「かあ~飲みやすくて最高だな! すぐに飲んじまったぜ」
「エールは冷やすとこんなにうまいのか。まあ、魔法が使えないとどうにもならないけれど」
「普通のエールはもう少しぬるいくらいがちょうどいいと思うよ」
レジメルの街で売っていたビールはエールビールといって、普段俺が飲んでいるビールとは種類が異なる。エールビールは高温で短期間発酵させ、そこまで技術が必要でないことから、俺の世界でも中世ヨーロッパの時代からあったビールだな。香りや風味が豊かで、フルーティーかつ濃厚な味わいが特徴的だ。
対する日本のスーパーやコンビニで売っているビールの大半はラガービールといって、低温で長期間発酵させる。軽い苦みと口当たりで、のど越しがよくスッキリとした味わいが特徴だ。こっちのラガービールはキンキンに冷えていた方がうまいけれど、エールビールは少しぬるいくらいがちょうどいいらしい。
今日の辛味と酸味がある料理にはキンキンに冷えたラガービールの方がよく合う。
「みんなそんな苦い飲み物をよく飲める……」
「キュウ……」
「まあお酒はそんなものなんだよ」
リリスとハリーはお酒が好きではないようだ。以前俺がおいしそうに飲んでいるビールを少しあげたのだが、駄目だった。俺も最初にビールを飲んだ時はなんでみんなこんな苦いだけの飲み物をうまそうに飲むのか不思議だったものだ。繰り返し飲んでいくと、この苦みが癖になってしまうのだから不思議だよなあ。
ちなみにリリスは少女の姿だけれど、自己申告によると年齢は20歳を超えているらしい。どちらにせよこちらの世界では年齢による飲酒制限はないらしいから問題はないけれど、一応ね。
……というか、リリスって何歳なのだろう? 俺の世界でお酒は20歳以上だけど、リリスは20歳以上と質問をしてしまったから、聞き方を間違えたな。
いや、もしかするとエルフのリリスに年齢を聞くのは失礼なことだったかもしれないし、たとえ100歳を超えていたところでリリスはリリスか。
「くそう、これだけじゃ余計に酒が欲しくなっちまうぜ。村長、ケンタたちも来てくれたことだし、ちょっとだけ駄目か?」
「うむ、せっかくケンタたちが来てくれたわけじゃからな」
「よっしゃあ!」
ザイクがガッツポーズをする。
どうやらこの村ではお祝い事や何かがあった時にエールを飲むらしい。俺が前回来た時も振舞ってくれたっけ。
街でのエールやブドウ酒の価格を見たところ、そんなに高いものではなかったけれど、ここまで持ってくるのが大変なんだろうなあ。
「リリス、魔法で少しだけ冷やしてもらってもいい?」
「もちろん」
「おおっ、そいつはありがてえ」
リリスがエールの入った陶器を両手で持つ。他の村の人たちも魔法を使おうとするリリスに注目する。
「……はい、おわった」
「ありがとう」
今回は特に派手なことが起こらず、そのまま陶器を渡されただけだった。その陶器は確かにちゃんと冷えている。
とはいえ、少しだけ村のみんなががっかりしていることがわかる。魔法と聞けば、さっきの収納魔法のように派手な魔法を期待していたのかもしれない。
「ねえ、リリス。せっかくだから、少しだけ派手な魔法をみんなに見せてあげられないかな?」
「……もちろん構わない」
俺の意図を汲んでくれたようで、リリスが立ち上がり、右手を前に突き出した。
「「「おおおおお~!」」」
リリスの前に巨大な炎の火柱があがる。そしてその火柱は徐々に形を変え球体となり、そのまま空高く舞い上がり、最期は弾けて空に散った。
「すごい、これが魔法というものか!」
「実に見事だ!」
「リリスお姉ちゃん、すっごい!」
今の魔法に感動した村の人たちがパチパチと拍手を送る。
派手な魔法を希望してみたけれど、まるで花火みたいだったな。村の人たちも歓声を上げて大満足だったようだ。俺でも驚いたのだから、魔法に慣れていないベリスタ村のみんなはさぞ驚いただろう。
そのあとはみんな興奮した様子で、リリスに話しかけてきた。
「ふう~おいしかったね」
おいしいご飯をいただき酒を飲み、ほろ酔い気分で客人用の家に戻ってくる。
「キュウ~♪」
「ケンタが言っていた通り、確かに野菜がとてもおいしかった」
「収穫したばかりの野菜は味が違うよね。それに俺の世界の野菜よりもおいしいみたいだ」
味付けなんかは俺の世界の方が豊富だけれど、野菜や魔物の肉なんかは基本的にこちらの方がおいしいらしい。
「村長さんに野菜の種なんかをもらって小屋の近くで作ってみてもいいかもしれないな。リリスの結界のおかげで魔物なんかが入ってこないわけだし、野菜を育てるのも楽しそうだ」
「キュキュウ!」
自分たちで野菜を育てて、収穫してその場で食べる。うん、最高のスローライフじゃないか!
実際には作物を育てることはそれほど簡単なことじゃないと思うけれど、家に帰ったらやってみるとしよう。

