ズーン、ズーン、ズーン

 大きな地鳴りと共に接近してくる大型ゴーレム。

 『ナトルのクソどもが~~! まさか王城攻略用に温存していたキングゴーレムを出さねばならんとは! こいつを稼働させた以上は覚悟しろよ!』

 ゴーレムの頭部から拡張された声が聞こえてきた。人が乗っている。おそらくはこのゴーレムの指揮官だろう。

 「うわぁああ! デカい!」
 「各小隊! 戦闘陣形を崩すな! 魔法部隊攻撃魔法用意!」

 たしかにデカい。

 あたしに斬れるのだろうか。

 だが……

 ―――やるしかない!

 あたしは腹を括って、大きく深呼吸して体内に【闘気】を練りこみ始める。聖剣を正眼に構えたようとしたその時―――

 ブゥウウウンという音と共に徐々に周りが見えなくなっていく。

 ―――こ、これは……


 周りの景色が漆黒に染まっていく。どんどん黒く……


 『ギャハハっ! ナトルのゴミども! 貴様らに攻撃の機会など与えるかぁあ!』


 「な、なんだ周りが突然暗くなったぞ!」
 「各小隊、持ち場を離れるな! クソ何も見えん!」
 「魔法部隊、目標を見失いました。攻撃できません!」


 『そりゃそうだ! わがキングゴーレムが【闇のスモーク】を発動させたからなぁ! 貴様らの視覚は奪われたんだよぉ!』

 クッ……暗い、がひるんでいる場合では……ガッ!!

 あたしの体は重い一撃とともに、後方に吹っ飛んだ。

 「ご、ゴーレムの一撃か? だがどうやって?」

 あたりを見回すものの、全てが暗い闇だ。なにも見えない。
 辛うじて聖剣を合わせたことにより直撃は回避できたようだが。体中が痛い。

 『ギャハハっ! キングゴーレムは魔導暗視ゴーグルを標準装備しているのだぁ! すごいだろう! 暗闇だろうがなんでも見えるんだぞぉお! ナトルのド田舎兵士どもにはこんな技術力はないだろうがな! 魔道具最高国家ノースマネアの力作にひれ伏すがいいぃい!』

 とうことは、こいつだけがこの暗闇で攻撃できるということか。
 マズイ、あたしがなんとかしないと。

 闇の奥から、フォンフォンとなにやら不気味な音があたりに響き始める。

 『さてと、お遊びは終わりだ! 魔力ゴーレム砲門ひらけ! 砲撃開始ぃいい!』

 あたり一面に、ズドンズドンと地鳴りが連続して響き渡る。
 地鳴りがするたびに、兵たちの苦痛の叫びが聞こえてきた。

 『ギャハハっ! 手も足もでないか! ナトル兵ども~~!』

 あたしはなんとか体を動かすも、どんどん動きが鈍くなっていく。
 さっき受けたダメージが原因じゃない……

 ────怖いんだ、やっぱり暗闇が。

 ついには動かなくなってしまった自分の体を恨んだ。なぜだ、闇さえなければこのぐらいの苦境乗り切ってきたはずなのに。いや違うか……

 ────単に鍛錬が足りなかっただけ。

 なんだか自分の思考が、自分のものなのかどうかもわからなくなってきた。
 ただひとつだけ。わかっているのは、あたしはこのまま何もできずに死を迎えるということ。

 『そこにいるのは先ほど暴れまわってた小娘かぁ? ん~んん? それは聖剣だな? ということは貴様が剣聖かぁああ! ギャハハっ! これはいいぞ、剣聖を葬り去ったとなれば我がノースマネアの技術力は大陸中に知れ渡ることになる! 最大のゴーレム砲で始末してくれる! 極大魔力ゴーレム砲、発射準備ぃい!』

 もう両手もろくに動かなくなった。虹色の聖剣に申し訳ない。
 こいつを振るうこともなく、あたしは終わるのか。

 ────なにが剣聖だ。あたしは未熟な小娘だ。

 『極大魔力ゴーレム砲へ魔力注入開始! 魔力充填50%!』 

 コロン

 破けた上着からパンが落ちた。アンパンだ。
 先生と別れる前に1つ持たせてくれたんだったか。先生は本当にアンパンが好きだな。

 『魔力充填100% 最終安全装置を解除! ゴーレム全乗員は衝撃に備えよ!』

 アンパンを見ながらふと思う―――先生は諦めるだろうか?
 たぶんだけど、あたしに対しては諦めも重要だと言ってくれるだろう。

 でも、先生なら諦めないだろう。少なくともやれることは絶対する。

 ―――なら

 弟子のあたしもやる!!

 あたしは最後の気力を振り絞って立ち上がった。
 聖剣を正眼に構えて、いまできる限りの【闘気】を集中させる。いつもならしっかり地に根を張る両足がガクガクと揺れている。ベストでないことはわかっている、でもそんんなことは関係ない。

 『魔力充填120% 発射準備完了!』

 「―――ふぅううううう」

 今できる最大の斬撃を―――

 『極大魔力ゴーレム砲!! 発射ぁあああ!』

 闇の奥からあたしに近づいてくるゴゴゴゴゴという、轟音。

 勝負だっ―――!!


 ――――――「剣技最大奥義! 一刀両断!!!」


 渾身の虹の斬撃があたしの聖剣から放たれる。

 闇の奥から現れた極大の衝撃波と正面からぶつかり、凄まじい炸裂音があたり一面にこだまする。

 「クッ……」

 ―――押される

 せめてこの一撃だけでも相打ちに! これを防がないと後方にいるナトル軍は全滅だ。

 ―――でも押される

 全身の【闘気】をこれでもかと体中から無理やり練りこむ。意識も飛びそうだ。全身が震え始める。

 ここまでか……
 そう思った時―――

 うしろからとてつもない斬撃が飛んできた。

 ゴーレムの放った極大の衝撃波は、その斬撃により見事に真っ二つに裂かれていき。一瞬にして四散した。

 「こ、これは……!?」

 さらにあたしたちを覆っていた闇のスモークも真っ二つに裂けていく。暗闇が消えて光が戻ってくるではないか。その先にいたのは……

 ああ、やっぱり来てくれた。先生……