が釣れるかわからない。俺もいつものように何かあった時のためにクマ撃退スプレーは常備している。
さて、何が釣れるといいのだが。

