「おっ、ベリスタ村が見えてきた」

「キュウ」

 リリスの飛行魔法で空を飛んで湖の周りを回っていくとベリスタ村が見えてきた。

 前回の街までの往復でリリスの飛行魔法にもだいぶ慣れ、今回は森のように高い木々がなく、そこまで高く飛んでいなかったから怖くはなかったし、大きな魔物に遭遇することもなかった。

 そしてやっぱりマウンテンバイクで走るよりもだいぶ速い。まあマウンテンバイクに乗るといい運動になるんだけれどな。

「村の手前で降りる」

「うん、よろしくね」

 リリスはベリスタ村を訪れるのは初めてだから、いきなり空を飛んで村に入ってきたら驚かれ、誤って攻撃されてしまうかもしれない。少し手間だけれど、一度地面に降りてから歩いてベリスタ村へ行くとしよう。



「こんにちは~」

「キュキュウ~」

「ああ、ケンタさん。いらっしゃい」

 村の入り口から中へ入ると40代の女性のマーシャさんがいたので挨拶をする。さすがに肩に魔物が乗っているハリーと俺のことは覚えてくれていたみたいだ。

「またお邪魔させていただきます。村長さんとザイクはいますか?」

「ザイクは村の外に出ているけれど、村長はいるわね」

「ありがとうございます」

「今日は可愛らしい女の子もいるのね」

「……こんにちは」

「あらあら、本当に可愛いらしいわね。その子耳が……」

「リリスはエルフという種族なんですが、この村に入っても大丈夫そうですか?」

「ええ、もちろんよ。エルフの方がこの村に来るなんて初めてじゃないかしら。あとでおばさんともお話してね」

「はい」

 以前ザイクとビーターが湖の小屋まで来てくれた時に、リリスと一緒にこの村を訪れる可能性も考えて聞いておいたけれど、やっぱり大丈夫そうだ。

 こっちの世界だとそういったことも配慮しないとな。



「あっ、ケンタお兄ちゃんとハリーちゃんだ!」

「おお、ケンタか」

「ミレルちゃん、ビーター、またお邪魔しているよ」

「キュキュ!」

 村の中へ入れてもらって、まずは村長さんの家へ挨拶に向かうおうとすると、ザイクの娘のミレルちゃんとビーターがいた。

「おう、また来てくれて嬉しいぜ。おや、その女の子は……」

「彼女は俺がお世話になっている知り合いなんだ。一緒にお邪魔させてもらっているよ」

「リリス。よろしく」

「俺はビーターだ、よろしくな」

「ミレルだよ。よろしくね、リリスちゃん。あれ、なんだかリリスちゃんの耳は長いね」

「リリスはエルフという種族なんだよ。エルフは耳が長いらしいんだ」

「エルフなんて初めて見たぜ」

「へえ~格好いい! ねえ、一緒に遊ぼう!」

「……あとでね」

 ミレルちゃんはリリスの長く尖った耳を見てそんなことを言う。どうやらリリスがエルフであることは2人も問題ないみたいだ。

 そして少し背丈が大きいくらいのリリスを同い年くらいと思っているらしい。そのあたりはあとで説明するか。

 他の村の人たちに挨拶をしつつ、村長さんの家へ移動した。



「ケンタ殿とハリー殿は息災なようで何よりです」

「村長さんもお元気そうで何よりです」

「キュウ!」

「おや、そちらの方は?」

「俺のお世話になっている知り合いです」

「リリス。よろしく」

「ほお、エルフの方とは珍しい。儂はセルムと申します。よろしくお願いします、リリス殿」

 どうやら村長さんは俺たちが説明する前にリリスがエルフということがわかったようだ。街にも行ったことがあるみたいだし、村長さんは物知りなのだろう。

「以前にいただいた魚と野菜がとてもおいしかったのでまた来てしまいました。今回はお金やいろいろと交換できそうな物を持ってきたので、よろしくお願いします」

「とんでもない。ケンタ殿とハリー殿には以前ザイクがお世話になっておりますし、ダナマベアの肉や素材もいただきました。また、持っていってください」

「いえ、それは前回いただいたぶんで十分ですので、今回はちゃんと対価を払わせてください。それに当分の間は湖の向こうの方で過ごすつもりなので、今後も長くお付き合いさせていただきたいですからね」

 ここでとれた野菜や魚は俺の世界の物よりもおいしかったし、長期的にお世話になるつもりでもある。この村は大きくて豊かな湖に隣接していることもあって、食料にはそれほど困ってはいないらしいけれど、しっかりと対価は払わなければならない。

「ふむ、相変わらずケンタ殿は優しいですな。そのご厚意、ありがたくいただきましょう」

 ご厚意というか当然のことなんだけれどな。こっちの世界だと危険が多いからか、受けた恩はしっかりと返すという考えがあるらしい。

 俺の世界の人も見習ってほしい考え方だ。