すっかり、感動ムードになっている私たちを見て、姫が言った。
「よし、悲しい悲しい蓮くんの話はさておき、パーティーしよう!」
「なんでだよ」
あっさり蓮にツッコまれている。二人ともかわいいな。
「冷蔵庫、開けてみて!」
翔がキッチンを指さした。冷蔵庫の中に、何かあるのかな?
蓮も姫も、キラキラしている目で私を見つめているので、もしかして…
誕生日ケーキ、だったりして?いや、ないよね?だって、オーディション会場は近いし。
冷蔵庫のドアを開けた。10秒ぐらいの沈黙。あれ、何かあるな。
「わぁ!ケーキだ!」
直径15㎝ぐらいのケーキ。中央には『ひまり、おめでとう』と書かれた文字が載っている。
私が大好きな苺や、たくさんのフルーツが、大きなスポンジの上に飾られている。
ふわふわなクリームと、あれ?マカロンが挟まってる!私の大好物ばかりだ。
「ありがとう!」
みんな、私がオーディション会場にいる短い時間で、こんな素敵なケーキを作ってくれたんだな。
美味しそうだし、絶対美味しいし、何より嬉しいな!
「これ、クリームから作ったんだ。本当に時間がかかったけど、美味しそうかな?」
翔が不安そうに言うけど、いやいや、絶対美味しいよ!クリームまで手作りなんだ。へぇ。
「美味しいに決まってるよ!みんな頑張ってくれたんだね」
さっきのピリピリムードはどこに行ったのやら、みんな楽しそうだな。
「…よかったな。日葵、喜んでて」
わぁ!蓮が翔と話してる!さっき、あんなに喧嘩してたのに成長だな。
蓮の暖かい笑顔にほっこりするな。でも、それと同時に懐かしい気持ちと寂しい気持ちもついてきた。
もう、二度と付き合えないのかな。違う。自分で決めたことだ。
「日葵。大丈夫か?」
やっぱり、私は蓮のことが好きなんだな。だけど、私は…
「うん、大丈夫。ちょっと考え事」
アイドルになりたい。なりたい自分になれる、自分が何かはっきり言える人になりたい。
蓮だって言ってくれた。今はまだ、揺れている私の想いだけど、絶対、はっきりと映るようになる。
幻の映画のような景色も、ちゃんと、私の目に見えるようになるから。
見えないのが幻じゃなくて、いつか見えるようになるのが幻だから。まぶしい光だから。
勝手に自分を納得させるけど、今の私にはまだ、見えない自分があることに気づいた。
不思議なことに、私の何が欠けているのか、全く分からなかった。
自分の中で殻を破ったつもりだった。姫のように強い人間になるんだ、と決意できたから。
じゃあ、どうして、私は自分のことを理解できないのかな。まだ、足りないのかな。
見えない幻は、やっぱり見えなかった。輝く光は、ただ、まぶしいことを知った。