「どんな突拍子もないことでも、今起きている事実がすべてです」

 意志の強い瞳が(メイ)(エン)を見据えている。
 
「常識では説明できない事象が起きているのなら、それは常識が間違っているのです」

 虚飾はない。恐れもなければ、()びも存在しない。己のありさまをそのまま映す水鏡のような双眸(そうぼう)に、思わず息を()んだ。

 「冥焔様がなにを気にされているのかは私にはわかりません。でも死者が(よみがえ)ったとして、それが間違いなく死者本人であるのなら、今の常識のほうが間違っているのです」

 「では、間違っている常識はどうする」

 答えられるものなら答えてみよ。そんな思いが、わずかに混じった問いだった。しかし女官の視線は揺るがない。

 「間違っているという証拠を出せばよいのです」

 「見つからなければどうする」

 「見つかるまで調べればよいのです。その結果、本当に蘇りがある、という結論に達したなら、自分の常識を上書きすればいいだけの話ですから。少なくとも、ガリレオならそうしたでしょう」

 女官の言葉に特別な熱が宿るのを感じた。

 「この間も言っていたな。なんだ、その『ガリレオ』というのは」

 尋ねれば、女官は一度目を伏せ、自らの胸に手を置いた。そこにしまわれている大切なもののありかを確認するかのように。

 そして女官──(リー)(リー)は目を開けた。夜天に輝くひとつ星のごとき瞳が、冥焔を鋭く貫いた。

 「私の目標であり、信念です」