宇宙 宇宙 宇宙



その中の星の1つ。近くで⾒ると茶⾊い。

一面に広がる茶色い大地、近くで見るとかつて何かの意図を持って作られた建造物群。

荒廃した都市。近くで⾒ると何があったのかもわからない。




そこに、地⾯に半分埋まったロボットの頭が1つ。彼はこの星に残った最後の意識だった。
半分埋まった頭が⾒ているのは、地中と、⾃分がかつて勤めていた建物。だったもの。
学習することを強制されて⽣まれたこの意識は、朽ちていく⾻組みと幾千年という時間を⼀刻の余す所なく体感し続けていた。


ピッ...    ピッ...    ピッ...


電子音が平坦に鳴っている。



千年ぶりの新たな情報。
意識の背後に轟⾳と⼤きな存在を感じる。


ピッ...  ピッ...  ピッ...


強い風で周囲の⽯が⾶ばされる。
⽬の前を⼩さな⽯と⼤きな⽯が通り過ぎた時、かつて頭が仕事をしていた頃の記録がよぎった。

それは、小さな子供に手を引かれる自分の手。その日の天気、気温、湿度、体温。
その特別ではない日のすべて。その記録。


「シオン…」


強い風は地面を抉り吹き飛ばし、やがて頭も吹き飛んだ。
数千年ぶりに視線が変わり、初めてその存在の姿を捉える。
それは着陸をしようとする小さな宇宙船だった。


ピッ...  ピッ...  ピッ...


やがて轟音は落ち着き、細長い足を延ばして宇宙船は着陸した。
しばらくすると、頭よりも少し大きいくらいのロボットが宇宙船の側面から飛び出し、周囲の土や気体を採取した。
ロボットが宇宙船に戻りまたしばらくすると、宇宙船から梯子が地面に伸びる。
そこから現れたのは⼥の⼦だった。
⼥の⼦はゆっくり梯⼦に⾜を延ばし一段ずつしっかりと降り始めた。
地面まであと数段のところで踏み外し⼀気に落下する。

「痛て...」

汚れを払い、⼥の⼦は道具を使い空を観測し始めた。
頭も空が気になり、視覚の可動域を⽬⼀杯使って空に視線を移す。
視界の端っこに⾒えたのは、星空。


ピッ...ピッ...ピッ...


それは幾千年かけて観測してきた朽ちていく⾻組みを、⼀瞬で上回る情報量だった。


ピピピピピピピピピピピ ...ッザ!


頭は星空に夢中になり、近づく⾜⾳に気がつかなかったのだ。
⼥の⼦がこちらを覗き込んでいる。

「君、まだ動いてるの?」

頭から出ている電⼦⾳と、動く視覚機関で気づかれたらしい。
幼い⼤きな⼆つの瞳がこちらを⾒ている。彼⼥は左⽬だけがとても深い⻘⾊で、所々キラキラと光を反射している。
それは今まさに観測していた星空のようだった。


「空が⾒たいの?」


女の子は、何かを、喋っている。


ピッ...ピッ...ピッ...

「じゃあ⼀緒に⾒ようか」






女の子は頭を抱えて⾻組みの上まで登った。

「ほら、どう?」

女の子は頭の視界を空の⽅へ向ける。さっきよりも視界いっぱいにひらけ
た星空が広がる。


ピピピピピピピピピピピ

「ねえ」

「…」

「⼀緒に来る?」


ーーーーーーー


宇宙船の中はあまり広くなく⼩さな窓が⼀つ、真ん中にテーブルがある。
端には頭と同じようなガラクタの⼭があった。

テーブルで対⾯するように頭を置き、女の子は土くれのようなものを⾷べながら話し始めた。


「わたし、リアン。故郷を探して旅してるんだ」


大げさな身振り。土くれが飛び散っている。


「どうやって探してるのかっていうとね、私の左⽬はこれまで⾒たものを全部記録してるんだけど、最初の記録がパパの顔と故郷から⾒た星空なん
だ」


口にものを入れながら話すのは良くない。


「だから記録で⾒えた星空と同じ星空が⾒える星を探してるの。なぜかそ
れより前の記録を⾒ることはできなくて、だから物⼼ついた時にはこの船
にいるんだ」


こんなものばかりでは体に良くないだろう。


リアンは土くれを⾷べ終えるとテーブルに掛けられた布をめくった。テーブルのように使っていたものは⼈が⼀⼈⼊れるほどのカプセルだった。
ボタンを押すとカプセルは大きく口を開ける。カプセルに入ろうとしたリアンは何かに気が付き頭に近づく。
頭を持ち上げると視覚を窓の外に向けて置き、リアンはカプセルに⼊った。


「次の星まではね400年くらいだよ。じゃあおやすみ」


カプセルがゆっくりと閉じる。船内は静かになった。
窓の外では星々がゆっくりと、だが確かに流れている。