オーディションの帰り道、ゆなぴちゃんと別れて表通りを急ぐ。
おしゃべりをして、ちょっと遅くなっちゃったな。
姫が今頃、遅い遅いなんて言いながら不満そうに待っているだろう。
マンションの階段をテンポよく駆け上がる。
未だに息が荒くなってしまってみっともない。だけど、前に比べては慣れたよね。
「ただいま!姫~、ごめん。遅くなっちゃっ…」
「ハッピーバースデー🎊💖」
紙しぶきとクラッカーが飛んできて、驚く。あれ?今日って私の誕生日だったっけ?
今日って、9月30日…だよね。
あ、私の誕生日だ。忘れてたよ!なんだか、認知症のおばあさんみたい。
「日葵ちゃんがだぁ~いすきな蓮くんもいるよ~(笑)」
蓮もいるんだ。っていうか、私の誕生日覚えててくれたの⁉可愛いんですけど。
「覚えてくれてたんだね、ありがとう!」
姫も蓮も、優しいな。自分のことで精一杯なのに。私のことも考えてくれている。
「普通は覚えるだろ」
あれ?いつもの蓮じゃない。ご機嫌が良くないのかな?もしかして、私の帰りが遅かったから…
だったら、すっごく申し訳ない!
「ごめん!蓮、帰りが遅くなっちゃって…。本当にごめん!」
「ああ、違う違う。日葵のせいじゃないって。怒ってるのは、『これ』のせい」
蓮が指さした先にいるのは…えっ、翔⁉
っていうか、来てくれてたの?っていうか、気づかなくてごめんなさい…。
「俺のことも忘れないでよ~‼」
翔はよほど気に入らなかったのか、足をジタバタさせている。私たちより3か月お兄さんなのに弟みたい。
「誰、こいつ。今の彼氏か?おい。許さないぞ。日葵は俺のもんだ」
そういうことか。蓮は翔がいることに怒っているんだ。いや、でも、違う!
翔は私の彼氏じゃな~い!幼馴染だ…。勘違いされちゃった。私、いろいろ、勘違いされる(泣)
「彼氏じゃないよ!幼馴染なの。ごめんね。勘違いさせちゃって。元気出してよ~」
そのとき、姫が私の背中を押してきた。痛い、と言おうとしたら、とっさに翔が受け止めてくれた。
抱きしめられたような体勢になる。しばらく何も言えなかった。え、どういう状態。
頭が追いつかない。まず、姫が私の背中を押して…。座っていた蓮は受け止められなくて…。
それで、私の正面にいた翔が受け止めてくれた…ということは。
蓮が今、ブチギレているということ⁉
どうしよう。でも、そうだよな。いくらなんでも、怒るよな、そりゃあ。
もしかしたら、私だって、蓮が他の子を抱きしめてたり、いちゃいちゃしてたら、泣きそうになるもん。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい‼‼‼‼