「ふう……ようやく完成ですね」
王都にある中央教会の礼拝堂。
そこでワタクシは大きな魔法陣を描きあげて、一息ついた。
聖女の【結界】をはるためである。
もちろん魔法陣が無くても【結界】をはることはできる。宿屋親父亭でも魔法陣は使用しなかった。
「ですが、ナトル王国全土となると……そうはいきませんからね」
小国とはいえ全土覆うには魔法陣で効率よく聖属性の壁を作り出さなくてはいけない。
それに魔法陣無しの【結界】は消失するのも早いですから。現に宿屋の【結界】はもう消失してますし。
魔物大量発生《スタンピード》の知らせは、すでにワタクシの耳にも入っています。
バルド先生たちは、今も宿屋で奮戦しているはず。また王都やその他の街の人たちも。
これはワタクシにしかできないこと―――
バルド先生に、ワタクシがどれだけ成長したか見てもらいましょう!
聖杖を正面に掲げて練り上げた【闘気】と聖属性の魔力をブレンドする。
―――さあ、いきますよ!
「聖なる壁よ、大厄災から我らを守りたまえ! 光りよ! 我らに祝福を照らしたまえ!
――――――大聖結界!」
魔法陣全体から凄まじい光の粒子が教会の天井を突き抜けて噴き溢れ出す。
教会から光の壁が純白のレースのように広がり始めた。
―――クッ
流石にこの出力はこたえますね。全身から延々と力が抜けていくような感覚。
ですが、ここでへばるようなやわな人生は送っていませんから!
ワタクシの【結界】が完成すれば多くの命を救うことができるでしょう。
◇◇◇
【結界】を展開して数時間がたちました。ナトル国土の半分は包んだでしょうか。
……?
少しばかり地面から揺れが伝わってくるような……
いえ、地面ではなくワタクシが不安定なのでしょう。
額から一筋の汗がポトリと落ちる。
体中の【闘気】と聖属性魔力をフル稼働して魔法陣に注ぎ続けているのだから―――汗ぐらい出ます。
周りの護衛騎士さんたちも、不安と期待の入り混じった表情でゴクリとワタクシの様子を伺っています。
―――まだまだ! ここでへこたれてはバルド先生に顔向けできませんよ。
お腹に力を入れて口元を引き締めていると……
「「「せいじょさま~~」」」
トテトテとかわいい音をたてて、こちらに近づいてくる3つの影。
あらあら、随分と小さな騎士さま姫さまだこと。
「「「はい、あげる!」」」
小さな手から渡されたふっくら丸みを帯びたパン。
―――懐かしい。
バルド先生が大好きなアンパンですね。
ワタクシが小さな泣き虫だった頃は、よくこれで泣き止んだんですよ。ふふ。
では、少し食事にしましょうか。
【結界】は教会を中心に広がっています。完全に展開するにはあと1日はかかるでしょう。
気は抜けないですが、長丁場になります。
なのでワタクシも少しお腹に入れておかないと。
「ねえねえ~せいじょさまはどこからきたの? あたしはローニアのむらだよ~」
なるほど、教会に避難して来た子供たちですね。
「おねえさんはね、フリダニアというお国からきたのよ」
「ふいだにあ? ローニアのむらよりとおい?」
「ええ、そうね。……あら? おかおをこちらにむけなさい」
ハンカチで小さなお姫さまの鼻についたあんこを拭きながら、ふと思う。
……バルド先生と夫婦になったらこんな感じなのでしょうか。
できれば2人以上欲しいのですが。男の子と女の子両方とも。
なんて妄想ばかりしてますね、ワタクシ。
「ねえねえ、ふいだにあのせいじょさまいなくなったら、こわーいかいぶつさんたちどうするの?」
「ふふ、フリダニアにはべつのせいじょさまがいるの。だからだいじょうぶよ」
「べつのせいじょさまもひかりのにじをだせるの?」
ひかりの虹?
……ああ、【結界】のことですね。
「もちろんだせますよ。だからふりだにあは大丈夫です。もちろんこのナトルも大丈夫ですよ」
ワタクシの後任として来た聖女。
あの方。性格はともかくとして、魔力はそこそこのものでした。
しかるべき施設できっちりと魔法陣を構築すれば、【結界】をはれるでしょう。
ただし、ワタクシよりもっと事前に魔力を高めていればの話ですが。
自慢じゃないですが、ワタクシの歴代聖女ナンバーワンという肩書はダテじゃありませんもの。
「せいじょさま? おいしかった?」
子供たちが、ワタクシの法衣をクイクイ引っ張りながら、満面の笑みで問いかけてくる。
「ええ、とってもおいしかったですよ。ごちそうさまです。さあ、お母さんのところへ戻りなさい」
トテトテと可愛らしく去っていく3人の天使たち。
さて、お腹も気持ちも満たされました。引き続き踏ん張りますか。
―――!?
―――ズズズズズ!!
なんですか! この地鳴りは!
礼拝堂が、いや教会自体が揺れている!?
やはり先程の揺れは気のせいではなかったようです。
「護衛騎士隊! 総員戦闘準備! 周囲を警戒!」
「うわぁああ、ものすごい揺れだ!」
「礼拝堂の地面が割れていきます! 総員亀裂周辺から退避!」
騎士たちの慌てる怒号が飛び交う中、礼拝堂の床を突き破り、黒くて大きな影が徐々に姿を現し始めた。
―――ゾクゾクゾク
全身を波打つように鳥肌が広がる。
この感覚は忘れもしない……いや忘れたくても忘れることができない……
地中から現れたもの―――
―――そう、ワタクシの最も苦手な魔物。
しかもよりによって……
魔物の中でもSS級の力を誇るドラゴン。
三つの首をもつ、亀形竜種。
―――ドラゴンタートル
王都にある中央教会の礼拝堂。
そこでワタクシは大きな魔法陣を描きあげて、一息ついた。
聖女の【結界】をはるためである。
もちろん魔法陣が無くても【結界】をはることはできる。宿屋親父亭でも魔法陣は使用しなかった。
「ですが、ナトル王国全土となると……そうはいきませんからね」
小国とはいえ全土覆うには魔法陣で効率よく聖属性の壁を作り出さなくてはいけない。
それに魔法陣無しの【結界】は消失するのも早いですから。現に宿屋の【結界】はもう消失してますし。
魔物大量発生《スタンピード》の知らせは、すでにワタクシの耳にも入っています。
バルド先生たちは、今も宿屋で奮戦しているはず。また王都やその他の街の人たちも。
これはワタクシにしかできないこと―――
バルド先生に、ワタクシがどれだけ成長したか見てもらいましょう!
聖杖を正面に掲げて練り上げた【闘気】と聖属性の魔力をブレンドする。
―――さあ、いきますよ!
「聖なる壁よ、大厄災から我らを守りたまえ! 光りよ! 我らに祝福を照らしたまえ!
――――――大聖結界!」
魔法陣全体から凄まじい光の粒子が教会の天井を突き抜けて噴き溢れ出す。
教会から光の壁が純白のレースのように広がり始めた。
―――クッ
流石にこの出力はこたえますね。全身から延々と力が抜けていくような感覚。
ですが、ここでへばるようなやわな人生は送っていませんから!
ワタクシの【結界】が完成すれば多くの命を救うことができるでしょう。
◇◇◇
【結界】を展開して数時間がたちました。ナトル国土の半分は包んだでしょうか。
……?
少しばかり地面から揺れが伝わってくるような……
いえ、地面ではなくワタクシが不安定なのでしょう。
額から一筋の汗がポトリと落ちる。
体中の【闘気】と聖属性魔力をフル稼働して魔法陣に注ぎ続けているのだから―――汗ぐらい出ます。
周りの護衛騎士さんたちも、不安と期待の入り混じった表情でゴクリとワタクシの様子を伺っています。
―――まだまだ! ここでへこたれてはバルド先生に顔向けできませんよ。
お腹に力を入れて口元を引き締めていると……
「「「せいじょさま~~」」」
トテトテとかわいい音をたてて、こちらに近づいてくる3つの影。
あらあら、随分と小さな騎士さま姫さまだこと。
「「「はい、あげる!」」」
小さな手から渡されたふっくら丸みを帯びたパン。
―――懐かしい。
バルド先生が大好きなアンパンですね。
ワタクシが小さな泣き虫だった頃は、よくこれで泣き止んだんですよ。ふふ。
では、少し食事にしましょうか。
【結界】は教会を中心に広がっています。完全に展開するにはあと1日はかかるでしょう。
気は抜けないですが、長丁場になります。
なのでワタクシも少しお腹に入れておかないと。
「ねえねえ~せいじょさまはどこからきたの? あたしはローニアのむらだよ~」
なるほど、教会に避難して来た子供たちですね。
「おねえさんはね、フリダニアというお国からきたのよ」
「ふいだにあ? ローニアのむらよりとおい?」
「ええ、そうね。……あら? おかおをこちらにむけなさい」
ハンカチで小さなお姫さまの鼻についたあんこを拭きながら、ふと思う。
……バルド先生と夫婦になったらこんな感じなのでしょうか。
できれば2人以上欲しいのですが。男の子と女の子両方とも。
なんて妄想ばかりしてますね、ワタクシ。
「ねえねえ、ふいだにあのせいじょさまいなくなったら、こわーいかいぶつさんたちどうするの?」
「ふふ、フリダニアにはべつのせいじょさまがいるの。だからだいじょうぶよ」
「べつのせいじょさまもひかりのにじをだせるの?」
ひかりの虹?
……ああ、【結界】のことですね。
「もちろんだせますよ。だからふりだにあは大丈夫です。もちろんこのナトルも大丈夫ですよ」
ワタクシの後任として来た聖女。
あの方。性格はともかくとして、魔力はそこそこのものでした。
しかるべき施設できっちりと魔法陣を構築すれば、【結界】をはれるでしょう。
ただし、ワタクシよりもっと事前に魔力を高めていればの話ですが。
自慢じゃないですが、ワタクシの歴代聖女ナンバーワンという肩書はダテじゃありませんもの。
「せいじょさま? おいしかった?」
子供たちが、ワタクシの法衣をクイクイ引っ張りながら、満面の笑みで問いかけてくる。
「ええ、とってもおいしかったですよ。ごちそうさまです。さあ、お母さんのところへ戻りなさい」
トテトテと可愛らしく去っていく3人の天使たち。
さて、お腹も気持ちも満たされました。引き続き踏ん張りますか。
―――!?
―――ズズズズズ!!
なんですか! この地鳴りは!
礼拝堂が、いや教会自体が揺れている!?
やはり先程の揺れは気のせいではなかったようです。
「護衛騎士隊! 総員戦闘準備! 周囲を警戒!」
「うわぁああ、ものすごい揺れだ!」
「礼拝堂の地面が割れていきます! 総員亀裂周辺から退避!」
騎士たちの慌てる怒号が飛び交う中、礼拝堂の床を突き破り、黒くて大きな影が徐々に姿を現し始めた。
―――ゾクゾクゾク
全身を波打つように鳥肌が広がる。
この感覚は忘れもしない……いや忘れたくても忘れることができない……
地中から現れたもの―――
―――そう、ワタクシの最も苦手な魔物。
しかもよりによって……
魔物の中でもSS級の力を誇るドラゴン。
三つの首をもつ、亀形竜種。
―――ドラゴンタートル

