「今日はこのベリスタ村に泊めてもらえるから、ゆっくりとして明日の午後くらいに帰ろうね」

「キュウ!」

 前回俺とハリーで来た時と同じ客人用の家を案内してもらった。相変わらずリリスと一緒の部屋だけれど、ハリーも一緒にいるからな。

「この村の人たちはみんな良い人たちでしょ。……まあ、エルフという種族をリリス以外見たことがないからかもしれないけれど」

「確かに私のことを街の人とは違った目で見てくる人ばかりだった」

「エルフという種族どころか、人族以外の種族がほとんど来ないみたいだから大きな村や街とは違うんだろうね」

「こういった村を訪ねたことがあまりないからわからなかった」

 ベリスタ村の人たちはリリスがエルフという種族でもまったく気にしていないようだった。

 リリスはエルフの里で育ったあとは師匠にいろいろと教わって、大きな街を転々としてきたらしいけれど、ベリスタ村のような辺境の村にはあんまり来たことがないらしい。確かにこの辺りは街まで結構な距離があって大きな森もあるし、この湖を観光に来る人くらいしか観光客も来ないのだろう。

 とりあえずリリスが問題ないようでよかった。さて、晩ご飯の前にまずは野菜を見せてもらおう。魚については明日漁に出て獲れた魚を交換してもらえる予定だ。リリスの収納魔法があれば獲れたての新鮮な状態で保存することができるから、家に帰ってからおいしい魚料理を作ることができるぞ。



「これだけでよろしいのですか?」

「ええ。むしろこんなにたくさんですよ」

 客人用の家で少し休憩したあと、村長さんと一緒に村で収穫した野菜を物々交換してもらっている。やはりこの村ではお金よりも品物の方がいいらしい。

 前回もらった野菜で特においしかった野菜を選んでいただく。今回はリリスの収納魔法があるから、たくさんの野菜や魚を持って帰ることができる。とはいえ、街で購入してきた野菜もまだいっぱいあるので、あまり多すぎない量をもらった。それでも結構な量だけれど。

「塩は肉や魚を保存するためにいくらあってもよいですからな。それに香辛料はたまの楽しみとしてありがたいです」

「それはよかったです」

 こちらがベリスタ村のみんなに持ってきたものは岩塩と香辛料である。レジメルの街へ行った時にこちらの世界の物価をある程度確認することができた。あまり目立ち過ぎず、みんなが必要そうな物を選んできたつもりだ。

 海とは違ってこの湖から塩を得ることがでできず、干物や肉の保存に塩は必須だし、この前いただいた料理にも塩が使われていた。村長さんの言う通り、ここでは塩はいくらあってもいいはずである。

 そして塩についてはこちらの世界で普通に売っている真っ白で小さな精製された塩ではなく、岩塩を選んだ。街でも塩は販売していたのだが、俺の世界の塩のように真っ白な塩はなく、ところどころ黒色で一粒一粒がとても大きい。

 こちらの世界にも岩塩はあったので、より身近そうな岩塩にした。……ちなみに俺の世界では普通の塩よりも岩塩のほうが遥かに高かったなあ。大丈夫だとは思うが、俺が渡した塩で面倒ごとが起きたり、湖の小屋やリリスのことがバレても嫌だからこちらを選んだ。

「こちらの香辛料は街で購入してきたものですね。こちらの茶色いのは少し酸味があるので、生の野菜にもあいます。こっちのは少し辛味があって、焼いた肉なんかにもあいますね」

「なるほど、ありがとうございます」

 香辛料についてはレジメルの街で購入した物を持ってきた。

 ザイクたちにお世話になったことだし、本当は岩塩ももっと渡してもよかったのだけれど、この村へやってくる行商人もいるから、あまりそういったバランスを壊すことは良くない。俺は目立たずにおいしいご飯を食べてのんびりと過ごすことができればそれで満足だ。

「ほう、それが収納魔法ですか! 魔法を使えるとはリリス殿は本当にすごいですな!」

「私は魔法自体初めて見ましたよ」

「……それほどでもない」

 村長さんと村の人が交換した野菜を黒い渦に次々と入れていくリリスの収納魔法を見てとても驚いている。

 街の方だと魔法を使った魔道具なんかも売っていたけれど、ベリスタ村のような場所では魔法自体もかなり珍しいようだ。リリスも魔法を褒められてとても嬉しそうにしている。