「ふう……いろいろと買いこんじゃったな」

「キュキュウ!」

 鏡を通って元の世界へと戻り、車で街の大きなデパートへと買い物に行ってきた。もちろんハリーも一緒である。

 それにしても大きなデパートは本当にここだけで何でも揃うからありがたいな。

 リリスから頼まれていた物と俺が必要な物、そしてお昼ご飯は前と同じデパ地下でお惣菜を買ってきた。なんだかんだで結構時間が経ってしまったぞ。

「さて、あっちの世界へ行く前にこっちの作業をしておこう」

「キュ」

 リリスはまだ休んでいるだろうから、先にこっちの方を済ませてしまおう。

 名付けて、向こうの世界でも快適に過ごせるようにしよう計画だ! ……そのまんまか。

「さてと、まずはこいつの出番だな」

 ホームセンターで購入してきたドリルを手にする。

「よし、この辺りだな。それにしても、家の壁に穴をあけるというのは思った以上に緊張するな……」

「キュウ……」

 手にした電動式ドリルを俺が普段使っている部屋の壁に当てる。この部屋の隣はもちろん鏡を置いてある部屋だ。

 ウィ~ン。

 ガガガガッと壁の削れる音がして、壁に穴が空いていく。自分の持ち家と言っても、壁に穴をあける行為はなんだか背徳感がある。それと同時にやってやったという解放感もあるが。

「こんなものか。それじゃあこの穴にコードを通してと……」

 壁に15センチメートルほどの穴を空け、そこにいくつかのコードを通していく。そして隣の部屋へ移動し、そのコードを引っ張っる。

「リリスは……うん、ちゃんと寝室にいるみたいだな」

 今朝のこともあって、ゆっくりと鏡を通る。相変わらず本と道具がたくさんあるこの部屋にリリスはいなかった。ちゃんと隣の部屋で休んでいるようだ。

「さて、これでいけるかな?」

 俺は鏡の中を通してある物をこちらの世界へと持ち込んでいる。

「よし、ちゃんとWi-Fiは繋がるぞ!」

「キュキュ!」

 俺が持ち込んだ物はWi-Fiのルーターだ。リリスから聞いた話によると、この鏡は周囲の魔力とやらを吸収して半永久的につながっているらしい。そのため、俺は長い電話線と延長コードを新たに購入してこの鏡を通して異世界へと持ってきた。

 つまり俺の部屋にある電話線から壁の穴を通して隣の部屋へコードが進んでいき、そこから例の鏡を通ってその先にある小屋のルーターへと繋がっている状態だ。電話線と一緒に長い延長コードも繋がっているので、今鏡には2本のコードが通っている状態である。

 電話線と延長コードにより、少しだけだが家の電波と電気を異世界へと持って来られたというわけだ。その証拠に圏外であるはずのスマホがWi-Fiを通してネットに接続できている状態である。

 これによっていちいち鏡を通って元の世界へと戻らなくてもスマホで検索が可能となった。なにかを調べるために家まで戻るのは地味に面倒だったんだよ。

「実験はうまくいったから、あとは誤ってコードを引っ張って鏡が倒れないようにコードと鏡を固定しよう」

「キュ~」

 この方法だと常にコードが鏡を通っている状態なので、誤ってコードを引っ張って鏡を倒してしまわないようテープでコードを固定し、鏡をしっかりと固定しておいた。

 隣の部屋の入り口からは鏡を反対に向けているので、鏡を通ったコードも見えないようになっている。わざわざ部屋の奥まで行き、鏡の下の方を見てようやくコードが鏡に吸い込まれていることに気付けるくらいだ。

 この部屋には鍵をかけているし、ないとは思うが泥棒が入ったとしても、手前にある金庫に気を取られて部屋の奥まではいかないだろう。小屋の方は例の結界があるし、しばらくリリスが滞在するらしいし、防犯面に関してはこれで十分だろう。

「ケンタ、お帰り。ちゃんと休んだ」

「ああ、そうみたいだね。こっちもいろいろと準備ができたよ。先に少し遅めの昼ご飯にしよう」

「キュ!」

 小屋の方の鏡も倒れないように壁と床に固定して諸々の準備が終わったところで、ちょうど隣の部屋で寝ていたリリスも起きてきたみたいだ。

 買い物をして、日曜大工をおこなっていたからすでに正午はだいぶ過ぎている。まずはデパ地下で購入してきたお惣菜を食べるとしよう。



「キュキュウ~♪」

「どれも本当においしいし、初めて食べる味ばかり! ケンタの世界の料理はどれもすごい!」

「俺の世界だと食文化や流通がだいぶ進んでいて、別の国の料理を簡単に食べることができるからね。むしろ自分の国の料理を食べる方が少ないくらいだよ」

 なんなら純粋な和食よりもラーメンやハンバーガーを食べる機会の方が多い人もいるだろう。

 俺としてはいろんな世界の料理をいつでも食べられる方がありがたいものだ。

 ハリーもリリスもデパ地下のお惣菜を楽しんでくれた。