午後9時、斎藤蓮児(サイトウレンジ)は映画館を出て、24時間営業のスーパーに向かう
映画のチケットは一般料金だ
田舎とは嫌なところで、学割を使うとすぐに学校へ連絡がいく
一度、定期試験で1科目だけ赤点を取ったことがあった
教科担当の先生に呼び出され、テスト期間中に映画館へ行ったことを叱られた
「つまらん映画を観よって」
自分が映画館に行ったことは素直に謝る
が、映画を馬鹿にするのは以ての外だ
殴りたい衝動に駆られながら、拳をぎゅっと固めた
今日観た映画は「ローマの休日」のリバイバル上映であった
あどけない少女が映画の終盤に大人の女性へと変貌するのは何度見ても美しい
光悦な表情でエレベーターを降りると、ウェディングドレスが目に留まった
どうやら催事場でドレスの販売や式場の予約をしているらしい
どこかのビーチを映したパネルの前に純白のドレスが輝いている
ガラスに透過した自分の姿を重ね想像する。一度でも着てみたいものだと
蓮児は性別違和はないが可愛いものが好きであった
部屋着はいつもロングスカートに可愛い柄のTシャツだ
家族には趣味全開で接しているが、家族以外の人間には趣味を隠して接している
母親は息子の趣味でノリノリだ
毎年、ハロウィンの季節には、東京のサンリオピューロランドへ連れて行ってくれる
蓮児は24時間営業のスーパーで食材を買い込むと早速自宅のキッチンに立ち下ごしらえを始めた
3人で始めたバンドも今は8人の大家族だ
食費は馬鹿にならない
蓮児はバイトをして食費を稼いでいた
料理こそ唯一他人に理解される趣味
なにもそこまでしなくてもと言われても手は止められない
「今日も家族の為にお父さん頑張るわよー」
ガスコンロの火を勢いよく点ける


