音無のことを好きだと自覚してからは、落ち着いて接することができている。俺たちは友達だから、その関係が進展することはない。それでいい、充分幸せだと思っていたけど、ライバルが登場したなら話は別だ。
「りひとくん、かれんと一緒におままごとしよ!」
「だ~め~! りひとくんは今、みれいとお絵描きしてるんだから~!」
五歳女児に取り合いにされているのは、俺の好きな人であり友達の音無理人だ。両端から腕を引っ張られ困っている。
「こらー腕を引っ張るな。痛いだろ?」
五歳女児に注意すると、「ちづるは関係ないでしょ」「黙ってて」と冷たくあしらわれる。五歳といっても中身は大人顔負けだ。何歳でも女は怖い。敵に回したくない。
「あ、そろそろお外遊びの時間だよ! お片付けしてお外にいこうね~」
「かれんと一緒にいこ!」
「みれいと一緒にいくの~!」
どこに行っても取り合いにされている。イケメンって罪深いな。
「瀬川くん、助けて~」
「ははは、まぁがんばれや」
ここは、私立こりす保育園。俺たちがなぜ保育園にいるかというと、職業体験という市のプログラムの一環で、高校生が働くことの大切さを学び自己実現の手助けになるようにと、毎年行っている。俺と音無は致命的にじゃんけんが弱く、最後に残った保育園にいくことになった。下野は珍しくじゃんけんに勝ち、パン屋さんへ修行にいっている。真中は執念で勝ち残り、残り一枠だったラーメン屋へ滑り込んだ。ちょうど昼前に差し掛かったところなので、今から忙しくなるだろう。
「ちづるー!あそぼー!」
「かくれんぼしよ~!」
「よっしゃ! 俺が十数える間に、お前ら隠れろよー!」
「きゃー!」
「やったー!」
子どもの相手をするのは初めてだけど、幸いにも懐いてくれてるようで、今のところうまくいっている。不安要素といえば、お迎えに来るママさんたちである。みんな音無にくぎ付けで、引き渡しを音無にしてもらいたくて、音無の元へお迎えの列ができるのである。俺が代わりにやろうとすると、すごい顔で睨まれた。ガチで怖い。
「ねぇ、今日、あきらくん来る?」
「うん、もうすぐ来てくれるよ。楽しみだね」
女の子と保育士さんの話が聞こえてきた。
「あきらくん? 新しい子が来るんですか?」
「あきらくんはね、園長先生のお孫さんなのよ。確か、高校生くらいの年齢だったかな~。週に一回、子どもたちと一緒に折り紙をして遊んでくれるの」
「へぇ~そうなんだ」
ってことは、俺らと同年代じゃん。助っ人が来てくれるのありがたいな~。
「あ、あきらくん来たー」
園庭の門から一人の男の子が入ってきた。背格好は俺と同じくらいだから、やっぱり高校生だ。
「おーい、元気にしてたか? 今日は紙飛行機作って遊ぼうな!」
「ぼく、ひこうき大好きー」
「わたしはね、花柄の折り紙にするー!」
あきらくんと目が合って、軽く会釈する。
「こんにちは。俺ら、高校生なんですけど、市の職場体験でこりす保育園にお世話になっててーー」
俺をみるやいなや、あきらくんの表情が固まった。
「もしかして、瀬川か?」
「え、はい。瀬川ですけど」
「俺だよ。立花あきら。中学校の時の、覚えてる?」
「…………え、立花あきらって、あの!?」
「あのってなんだよ」
「え、いや……え?」
立花あきら、中学の時の同級生で、いじめに遭っていた。俺が不登校に追いやったいじめられっこだ。突然の再会に動揺して心臓がバクバクしている。
「ここでもおまえはみんなの中心に立ってるんだな。変わってなくてなんか安心した」
穏やかに笑っている。中学時代には見られなかった笑顔だ。
「今はなにしてんの?」
「通信制高校に通ってる。勉強大変だけど、時間に縛られないから俺には合ってるんだ」
「……そっか~、そっか」
「あの時さ、おまえが俺をかばってくれた時、うれしかったんだよ。涙がでるくらいうれしかったのに、それと同時になんかすげー情けなくなってさ。おまえにちゃんとお礼も言えなくて、あんな態度とって、本当にごめん」
深々と頭を下げるあきらに、慌てて俺も頭を下げる。
「いや、俺の方こそ、おまえの気持ちとかなにも考えないで割り込んでいって、ごめん」
「なんでおまえが謝るんだよ。俺はおまえに感謝してるんだからな」
「うぅ、なんだよ。めちゃくちゃいい奴じゃん」
「へへっ、今度遊ぼうぜ」
「おお、もちろん」
ライン交換をして、あきらは遊戯室に入っていった。
「なになに~? 瀬川くんの友達だったの?」
「あぁ、友達だ」
「めちゃくちゃ仲良さそうだったね」
「おー仲良くなる予定」
「予定?」
「ひひっ、こっちの話」
「なんかめっちゃご機嫌じゃん~! みんな、ちづるお兄ちゃんが飛行機してくれるって!」
「はぁ? おまえ、なにけしかけてんだよ!」
「ちづる~ひこうきして~!」
「ぼくもー」
「わたしもー」
「はいはい、順番ね。順番。おまえ、あとでおぼえてろよ!」
「わぁ~! ちづるお兄ちゃんこわ~い!」
職業体験をおえて、帰宅して眠りにつく。なにか憑き物がとれたみたいに胸がスーッとする。今夜は安眠できそうだ。あきらと遊ぶ計画を立てないと……
「りひとくん、かれんと一緒におままごとしよ!」
「だ~め~! りひとくんは今、みれいとお絵描きしてるんだから~!」
五歳女児に取り合いにされているのは、俺の好きな人であり友達の音無理人だ。両端から腕を引っ張られ困っている。
「こらー腕を引っ張るな。痛いだろ?」
五歳女児に注意すると、「ちづるは関係ないでしょ」「黙ってて」と冷たくあしらわれる。五歳といっても中身は大人顔負けだ。何歳でも女は怖い。敵に回したくない。
「あ、そろそろお外遊びの時間だよ! お片付けしてお外にいこうね~」
「かれんと一緒にいこ!」
「みれいと一緒にいくの~!」
どこに行っても取り合いにされている。イケメンって罪深いな。
「瀬川くん、助けて~」
「ははは、まぁがんばれや」
ここは、私立こりす保育園。俺たちがなぜ保育園にいるかというと、職業体験という市のプログラムの一環で、高校生が働くことの大切さを学び自己実現の手助けになるようにと、毎年行っている。俺と音無は致命的にじゃんけんが弱く、最後に残った保育園にいくことになった。下野は珍しくじゃんけんに勝ち、パン屋さんへ修行にいっている。真中は執念で勝ち残り、残り一枠だったラーメン屋へ滑り込んだ。ちょうど昼前に差し掛かったところなので、今から忙しくなるだろう。
「ちづるー!あそぼー!」
「かくれんぼしよ~!」
「よっしゃ! 俺が十数える間に、お前ら隠れろよー!」
「きゃー!」
「やったー!」
子どもの相手をするのは初めてだけど、幸いにも懐いてくれてるようで、今のところうまくいっている。不安要素といえば、お迎えに来るママさんたちである。みんな音無にくぎ付けで、引き渡しを音無にしてもらいたくて、音無の元へお迎えの列ができるのである。俺が代わりにやろうとすると、すごい顔で睨まれた。ガチで怖い。
「ねぇ、今日、あきらくん来る?」
「うん、もうすぐ来てくれるよ。楽しみだね」
女の子と保育士さんの話が聞こえてきた。
「あきらくん? 新しい子が来るんですか?」
「あきらくんはね、園長先生のお孫さんなのよ。確か、高校生くらいの年齢だったかな~。週に一回、子どもたちと一緒に折り紙をして遊んでくれるの」
「へぇ~そうなんだ」
ってことは、俺らと同年代じゃん。助っ人が来てくれるのありがたいな~。
「あ、あきらくん来たー」
園庭の門から一人の男の子が入ってきた。背格好は俺と同じくらいだから、やっぱり高校生だ。
「おーい、元気にしてたか? 今日は紙飛行機作って遊ぼうな!」
「ぼく、ひこうき大好きー」
「わたしはね、花柄の折り紙にするー!」
あきらくんと目が合って、軽く会釈する。
「こんにちは。俺ら、高校生なんですけど、市の職場体験でこりす保育園にお世話になっててーー」
俺をみるやいなや、あきらくんの表情が固まった。
「もしかして、瀬川か?」
「え、はい。瀬川ですけど」
「俺だよ。立花あきら。中学校の時の、覚えてる?」
「…………え、立花あきらって、あの!?」
「あのってなんだよ」
「え、いや……え?」
立花あきら、中学の時の同級生で、いじめに遭っていた。俺が不登校に追いやったいじめられっこだ。突然の再会に動揺して心臓がバクバクしている。
「ここでもおまえはみんなの中心に立ってるんだな。変わってなくてなんか安心した」
穏やかに笑っている。中学時代には見られなかった笑顔だ。
「今はなにしてんの?」
「通信制高校に通ってる。勉強大変だけど、時間に縛られないから俺には合ってるんだ」
「……そっか~、そっか」
「あの時さ、おまえが俺をかばってくれた時、うれしかったんだよ。涙がでるくらいうれしかったのに、それと同時になんかすげー情けなくなってさ。おまえにちゃんとお礼も言えなくて、あんな態度とって、本当にごめん」
深々と頭を下げるあきらに、慌てて俺も頭を下げる。
「いや、俺の方こそ、おまえの気持ちとかなにも考えないで割り込んでいって、ごめん」
「なんでおまえが謝るんだよ。俺はおまえに感謝してるんだからな」
「うぅ、なんだよ。めちゃくちゃいい奴じゃん」
「へへっ、今度遊ぼうぜ」
「おお、もちろん」
ライン交換をして、あきらは遊戯室に入っていった。
「なになに~? 瀬川くんの友達だったの?」
「あぁ、友達だ」
「めちゃくちゃ仲良さそうだったね」
「おー仲良くなる予定」
「予定?」
「ひひっ、こっちの話」
「なんかめっちゃご機嫌じゃん~! みんな、ちづるお兄ちゃんが飛行機してくれるって!」
「はぁ? おまえ、なにけしかけてんだよ!」
「ちづる~ひこうきして~!」
「ぼくもー」
「わたしもー」
「はいはい、順番ね。順番。おまえ、あとでおぼえてろよ!」
「わぁ~! ちづるお兄ちゃんこわ~い!」
職業体験をおえて、帰宅して眠りにつく。なにか憑き物がとれたみたいに胸がスーッとする。今夜は安眠できそうだ。あきらと遊ぶ計画を立てないと……



