自分は他人の趣味に合わせるのが得意だ

「やっぱ平井大最高だわ」

ドン・キホーテで買い物をしていると、彼女は店内BGMで流れる曲に反応した

「平井大?」
「えっ知らないの」

彼女はスマホで平井大の写真を見せる
なんか昭和映画に出てくるような見た目だが、口からこんな甘い歌声が出せるのか

「へぇなんかおすすめの曲ある?」
「それなら私の作ったプレイリスト送るよ」
「ありがとう
そういえばこないだのやつ最高だったよ
梅田サイファーとかSUSHIBOYSとか」
「えっ本当!学校で分かる人いないから嬉しい
今度ライブ行こうよ」
「いいじゃん行こうよ」

彼女はぬいぐるみの前で足を止める

「うわぁなんのキャラか分からないけど欲しい」
「俺も一個買おうかな」
「お揃いにしよう!」
「いいぜ」

他人の趣味に合わせているだけだ
そう思い込んでいた
可愛い物を見ると買いたくなる衝動が
いつの間にか部屋の中が可愛い物で満たされていく
ある日、学校の廊下で彼女が友達と歩いているのが見えた

「それでこないだ彼氏の家に行ったんだけどね
まじで可愛い物ばっかだったんだよね」
「キモすぎ」
「これこれ写真とかあるんだ」
「うわぁ女装癖とかあるんじゃない」
「だったら引くわー」

次のデートの日、彼女と別れた
彼女は「仕方ないよね」と呟く
そして、
「まともな趣味持っていた方がいいよ」
そう言って走り去った
それ以来自分の好きなものは絶対に人に話さないと心に誓った