ゐ二し古ゑ乃宮中妖りんレん花恋絵巻

…ぽぅぽぅと仄ノあかる、火わたの野を
一筋の光が差し込んで、夕火風が吹き渡ってゆく…

椿の生け垣の並木道を抜けて、小川を渡ると、
夕の火明かりのなか、木々の影を揺らし、

常盤色に若葉の萌ゆる
桜花ははか乃野に鈴(レイ)は来た。

夕月と夕日の傾く雲の隙間、
二藍に淡桃のチューリップ模様の袖を

揺らし、鈴は彼女を抱きしめて…

階段を上がると、鳥居のなかに入った。

…木々に明かりを灯す、蛍の森のなか…
雨上がりの水たまりに子ども達の影が映る。

…帰り道に子ども達の笑い声が響くと、
鳥居の端に小鬼が座って、ケタケタ話しかけてきた。

「…はやく帰らないと、とって食うぞ。」

「…うるさい!」

子鬼を手で追い払い、走り回る子ども達の
そばを抜けて、谷風の吹く蛍の杜に

…若葉の桜木の垂縄が揺れる。

鈴は鳥居のなかに入ると、
蝋燭に火をつけて、桜絨毯の上に

腕に抱いた彼女を眠らせた。

祠のなかに蝋燭の煙が立ち込めて、
瞳を瞑ると、鈴は夢のなかを…

その、花のわたつみのなかを歩いて行く。

…桜木で眠る、彼女の夢をみる…


❀❀❀


……私を、みないで……


…由良ゆら…由良ゆら…

…由良ゆら…由良ゆら…

桜の花が舞い咲る薄紅色の野のなかを
〈火ノ由良〉がたゆたふ…。

…由良ゆら…由良ゆら…

…あなたヲ想い浮かべる…

…閉じた瞳 描く君恋

…魂由良ノ君…


…由良ゆら…由良ゆら…

…由良ゆら…由良ゆら…


…由良ゆら…由良ゆら…


…栗の木の丘を越えて、
小花の咲き乱れる若野道を行くと…

八重に咲き続く桜花ははかノ野に出る。

…桜灯籠の並木道に…ほぅほぅと
瞬く玉の緒が桜花ははかの花に

…結わえられている。

…千に、千に…揺れる桜の花に結んだ桜火…

…蜂蜜で練った蜜燭に、この夢火が揺れて、
桜の花の枝にたわわになった結んだ花紐の鈴

は憂えた横顔に彼の綺麗な輪郭を映した。

「…ねぇ、魂って、あると想う?」

鈴は不思議そうにそう言った。

「…うん。あると想うよ?」

「…この体は、病に蝕まれている。」

「…花に変えたら、」

もなみは桜の花にふれて、言い淀んだ。

もしも、神様というものがあるのなら、

…流行り病を、桜の花に変えて…
花野に絵の具で彩をおくってことを、

するってゆ‐ことを、
してもいいんじゃないかって。

彼女は優しそうにそう言った。

「…大丈夫なんて、いえない。」

…鈴が静かにそう言った。

「…?」

「…綺麗ね。」

もなみが桜の花を押し分けて、
下から見上げる。

「…ケポ‐ッ!」

鈍色の毛玉りのケポ‐という
名の妖が一振りの花枝ノ上で相槌を打つ。

「…村に邪レゐが襲いかかってくる…。」

「…この月夜未ノ村に。」

「…ふぅん‐。」

「…人に取り憑いて、
獣みたいな奇病にさいなまれる…。」

「…気をつけるッ。」

…話を聞いていた座敷童子は
いたたまれなくなって、突然そう言った。

でも…いつからか、出会った人だった…。

「…大好き、だよ。」

…忘れてしまったのかも、しれない。
…鈴を愛していたことを…。

…その人だった、ことを。

「…僕もだよ。」

…桜の花が舞い咲るなか、
あなたがかけてユク…。

…春風が舞い込むように…
飛び込んできた、花衣も。

…花風をふわり、と抱きしめる。

桜花ははかノ木に誰そ彼れる
…夕宵夜(ゆうよいみや)

…桜花ははかノ野で二人は出会う…

     …出会う…
       …出会う…

    …出会う…

       …出会う…

…桜の花に桃色に薫る
   …おかげヲ…
花わたごと、抱きしめて…

…あなたのことを、想ふ…。

「…歌を歌いましょう。」

人の姿をした人魚が言う。

桜コードの有線を引いて、JAMで歌う。

「…お‐ッ♥!!!」

座敷童子が嬉しそうにマイクを持って叫ぶ。

「…歌っちゃお♥!」

〈… 桜らん乃ぉ花Bell …〉

…ころん。ころん。
…ころ。ころ。ころン。

…ころン。ころん。
…ころ。ころッ。ころン。

…花鈴。…花鈴。…鈴が なル。

…こロん。ころん。
…ころ。こロ。ころン。

…ころん。コろん。
…ころ。こロ。ころン。

…夕鈴。…夕鈴。
…桜らん乃ぉ花Bell。

…ユ夕ふ。誰ソ彼れとのTell。
…鈴。…鈴。

ユ夕ふ…彼れだケの、

〈… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …〉


✿✿✿


ぞろぞろと出てきた妖たちが
マイクを持って、歌を歌っている。

座敷童子の高い声が響く。

鈴はマイクを持って、歌い続ける。


✿✿✿


…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。

…ふゎっと、
手に取って。桜ノ花を…

…花の鈴ヲ ころコろ。
…夕の鈴ヲ ころコろ。

…Bell。Bell。…琴と花菊。
卯タふ。…りりり。

…虫の音。

ならして…

小さな鈴の花が
…ぽぅぽぅと仄のあかる。
…そッと、耳に届ケた。

…花の…lave.coll..

ぉかげの花畑ケで 花を
摘む…誰ソ彼れ乃君に想ふ…

…りりり。

…細ぃ花ノ枝を 手に取って。

…鈴。…鈴。
…鈴ノ数だケ 花を摘む。

…君だけの花ヲ 摘む数ゎ…
… 霊花イ〈レイカイ〉てんヮ …

…ころ。コロ。
…花鈴ヲならして…。

…ころん。ころん。
…ころ。ころん。

…ころん。…ころん。
…ころ。コロっ。ころん。

…花乃lave.collぃんぐ。
…ーーーッ。

「…2~3日ぶりッ。
ぉかげの花畑。…たくさん
はたらィてたから…おかげ。

たくさん持ってきたョ!

って すごく 嬉しかったコトっ。」

…あなたがぎューーー…って
してくれタこと。

…あなたがちューーー…って
してくれタこと。

…この世界乃中で

あなただケが…
この瞳にぅっルこと…ッ。

…今ゎ昔の。
永遠の彼名タのコトっ。

…桜らん。…桜らん。
…桜らん乃ぉ花Bell。

…桜の花乃ぉまじなぃ。
…ころ。コろ。…ころン。

…ひ1と。ふ2タ。ミ3。ょ4。
…と、数ヲかぞゑて…

花乃ぉみくじヲ添ぇて。

…開ぃた 花文。恋乃係。
…lave.le.t-t.er.

…その日までに。
…その日までに。

その日が楽しみって
…結ってくれタこと。

…ゐ二し古ゑより ずっと
同じ彼名タに 恋してる。

…ずっと。…ずっと。


その後も妖たちと夢のなかでカラオケを
してて、鈴のいる祠の奥まで

みんなでいつまでも歌い合ったあとが残っていた。


✿✿✿


春風の匂いがして、村の軒差しの
干し物がひらひらはためく。

幼い頃の鈴が母親の膝の上で
寝息を立てていた。

…花梅の衣から春の香りがして…
 …夢からさめて、ゆく…

…薄紅色に染まる桜花ははかの森で…
溢れ落ちた、陽だまりのなか

…桜花ははかノ枝を持って、
鈴が舞を舞う鈴の音が聞こえる…。

…さぁ…さァら…らんらん。

…さぁ…さァら…らんらん。


…夢を、みる…まろ夢を…


✿✿✿


…誰そ彼れの夕野から梅の花の香りが
春風に乗って、刻が〈今は昔〉にtimeslipする…。

2月14日(土) valentine♥day

…春空を彩る〈花ユ夢めノわたッ海〉…

どこまでも続く桜色の空に
…夢海が広がっている…。

夢に沈んだ電車の線路道はつながっていて
この切符を買えば、あの森に行ける…。

…玲斗はこの

〈花ユ夢めノわたッ海〉を、歩いて行く…

…ちゃぷ…ちゃぷ…

…ちゃぷ…ちゃぷ…


…さぁ…さァら…らんらん。

…さぁ…さァら…らんらん。

しばらく行くと、一宮があって、

桜花ははか乃野の奥の祠の小さな
鳥居を行くと…そこからtimesliphallにつながっていて

…timesliphallの桜花ははかノ花の舞う刻風に包まれたら、

その花海の道をちゃぷちゃぷ
歩いて、桜乃のいる可愛いお部屋に出た。

お部屋の赤いチェックのカーテンが揺れる
小窓から太陽の光が差し込んで、そこから花海が見える。

薔薇の花の咲くガーデンの
花庭が花海のなかに広がる。

窓際には白いレースのbed♥が
置いてあって、茶色いチェスターが、

ドレッサーにかけたのブルーの花模様の
ワンピースの傍にあった。

机のうえには仕掛けの裁縫道具が
使ったままになってて、針の通った

ミントグリーンのボレロを縫ったミシンが置いてあった。

熊の人形のリュックサックが
bedの柱にかけてあって、

小鳥と花カゴのパッチワークキルトがかけてある。

…部屋のbedの上に猫クッション
を置いて、その隣にクッキー缶の

…プレゼントがあった。

鈴はbedの上に飛び乗ると、

プレゼントの包装をといて

もなみからお菓子の箱をもらうと、
アイシングクッキーを食べた。

ハートマークのクッキーに
アイシングペンで〈愛してる〉

って、描いてある…。

クッキー缶と一緒に梅桃の花と
添えられてたのが桜桃色ノ夢鈴飾りだった。

…鈴が首飾りをつける…

…鈴がネックレスをつけては
千草色の着物に由良ゆら揺れてる…。

…夢のなかで、君を想う…

優しかった彼の琴ノ花(ことのは)を
…想ゐ描いて、花結愛(ゆめ)空をみる…。

………ドンッ!!!


〈花夢火の夕守り〉

…白いしろい火のなかを
ぽたぽた落ちる海月を食べる。

……私を、みてはいけない……

桜火の影から手が伸びてきて
    …ばぁ!

…子ども達がかけてゆく…

お揃いの千草色の着物に
   魂の二人は、

…桜木の下で花夢火を灯す…

「…わぁ。綺麗ね…」

「…俺、だけでしょ?」

「…え?」

…それって、ど‐ゆうことなんだろう…

「…嘘。」

…鈴は何度も確かめるようにそう言う。

「…どうして…」

…どうして、そんなこと聞くの…?

…って、そんなことが
いいたいわけじゃないのに…。

「…鈴…」

…そんなこと、想わないでほしい…

(…結局、言えなかったな…)

いつも肝心なことは言えないままなのに
鈴は、なんでか…なんでも、

分かってるみたいに、そ‐ゆう…。

そうして、鈴はもなみを抱きしめた。

「…僕じゃないと、
ダメって言ったでしょ?!」


鈴は桜花ははかノ野に舞う妖艶な
…この鬼火を夢接ぎ火する。

…ぱちぱちと火が燃える。

…〈火ノ由良〉の焦がす香ばしい匂いがする。

桜花ははかの木の下で眠る彼女の
…夢が覚めないかと、

その横顔をみては想った。

…なぜだったか、想ゐ出せない…

…ただ、鈴は素直に
彼女が…愛しい、と…そう想った。

…ふわっと、鈴は夢火を桜木に灯す…

…髪の毛から桜火の薫りがして…
鈴はもなみに甘い口づけを落とした。

マッチ1本を擦るごとに、
桜木に灯る鬼火は海のなかで

…揺らめいた。

蛍の火は次々と桜木の森を
照らして、木ノ葉に咲ってゆく…。

空を彩る海月の夜を結愛(ゆめ)みては、

……ドンッ♥!!!


…由良ゆら…由良ゆら…

…由良ゆら…由良ゆら…


…由良ゆら…由良ゆら…

…夢からさめて…恋しい人…♥

…瞬いた瞳をつむると、あなたの手を引いて
誘った夕火のカゲに、君を想ゐ出す…。

    …そなた…
      …そなた…

   …そなた…


   …夢からさめて…

    …夢を、みる…


…たもろ木。桜木に舞ふ花衣。
…千草に白。桜ヲ合わせて、花の

よい枝ヲ…たろみては、ほもち…
…よく、すゐるなれ… 

…たもれ。…たもれ。
…花つもりけれ。

…若葉よ、つもりけれ。

…らん。…らん。
  …カラン。…コロン。
…らん。…らん。
 …カラン。…コロン。

…らん。…らん。
   …カラン。…コロン。

…軽快に舞を舞う五十鈴の奏でる音がする。

…鈴はは桜木のふもとで
舞を舞っては、夕守りをしていた。

…はらはら。…はらはら。

…木ノ葉が舞い落ちると共に…
夢でみた桜花ははかノ野に花が咲き乱れてく。

…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。

…由良ゆら。…由良ゆら。


…枝に咲いた白い桜花ははかノ花を
見上げては、灯した夢火を摘みとってゆく。

千歳に咲うその花笑みは
妖しいほど美しく可憐に満ちていた。

…由良ゆら舞う春のソナタの桜花ははかノ野…。
…桜の花が舞い散るなか、野にかぎろふ…

…永久(とこしえ)の花夕宵宮。


   …てふてふを、追いかけて…

      …さぁ…さァら
     …らんらん。

     …さぁ…さァら
       …らんらん。

    …五十鈴の揺すふる音がする…

      …花夢火の咲く…

     …つかもふか…
      …むすほふか…

     …つかもふか…
       …むすほふか…

   ‐…あなたに、会いたくて…‐


     …仄かに匂ふ香のかほり…

        …あなたに…

        かけよる私は、

       …つかもふか…
         …むすほふか…

       …つかもふか…
         …むすほふか…

        …そうしたら…
 

      …ててふが舞い込んでくる…

       …パっ!と、花が咲く…

         …そうしたら…

        …そうしたら…


         …つかまえた…


        ‐…抱きしめた…‐

          …まみえた…

    …両手を広げて抱きしめた、あなた…

        …私を、ててふを、
         …抱きしめる…

      …抱きしめる…

       …抱きしめる…
      …抱きしめる…

       …抱きしめる…

     …想ゐ出すあなたヲ…
        常しゑの桜の花

     あなたは、そう…想ふのに、
      …てふてふのように…

    …この手ヲ、すり抜けてユク…


     …つかみそねた、桜ノ火…

     …わたし、だけのもの…


    ‐…あなただけヲ想ゐ描いて、
       いて…そう、いて ほしい…‐

      …つかまえた…ててふヲ、

        …抱きしめた…

     …桜の若葉の萌ゆるなか…
         …はらはら。

      …桜の花の舞い散るなか…
     …出会った頃のことを、想ゐ出す…

       …らん。…らん。
         …カラン。…コロン。
       …らん。…らん。
         …カラン。…コロン。

       …二人が出会った頃…
       花衣が舞い降りたように、

         春風とともに

       舞い込んできた、出会った
        あの頃と同じ…花衣。

         …花衣のそなた…
       …入る桜夕日のそなたよ…

      …そなたに焚きしめられる…
        …焚きしめられる…

      …どうか、このままでいて…

       …あなたに、つかまる…

          …そなた…
         …そなた…

        …桜火のそなた…


        〈花夢火の夕守り〉


❀❀❀


5円や10円のいくらかの古銭を
祠の蝋燭立ての傍に置くと、

鈴はランタンを持って、
ふもとまで帰って行った。

桜木に灯った桜火だけが
いつまでも鈴の傍を離れないでいた。


❀❀❀


「…こっち、来ないで!」

…カンッ!

って、彼女の目が覚めてからというもの

鈴の頭めがけてもなみは
缶チューハイを放り捨てた。

…投げうった缶チューハイの心地の良い音がする…

絡まったしばらくあててない
パーマが髪に残ったロングヘアに

桜花ははか乃野の近くに
椿の生け垣があって、椿の枝で

引っ掛けたときに破けた
ブルーのワンピースを着てたけど、

みるからにその子は…ボロボロだった…。

「…やめてって、言ってるでしょ?!」

悲しそうな瞳をしたケポ‐が鳴いている。

ケポ‐は、バタバタ体を
畳の上で転がって揺すっては

何事か呟いて飛んでいる。

(…やめたほうがいいケポ‐。)

桜花ははか乃野の祠から帰ってきて、
社務所の居間にどさっと彼女をおろすと

鈴はちょっと冷たく言い放った。

「…重いんだけど。」

「…ちょっとは、自分で歩けばッ?!」

…座敷童子がもなみをなじる。

もなみは鈴の両腕のなかでぐったりしてる
自分の体をムリに起こして、立ち上がった。

「…あっかん、べ‐だッ♥!」

まだ温かかった鈴の手のひらが
夜の闇が辺りを覆う心細いもなみの心のなかを

ランタンが森を照らすように、
もなみの心に火を灯していた。

「…そんなこと、言われたッて!」

…甘くて優しい鈴が好きだった…

「…あなたじゃないと、ダメだった…♥わら」

…萌ぐ若草色の若葉が春風に
揺らめいて、涼し気な鈴の心のなかに

…新しいゐ吹が吹き揺らしていた。