「うぉおおおお!!」

 あたしは、ナトル軍本体の先鋒として聖剣を振るっていた。
 ノースマネア軍の本体1万に対して、ナトルは3千ほど。普通に考えれば戦力差は圧倒的で勝敗は見えている。

 が―――

 「剣技! 速断剣!!」

 あたしは、俊足で敵の懐へ飛び込み聖剣を横なぎにふるった。
 虹色の斬撃が正面の敵を薙ぎ払う。
 あたしが前線で敵の陣形を崩すことができれば、後ろに控える隊に総突撃をかけることができる。そうなれば兵力差も覆すことができるはすだ。

 「おお、さすが剣聖アレシア殿だ! 聞きしに勝る実力だぞ!」
 「すごい! 敵がバッタバッタと倒れていくぞ。これならば!」

 ナトル兵たちから驚きと期待の声があがる。


 ―――ダメだ。


 あたしは聖剣を振るいながらも、少し焦っていた。いや、かなり焦っていた。

 これじゃダメ。突破力が圧倒的に足りない。

 さっきから、小技を前面の敵にだけぶつけている。多少は削れているが、決定打にはほど遠い。
 本来ならもっと大技の連発で初手において勝負を決めるのだが、ナトルの将兵たちがあたしの攻撃範囲に入ってきてしまう。

 いつもの部下たちなら絶妙の間合いで展開してくれる。だからあたしの大技連発で大きく敵の陣形を崩して、すぐさま総攻撃に移ることができる。

 だがここには、あたしを良く知る部下たちはいない。
 必然的に味方を巻き込まない出力を抑えた攻撃に限定される。

 「報告! 第三小隊壊滅! 第7小隊左右に分断されました!」
 「ぐっ! 押されるな! ナトル兵の底力をみせてやれ~~!」

 やはりというか、戦闘が長引くにつれてナトルは劣勢になっていく。

 クソっ! どうする。

 あたし1人なら無理やり敵兵の深部まで食い込めるかもしれない。
 しかしそれでは後続が続けない。

 いくらあたしでも、この兵力差では1人包囲されてしまう。

 どうする? 時間はあまりない。


 ―――頼っていいんだ。


 先生? 

 いや気のせいか……なんだかこんな時に昨夜の先生の言葉を思い出した。辛ければ周りに頼れと。

 そうか―――

 「みんな聞け! 今から大技を繰り出す! あたしから距離をおけ!」

 こんな最前線の混戦中にあたしの声がどこまで聞こえたか、ましてやみな目前の敵と交戦中だ。こんなことをしても、意味が無いかもしれない。
 だが、やるしかない!

 さらに何度も声を出す。
 戦場で、雄たけび以外にこんなに声を出したのは初めてだ。

 奇跡的にもあたしの意図は伝わったらしく、周辺の将兵がなんとか距離をとりはじめた。

 よし、これなら……

 「剣技! 回転両断!!」

 聖剣を体ごと一回転させて、広範囲に虹の斬撃を敵に打ち込む。
 周辺の敵兵が一斉にバタバタと倒れた。味方は……損害はなさそうだ。

 しかし敵兵はあとからあとから新手が出てきて、前線を瞬く間に埋めてしまう。

 ダメだ。まだまだ出力が足りない。セーブしてしまっている。さすがに、あたしの思い描いた通りにはナトル兵も動けない。


 ―――もっと思いっきりやらないと。


 聖剣を握る手に嫌な汗がにじんでくる。と、その時―――
 背後に気配がする。ナトル兵の1人があたしの傍に寄ってきたのか。

 「アレシア隊長! お待たせしました!」

 聞き慣れた声―――まさか!?

 振り向くと、かつての副官がそこに立っていた。

 「え? 副官のマウルか? なぜここに?」
 「ハハ、我々クビになりました! あのクソ王子に!」
 「え? クビ……ならなぜここに?」
 「やることもないので、かつての隊長殿にご助力しようかと。それにナトルが抜かれれば、我が故郷が蹂躙されてしまいますから!」

 来てくれたのか……あたしはもはや隊長でもなんでもないのに。故郷を守るとはいえ、何の見返りも期待できないのに。

 「さあ、いつも通りサッサと片付けましょう! アレシア隊長!」

 あたしは胸に込み上げてくる何かを無理やりしまい込むと、元部下たちに大声を上げた。

 「全員聞け! 再度大技を繰り出す! その後全員突撃だ!」

 すでに副官はそれを予測していたらしく、各元部下たちは要所に散らばりナトル兵と連携をはじめていた。

 これだ! 絶妙の陣形。

 ―――「ふぅううう……」

 あたしは深呼吸してお腹の底に力をいれる。
 先生から教わった【闘気】をこれでもかというほど練りこんでいく。

 あたしの「剣技」と先生の【闘気】すべてを使った最大奥義―――

 グッと地面を蹴り、猛スピードで敵の中央部に迫り、聖剣を振り下ろす。


 ――――――「一刀両断!!」


 虹色の極大斬撃が敵中央に炸裂した。
 斬撃の余波が、周辺全体に飛ぶ。敵の陣形が大きく崩れ、敵は何が起こったのかわからず混乱状態となる。

 「よし! 全軍突撃! ナトルを侵略者から守れ!」


 それから数時間、大勢はほぼ決した。
 あたしの【一刀両断】により大きく崩されたノースマネアの陣形をナトル将兵が、必死の突撃で大打撃を与えた。

 ノースマネア軍本体は、残った兵力をまとめることも出来ずに各個撃破されている。

 「ふぅ~~これでノースマネは撤退するだろう」
 「さすがアレシア隊長です! 久しぶりにスカッとしました」
 「ふふ、不謹慎な奴だ、まだ戦闘中だぞ……ん? なんだこの地鳴りは?」

 地面がグラグラと揺れている。
 徐々にその揺れは大きくなっていくようだ。

 「前方になにか巨大なものが! こちらに接近してきます!」
 「な……なんだあの大きさは!」

 ズンズンと地鳴りを立てて近づいてくる物体。

 それは、見たこともない巨大なゴーレムだった。