「昨日は楽しかったな。急に仕事を辞めて田舎に引っ越したって聞いて心配したけれど、元気そうにやっているようでよかったよ」
「ああ、また連絡するよ。今度は俺がそっちの方へ遊びに行くよ」
ハリーと一緒に外で車に乗った雄二を見送る。
「おう、いつでも大歓迎だぜ。その時はハリーも一緒に来てくれよな」
「キュウ!」
俺の肩の上で右手を挙げるハリー。
雄二もハリーを気に入ってくれたようだ。これくらいならハリーが返事をしてもバレなそうだな。
「それとな、健太。例の部屋だけれどな……」
「お、おう……」
いきなりの雄二の指摘にドキッとしてしまう。例の部屋とは鏡のあるあの部屋のことか?
雄二に家の中を案内をした時に鍵の付いた例の部屋はいろんな貴重品が置いてあると伝えたのだが、なにか怪しまれてしまったのだろうか……。
「心配しなくても俺にはわかるぞ。そりゃ金があって郊外のこんな家に一人で暮らすことになったら、そういった部屋は必要だよな。高画質のモニターとかVRとか最新の技術はすごいからなあ。俺にもおすすめのやつがあったら教えてくれ」
「………………」
どうやら雄二にはそういった部屋だと勘違いされてしまったらしい。
「ああ、さすがにバレバレだったか」
「ははっ、何年の付き合いだと思っているんだよ。中学生の頃道に落ちていたエロ本を一緒に見たことはまだ忘れていないぞ」
「キュウ?」
「オッケー、雄二。そこまでにしておこう!」
ハリーもいることだし、懐かしき我らが青春の思い出話はそこまでにしておくとしよう。
「それじゃあ、またな」
「おう」
「キュキュ!」
ブロロロ。
俺とハリーに見守られて、雄二の乗った車が去っていく。
たまにメールでは連絡していたけれど、合うのは本当に久しぶりだったな。これからは時間もたくさんあることだし、今度はこちらから会いに行くとしよう。
「このカップラーメンという食べ物はまさに至高の発明品! この料理を開発した者に私は最大の敬意を表する!」
「そ、そうなんだ……」
「キュウ?」
雄二を見送って鏡を通って異世界へ行くと、リリスが興奮気味にカップラーメンの容器を上に掲げている。
昨日は雄二が突然うちへやって来ることになって、リリスのご飯としてこいつを置いていったのだが、俺が思っていた以上に気に入ってくれたみたいだ。
お湯の方は魔法で沸かすことができるらしいので、100均のキッチンタイマーだけ置いていってあげた。
「お湯を入れてたった3分待つだけで高級料理店でも出てこないような麺料理が食べられるとは思ってもいなかった。特にこのスープの味は今まで食べたことがない!」
「あ、ああ。最近のカップラーメンの味はすごくおいしいよな。リリスの気持ちは分かるぞ」
と言いつつ、若干引き気味である。
そうか、異世界の住人がカップラーメンを食べるとこういう反応になってしまうのか……。確かにおいしい肉や野菜はこっちの世界で食べられるけれど、このカップラーメンのスープのような味は今までに食べたことがなかったのかもしれない。
「キュキュウ!」
「わかったよ、ハリーにも今度食べさせてあげるからな」
リリスの言葉はわからないが、どうやらおいしい食べ物だとわかるようで、俺にしきりに訴えかけてくる。そういえばハリーにもラーメンはまだ食べさせていなかったか。
「ケンタ、このカップラーメンという食べ物はまだある? お金なら払うからもっとほしい!」
「いや、金貨はさすがに多いよ! こっちの世界だとカップラーメンは銅貨3枚もあれば買えるからさ」
「こ、この料理がたったの銅貨3枚? ケンタの世界の物価はおかしすぎる……」
リリスがこれほど驚いた表情を見せるのは俺が異なる世界の住人であることを知った時以来だな。そこまでカップラーメンの衝撃が大きかったのか……。
「というか、カップラーメンはこれだけじゃなくて年間で1000種類以上も新しい種類が出ているらしいな。昔の物を入れれば何万種類あるかわからないぞ」
「っ!? ちょっと見せて!」
スマホでカップラーメンの情報を調べてみたら、そんな情報が出てきた。確かに毎日のように新作が出ているなと思ったけれど、それだけ新しい種類が開発されているのなら、それも納得だ。
俺がスマホでいろんなカップラーメンのパッケージを見せてあげると、それをまじまじと見つめるリリス。まさかカップラーメンにそこまで興味を持つなんてな……。
「カップラーメンばかりだと栄養が偏ってしまうから、さすがに毎食はアレだけれど、たまに食べるくらいならいいか。あと、カップラーメンは早く食べられて便利だけれど、普通のラーメンの方がおいしかったりするよ」
「食べてみたい!」
「キュ!」
「そうだな、今日の昼ご飯はラーメンにするか」
どうやら2人ともラーメンが食べたいらしい。リリスは二日連続でラーメンになってしまうが、たまにはそういう日もあっていいだろう。

