「……え~と、おはようリリス。なにかあったの?」

 小屋の方へ戻るとリリスは起きていたみたいだ。

 しかし、なぜかものすごく不機嫌な顔をしていた。

「昨日の夜にすごくおいしそうな香りがして、ケンタたちの方を見ていた。あの料理はなに?」

「あ、ああ。あれは唐揚げという料理だよ。熱した油に衣を付けた肉を浸すと衣の中に肉の旨みを閉じ込めることができるんだ。肉自体にタレで味をしみ込ませているから――」

「私も食べたい!」

「………………」

 ものすごく食い気味でこちらに詰め寄ってきた。

 なんだ、唐揚げが食べたかっただけか。というか……。

「もしかして昨日の晩ご飯は食べてないの? 携帯食がまだ残っているって聞いていたけど?」

「……目の前であんなにおいしそうな料理を食べているのにあの固くて臭いのきつい携帯食は食べたくなかった」

「な、なるほど……」

 気持ちはわからなくもないけれど、今日改めて言ってくれればそれくらい作るのだから、我慢すればいいのに……。いつも料理を食べているところを見てちょっと思っていたけれど、リリスはグルメというか、食いしん坊なんだな。

「結界の届くギリギリの範囲でケンタとハリーに合図を送っていたのにずっと気付いてくれなかった……」

「えっ、全然気づかなかった。それはごめん」

「キュウ?」

 どうやらザイクとビーターが見えない結界ギリギリのところまで近付いて合図を送ってくれたようだけれど、それには気付いていなかった。

 俺とハリーは小屋の方を背にして座っていたし、暗い中だと目の前にある焚き火へ視線が行ってしまうからそのせいかもしれない。

 というか、そこまでするのなら、一緒に来ればよかったのに。いや、一応この小屋と鏡のことがバレないようにリリスが配慮してくれたのかもしれない。

「残念だけど、もう全部食べちゃったし、食材ももうないんだ。ダナマベアの肉とかでも代用できるのかな? ……駄目か、やっぱり唐揚げには鶏肉が一番適しているらしい」

 すでにグロウラビットの肉はハリーも含めた4人でペロリとたいらげてしまった。

 まだ少し残っているダナマベアの肉で唐揚げを作ってみようかと思ってスマホで調べてみたけれど、そういえば牛肉や豚肉の唐揚げを見たことがないと思ってスマホで調べてみたら、他の肉だと水分量が少なく硬めでパサついてしまうため、鶏肉が最適らしい。

 そういえばグロウラビットの肉もモモ肉以外は少しパサついていた気がする。和牛なんかは特に水分量が少なく、唐揚げには向かないようだ。

「うちに鶏肉はないから街まで買いに行くか。それじゃあお昼ご飯は唐揚げにしよう」

 2食連続で唐揚げとなってしまうが、リリスがここまで意思表示したのは初めて見たし、昨日はウサギ肉だったからいいだろう。

 お店で買ってきた唐揚げもうまいのだが、やはり昨日の揚げたての唐揚げは本当においしかった。せっかくだから自分で作るとしよう。

「……鳥肉があればいいの?」

「ええ~と、そうだね、鳥ならおいしく食べられそうかな」

 俺が言っていたのは鶏の意味の鶏肉だったのだが、鶏の他にも雉や七面鳥など鳥の肉は比較的水分量が多いらしい。

「ちょっと待ってて」

 そう言いながらリリスは目を閉じて動かなくなった。

 もしかして、なんらかの魔法を使っているのだろうか?

「……いた」

「うおっ!?」

「キュ!?」

 突然目を見開いたと思ったら、突然リリスの身体が宙へ浮き、そのまま空を飛んでいった。

 ここに来る時も風魔法で空を飛んできたと言っていたが、実際にこの目で見るのは初めてだ。すごいな、まさか魔法の力で空を飛べるとは……。

 そして空に何度か激しい光が煌めき、大きな音が轟いた。少しするとリリスが空からゆっくりと降りてきた。リリスの手には3羽の大きめの鳥が握られていた。

「あと必要なものはある?」

「……いえ、大丈夫です」

 思わず敬語になってしまった。

 さっきのは探知の魔法か何かを使っていたのかもしれない。それにしても魔法の力は本当にすごいのだな……。一瞬で3羽もの獲物を狩ることができてしまうとは。俺の世界の技術も便利だが、魔法もかなり便利である。



「……っ!? 外はサクッとしていて香ばしく、中はとってもジューシーでおいしい!」

「キュキュ♪」

 先ほどリリスが獲ってきてくれた素材を使って唐揚げを作った。もちろん鳥の解体なんてしたことのなかった俺だが、スマホで調べながらなんとかといった感じだ。

 以前にザイクがダナマベアの解体をしているところを見て少し耐性がついていたから助かった。あれだけ大きな魔物と比べると、まだこれくらいの鳥型の魔物ならなんとかそれほど気持ち悪くならずに解体することができた。

 さすがに解体したのは1羽だけで、残りの2羽はリリスの収納魔法で保存してもらったが。

「うん、昨日のグロウラビットの肉よりもこっちの方がおいしいかもしれないな」

 もちろん自分で解体をして苦労したという補正もあるかもしれないが、昨日食べた唐揚げよりもおいしくできた気がするし、市販の鶏肉の唐揚げよりもおいしい。

 やはり俺の世界の肉よりもこちらの世界の肉の方がうまい気がする。