「先輩!見て!めっちゃ海きれい!」
「わかったから、引っ張るな」
グイグイと引っ張られながら立つ俺の目の前には、透き通った青い海が広がっていた。
夏休みに入り、夏真っ只中の海は、太陽に負けないほどの輝きを持っていた。
コタは初めて遊園地にきた子供のように目を輝かせたと思ったら、スンと真顔に戻る。
顔を顰めて後ろに振り向いた。
「で、なんで逢坂と仲川先輩がいるんすか」
俺たちの後ろには大きいパラソルを抱えた仲川となにやら大きなカバンを持っている逢坂が立っていた。
俺は少し不機嫌なコタに気づかないふりをして、コタの問いに答える。
「俺が誘った。海だったらみんなで行ったほうが楽しいだろ」
「夏弥先輩、おれデートって言いましたよね?デートの意味わかってます?」
ずいっと寄ってくるコタを手で押し退ける。
寄られると暑いのでやめて欲しいものだ。
「まーまー、胡太郎。そこまでにして、早く着替えに行こ」
逢坂が俺たちの間に割り込んで話を終わらせた。
さすが逢坂だ。コタの扱いが手慣れている。
みんなで更衣室で着替えた後、砂浜にパラソルを立てて下にレジャーシートを引いた。ちなみに、全部仲川が持ってきてくれた。ありがたい。
一通り終えた後、グッと伸びをして仲川が言う。
「腹減ったー。なんか食わねぇ?」
「食べたい」
スマホで時間を確認すると、14:00をさしていた。俺が頷いて隣に目をやると、コタと逢坂も大きく頷いていた。
ただ、誰かは荷物番をしないといけないので、俺がその役を買って出た。
「俺が荷物見とくから、みんなで買ってきたら?」
「おー、さんきゅー」
「ありがとうございます」
仲川と逢坂はそういうと海の家の方に歩いていった。
「じゃあおれが夏弥先輩の分買ってきます」
「まじ?ちょっと待って、お金渡す」
「いいですよ、特訓付き合ってくれたお礼なんで」
そういえばそうだったな。コタのバスケの特訓を付き合ったお礼で遊びに誘われたんだった。
そのかわり、とコタが続ける。
自分が着ていた薄手の長袖のパーカーを俺に着せる。
「これ、持っててもらっていいですか?」
「いや、いいけど……俺に着せる必要ある?」
「あります。悪い虫がつかないように」
「はぁ?」
「先輩なんで海パン一枚なんですか。ちゃんと上も着てくださいよ」
コタはそう言うと、俺に着せたパーカーのチャックをジッと上まで閉める。
「暑いんだけど」
「せめておれが戻ってくるまで我慢してください。わかりました?」
少し不貞腐れて頷いた。コタは俺に対して過保護な気がする。
チラチラとこちらを確認しながら、コタは海の家に向かっていった。
ーーーー
30分くらい待ったがまだ帰ってこない。
8月半ばなので、人も多いといえば当然のことかもしれない。
パラソルの下で座り、ぼぉっと海を眺めていると、数人の影が俺を覆った。
「ねぇ、僕。中学生?」
声のしたほうを向くと、大学生くらいの男4人組が俺を取り囲んでいた。色のついたサングラスをかけて、髪をキンキンに染めている。それだけで圧を感じた。
「……いや、違いますけど……なんですか?」
「このパラソル、ちょーっとだけ貸してくれない?」
「なんでですか?」
これは俺たち高校生4人が、少ない小遣いから捻り出してお金を出して借りたものだ。さすがに貸すわけにはいかない。
「さっき借りに行ったら、もう貸し出しできるのがないって言われちゃってさー。貸し出しの在庫ができるまでの間だけ!」
「一緒に使うとかだったらいいですけど……」
「いや、ほんと!ちょっとだけだから!」
そう言って、せっかく立てたパラソルを取ろうとしてくるので、慌てて止める。
「すみません。貸せないです。他の人当たってください」
めんどくさいな、と内心思いつつも、丁寧な対応をしたつもりだ。
だが、それは虚しくも届かなかったようで、さっきまでヘラヘラとしていた表情が一変したのがわかった。
「チッ。うっぜぇなこのガキ。おい、オレがこのガキ抑えてる間にパラソル取っとけ」
「うぃー」
リーダー格の男がそう言うと、周りが動き出す。
パラソルを取ろうとした人の手を掴んで止めようとしたが、その前にリーダー格の男に俺の手首が掴まれた。
力が強くて振り解けそうにないな、と少し諦めそうになった時。
「おれの連れになにしてんすか」
聞き馴染みのある声が後ろから聞こえたかと思うと、その声の方向にグイッと引き寄せられた。俺の手首を優しくリーダー格の男から解放した。
「コタ」
そう呼ぶと、ぎゅっと抱きしめられる。
いつもより露出の多い状態のコタに、ビクッと肩が震えた。
「夏弥悪い、遅くなった」
「あぁ、全然大丈夫……って、はっ!?」
俺を呼んだ仲川の方になんとなく視線を移すと、その目元にある真っ黒なサングラスが目に入る。俺を抱きしめているコタも、見上げると同じようなサングラスをかけていた。ちなみに、仲川の後ろからひょこっと顔を出した逢坂もだ。
なにしてるんだよこいつら。と笑いそうなのを必死で堪える。
「何か用か?」
仲川が野犬のような目でギロっと睨むと、「あ、いやなんでも!」と言いながら、大学生の集団は小走りで去っていった。3人のサングラスの圧には耐えられなかったらしい。
なんとか事を収められたという安心感と同時に、俺以外の3人の今の状況のカオスさに笑いが込み上げてきた。
「お、お前らな、なにしてっ、ふは」
言葉の途中で吹き出してしまったが最後、笑いが止まらない。そんな俺を、真っ黒なサングラスをかけている3人が無言で見つめている。
「ちょ、まじ、やめっ、やめろって」
腹を抱えながら笑う俺に、3人がジリジリと近づいてくる。笑いすぎて息ができないから本当にやめて欲しいものだ。仲川が苦笑して俺を見る。
「そんな面白かったかよ、これ」
「っいや、だって、っはは」
「先輩の分もありますよ」
「い、いらなっ、ふはは」
逢坂がおそらく俺の分であろう4つめのサングラスを出してきた時、俺の腹筋は最期を迎えた。
ーーーー
「先輩、笑いおさまりました?」
「はぁー、まじやばかった」
また思い出して笑いそうなのを堪える。
そんな俺に、コタはため息をつく。
「先輩、笑ってる場合じゃないですよ。さっきの人たちになにかされてません?大丈夫でした?」
「んー?うん。大丈夫」
「ほんとに?」
「大丈夫だよ。コタは心配しすぎ」
近づいてくるコタにヘラっと笑って答えた。
コタは顔を顰めたかと思うと、俺の頬を指で摘んで軽く引っ張る。
「先輩、今日顔ゆるゆるですね」
「おまえらがわらわせてくるからだろ」
俺に顔がゆるゆるだと言う割には自分の方が緩んでるんじゃないか、というのは言わないことにする。
「てかなんで3人ともサングラスかけてんの?」
思い出し笑いでニヤける顔を必死に抑えながら聞く。
「飯買ったら隣に色々売ってる売店あってさ。眩しいし、なんかねぇかなーって思ってたら逢坂が見つけてきた」
仲川によると、まさかの発案者は逢坂だったらしい。
意外すぎてまた笑いが込み上げてくる。
「先輩もいります?」
隣にいたコタが俺に同じサングラスを渡してきたので、それをかけた。
当然のように俺の分も用意してあるのが面白い。
「似合う?」
「うん。似合ってますよ、かわいい」
ニコニコとコタが見つめてくる。
一つ下の後輩にかわいい、と言われるのは心外だが、今は気分がいいのでなにも言わないことにする。
「そろそろご飯食べましょ」
逢坂の一言で、みんながご飯を買ってきていたことを思い出した。
「先輩は焼きそばでよかったですか?」
「ん。ありがと」
コタから差し出された焼きそばを受け取り、プラスチックの容器にかけてある輪ゴムを取ると、勢いよく蓋が開いた。
みんなが座ったのを確認し、いただきます、と小さく呟いた後、口の中に放りこんだ。
普通の焼きそばなのに、海で食べると美味しく感じる。
「そうだ、結局さっきの人たちってなんだったんですか?」
「あー、なんかパラソル貸してくれって。断っても持っていかれそうな勢いだった」
「先輩も連れてかれそうな勢いでしたよ」
コタがため息をついた。
そんなやわじゃない、と言いたいところだが、コタ達が来なかったら危なかったかもしれないと口をつぐんだ。
「夏弥ってそういうこと多いよな」
「否定できない」
仲川の言葉に苦笑する。背が低いから舐められるのか、割とめんどくさい人達に絡まれることが多い。
コタが真剣な表情で言う。
「そういうときはおれを呼んでください」
「んー、うん。まあ、考えとく」
「絶対考えてないやつじゃないですか!」
さすがに先輩の俺が後輩に守られるわけにはいかないだろう。そんな俺の気持ちなんか知らずに大声で騒ぐコタを横目に、焼きそばをかきこんだ。
ーーーー
ご飯を食べ終え、少しすると、コタが隣で立ち上がった。
「よし、そろそろ海入りましょ!」
そう言って俺の手を引いて立ち上がらせる。
今すぐ走り出しそうなコタに思わず笑ってしまう。
「コタって海好きなの?」
「んー、まあ好きですけど、今日は特別ですね」
「なんで?」
「先輩と一緒に来れたからに決まってるじゃないですか」
コタは太陽に負けず劣らずのキラキラした顔でニッと笑った。そんなことよく恥ずかし気なく言えるな、と感心すると同時に、口説き文句を言われたようで恥ずかしくなった。
「俺荷物見てるんで、行ってきていいですよ」
「逢坂さんきゅー!」
「ごめん、頼むわ」
逢坂の言葉に、コタと俺はそう返し、コタに手を引かれるまま海に向かう。
「俺も行く」と仲川がついてきた。さりげないが、俺たちのことを心配しているのがわかる。つくづく面倒見のいい男だと思う。
「夏弥先輩って泳げるんですか?」
「んー……まあ、人並みには?」
「嘘つけ。夏弥この前の水泳の授業で、水泳部のやつコテンパンにしてたじゃねぇか」
仲川、余計なこと言わないでくれ。
夏休みに入る前の水泳の授業で、水泳部の人に購買の焼きそばパンを賭けた戦いを挑まれて、相手のプライドも気にせずに全力で戦い、勝ってしまったのだ。
「まじすか!先輩すご!」
「夏弥は運動神経良すぎるからな。俺サッカー部だけど1on1とか余裕で夏弥に負けるから」
「仲川、それは大袈裟すぎだって」
仲川の言葉にため息をつきながら歩いていると、波打ち際まできた。
近くで見るとより一層、海水の輝きが強まったように見える。足を波に踏み入れると、暑さで少し温くなった海水が足の上を覆った。
俺は1人思い立ち、隣にいた2人に思い切り海水を蹴り上げた。
「うわっ!?」
「なにするんですか先輩!」
驚く2人に笑みが溢れる。
俺は無言でもう一回海水を蹴ると、少し水に濡れた2人が悪い笑みでこちらを見た。
「なにニヤニヤしてんだ夏弥。やるってことは、やられる覚悟があるってことだよなぁ?」
「プールの時以来ですね、先輩。おれは本気でいきますよ」
ちょっとやりすぎたかもしれない。ジリジリと真剣な表情で俺に近づく2人に後退りする。
次の瞬間、バッシャーンという盛大な音と共に俺に水がかぶせられた。
こいつら、ほんとに手加減無しできやがった。
こうなったらとことんやってやる。
俺はしゃがんで水を掬い上げると、それをコタにかける。
ちょうどコタの顔にヒットした。
「はは!顔びしょびしょじゃん」
「先輩?許しませんよ?」
本気の顔をしたコタから顔を背けたその時。
「うわっ」
「いぇーい。ヒット〜」
仲川が俺の顔目掛けて水鉄砲を撃ってきた。こいつ、いつの間に。
「うわ、仲川先輩ズリぃ!」
「まあな、先輩特権だ」
「よしコタ、同盟組んで仲川倒すぞ」
「いいですよ」
秘密兵器を取り出した仲川に対抗するため、コタと同盟を組んで2対1で仲川を攻める。
「おい!2対1は邪道だぞ!」
「水鉄砲持ってきてるやつがなに言ってんだよ」
軽い口喧嘩を交わしながら、俺たちは日が暮れるまで遊んだのだった。
ーーーー
水平線に太陽が半分くらい沈み、だんだん人が減ってきた。
そろそろ帰る時間か、と少ししんみりしていると。
「なに帰ろうとしてるんですか。まだまだこれからですよ」
「え?」
「花火、やりましょ」
コタはそう言ってニコッと笑う。
邪気のない笑顔は、いつまで経っても眩しいな、と思う。
バケツを準備して、ライターで火をつける。
ちなみに、バケツとライターは逢坂が持ってきてくれたらしい。仲川と同じくらい、逢坂も面倒見がいいのだ。
手に一本花火を取り、火をもらうと、シューという音の後、一気に火花が散り始めた。
「きれい……」
思わずそう溢すと、隣のコタがフッと笑った。
花火の光だけで照らされているはずなのに、俺にはすごく輝いているように見えた。
「よかった。先輩こういうの好きわからなかったから」
「ま、まあ、最近してなかったからな」
「胡太郎?俺に感謝してよ?」
「ありがと、逢坂。色々持ってきてくれて」
ずいっと近づいてきた逢坂に、俺もなんとなく頭を下げた。俺とコタだけだったらこんなに上手くいけなかったかもしれない。
花火の消費は早いもので、もう最後になってしまった。
最後は線香花火だ。
「こういうのはやっぱ対決だよな。負けたやつ飲み物奢りで」
仲川の提案に頷く。最後くらいこういうのがあってもいいかもしれない。
「じゃあ最初に落ちたやつが負けで」
「はーい。負けませんよ」
そう言ってみんなでしゃがんで円になる。
こういう感覚が久しぶりで、少し気分が上がった。
せーの、で火をつけると、それぞれの花火の先に、小さな火の玉が生まれた。
「夏弥先輩のやつ小さくないですか?」
「な、俺もそう思った……って、あっ」
コタの言葉に同意した瞬間、ポトっと火の玉が地面に落ちた。地面に落ちたと同時に、赤かったものが黒く変わった。
「ウソだろ……」
「ははっ!先輩早っ!」
「夏弥おつかれ。飲み物なー」
「ごちそうさまでーす」
3人にニヤニヤと煽られて肩を落とす。
まあそういうことだったもんな、と自分を納得させ、みんなが終わった後に買いに行くことにした。
「なにがいい?」
「俺は炭酸で。逢坂は?」
「じゃあ俺はお茶でお願いします」
仲川と逢坂のリクエストを聞いた後、コタに目を向ける。
「コタは?」
「んー。決めれないんで一緒に行っていいですか?」
「別にいいけど……」
「じゃあ行きましょ」
コタに流されるまま2人で自動販売機まで歩き出す。
少し離れたところにあるみたいだ。
砂浜に足を取られないように、気をつけて歩く。
コタは俺の歩幅に合わせて歩いているようだった。
「ねぇ先輩」
「なに?」
見上げると、コタはこちらには目を向けず、前だけを見ていた。
「今日は……楽しかったですか?」
「え、うん。楽しかったよ」
当然のように頷くと、コタは俯いて足を止めた。
顔の表情がさっきまでと違い、少し暗くなっている気がして、俺も足を止める。
「それは……逢坂とか、仲川先輩がいたからですか?」
「まぁ、そうだな。2人と遊べて楽しかった」
「じゃあ、おれは?」
「え?」
パッとこちらを向いたコタが、すごく悲しそうな顔をしていて戸惑う。
「夏弥先輩は、おれのこと嫌いですか?」
「はぁ!?なんでそんなことになるんだよ」
話が変な方向に飛んでいって、思わず声が大きくなる。
「だって先輩が仲川先輩と逢坂のこと呼んだから……おれと2人は嫌なのかな、って」
「それは、海はみんなで行ったほうが楽しいからだよ。ただ、それだけ」
「ホントに?先輩はおれと2人嫌じゃない?」
犬みたいな目で見られるとどう反応したらいいのか困る。
背伸びをして、おそるおそるコタの頭を撫でた。あっているのかわからないが、これくらいしか思いつかなかった。
「嫌じゃないって。嫌だったら、今もこうして2人で歩いてないし。そもそも特訓だって付き合ってないから」
信じてもらえるように、しっかり目を見て話す。
わかりにくいかもしれないが、これが俺の本音だ。
「……そっか。じゃあ今度は2人で出かけましょうね」
「うん。わかった」
俺が深く考えてなかったせいで、コタにこんな顔させるのは嫌だった。だから、素直に頷いた。
「約束ですよ」
「任せろ」
俺が笑って見せると、コタの顔にも笑みが戻った。
よかった、と安堵していると、グイッと腕が引っ張られる。砂浜で足場が悪く、バランスを崩した俺をコタがグッと抱きしめた。海の磯の匂いと混ざったコタの匂いが俺を包み、どうすればいいかわからなくなる。
「こ、コタ?」
俺が名前を呼ぶと、俺を抱きしめる力が強まった。
「おれ、実は嫌われてるんじゃないかって心配してたんです。でも、先輩優しいから、嫌々おれに付き合ってるんじゃないかって」
「……コタらしくないな」
「おれもそう思います。強引なところがおれの長所なんで」
「自分で言うんだ」
そう笑うと、ゆっくりとコタが俺から離れた。
いつになく真剣な目で俺を捉える。
「夏弥先輩」
「ん?」
「まだ、先輩のこと好きでいていいですか」
いつも強引で、俺のことをいろんなところに引きずり回して、疲れることも、大変なこともあるけど。
それ以上に、コタといることは楽しかった。
だから答えるのに時間は必要なかった。
「今更なに言ってんの。いいよ。俺がその気になれるかはわかんないけど、それでいいなら」
その言葉に、コタは屈託のない笑みを浮かべた。
「その気にさせるんで、大丈夫てす」
そう言うとまた俺を抱き寄せた。この距離感にはいつまで経っても慣れる気がしない。
なにもできずにいると、頭の上ではぁーっと大きく息をつくのが聞こえた。
「今考えるとおれ、クソダサいっすね」
「なんで?」
「1人で不安になって、凹んで、先輩問い詰めるとかダサすぎる」
「それは俺のせいでもあるから。コタはダサくない」
頭上で落ち込むコタに思わず笑ってしまう。
「俺も悪かった。コタがそんなに俺のこと好きだなんて思ってなくて」
「はぁ!?先輩マジで言ってます?」
「え、あ、まあ、えと……」
何気なく言ったその一言に、コタが声を荒げる。
肩をガシッと掴まれて、本気の目が俺を貫く。
「おれは先輩のこと、マジで好きなんですよ!?今すぐにでも押し倒してキスしたいくらいには!されてないだけ感謝してくださいね!?」
「あ、ありがとうございます……?」
圧に押されて謝る。これ、俺が悪いのか?
コタは顔に手を当てて、大きくため息をついた。
「とりあえず、早く飲み物買って戻りましょ。早く行かないと仲川先輩がまたうるさいんで」
「誰がうるさいだって?」
「うわっ!?仲川先輩、なんでここに!」
いつのまにか仲川がコタの後ろに立っていた。
周りも暗くなっているから急に話し出すのはやめてほしい。
「お前らが遅いからだよ。てか、なに夏弥に手出そうとしてんだてめぇ」
「仲川先輩には関係ないでしょ」
「あるわ!まったく生意気な後輩だなお前は」
口喧嘩を始めた2人を苦笑いで見ていると、俺の肩をポンと誰かが叩いた。
「逢坂」
「胡太郎、夏弥先輩のこと、ホントに大好きなんですよ。一日中先輩の話してるくらいには。だから、先輩も胡太郎のこと、ちゃんと見てあげてください」
「うん。わかった」
俺が頷くと、逢坂がニコッと笑う。俺とコタが遅いので、仲川と逢坂が俺たちの様子を見にきてくれたらしい。
「ちょ、ほら仲川先輩見て!逢坂が夏弥先輩と喋ってる!」
「逢坂はいいんだよ」
「理不尽!助けて夏弥先輩〜!」
「あっ、おい!夏弥から離れろ!」
俺に助けを求めて縋り付くコタを、必死に仲川が引き離す。その光景が面白くて笑ってしまう。
チラリと目をやると、すっかり日が暮れて暗くなった空を海が反射し、その中でキラキラと星が光っていた。
この景色を、思い出を忘れないように、俺はその光景を目に焼き付けた。



