練習は小休止挟むことなく続く
俊はコート外で見守るsatoshiのところへ行った
「想像以上に強かったです」
「そうだろ。全国クラスだからな」
俊はあのスピードなら世界に行ってもおかしくないと思う
「皆あのレベルなんですかね」
「いいや。大抵は亀の足のように遅い
それでも十分偉いが」
「確かに。自分なら挫折しそうです」
「一見すると楽しそうだが、実際やると地味なことの積み重ねだ。投げ出す人は多い」
「ドラムと同じですね」
「そうだな
派手なパフォーマンスに惹かれて始めても長く続かない人は多いからな
俊は何度やめてやると言ったか」
「それはすいません」
「特に俊と競り合っていた4番
あいつは高校時代、サッカー部で全国大会を優勝している」
「やっぱり経験者か」
「病気で失明してから始めたが、最初はチームと馴染めなかった
特に12番は知的障がい者でもあって
4番が12番に暴力を振るう場面もしばしあった」
「やっぱり現実を受け入れられないんですね」
「そうだな
健常者が障がい者になると一番の壁は自分が障がい者であるという自覚を持つことだ」
「そうですね」
「あいつらみたいに身体的な障がいなら嫌でも病院に行くとこになるが
精神の場合は、病んでも否定して、健常者であり続けようとする」
「確かに精神障がいは病気じゃなくて個性だってなにかの本で読んだことあります」
「それも間違いではないが、健常者と障がい者はどこかで区別しなければならない
でないと生き辛さを生む原因となる」
「なるほど、深いです」
「4番も時間は掛かったが障がい者として自覚してから人を頼るのが上手くなった
なんでも自分でやろうとしてそれが負荷になっていたから安心した」
「なんか障がい者についてここまで詳しく話すとは意外です」
「ドラマーが恐れている病気はなんだ」
「ジストニアでしたっけ
神経系の機能が異常になる病気ですよね」
「ああ。自分が明日障がい者になるかもしれない
ドラムが叩けなくなるかもしれない
そう考えると自然と障がい者に手を差し伸べたくなる」
satoshiの心情は憐れみや慈悲とは違うものだ
俊には理解が追いつかなかったが、その精神は自分も見習わなければと思った
監督は俊に声を掛ける
「この後、シュート練習してみませんか」
「はい。分かりました」
俊はsatoshiに頭を下げコートに戻る
satoshiは俊の背中に声を掛ける
「お前は2つの居場所を行き来できる
サッカーかバンドマンか
今、生き急いで一つに決める必要はねぇよ」
◇
俊は帰宅すると速攻でシャワーを浴びた
それから数時間後、俊は夕食を食べ終え、自室で休んでいると奏から連絡が来る
「奏旅行は楽しい」
「うん。健後君結構面白い子だね」
「なんで健後が」
「あれラインしたのに」
「ごめん一旦切る」
「うん」
慌ててトーク画面を見ると、健後と楽しそうにする奏の写真が送られていた
奏に電話をする
「俺も呼んでくれよ」
「先に声掛けてくれたの健後君だから
勝手に人数増やすと悪いじゃん
それに二人共なにかありそうだし」
俊は健後を邪険に思ったことは一度もない
それよりも今でも良き親友だと思っている
だが健後は違うのかと、俊は首を傾げた
「今ホテルなんだけど」
「ビジホ」
「そうビジホ」
俊は落ち着いて話す
「まさかと思うけど同じ部屋じゃないよな」
「そのまさかだったら」
「それは嫌だっ!じゃない選ぶのは奏自身だから」
「やっぱりそうなんだ」
奏はケラケラとからかうように笑う
「健後君から聞いたよ
俊は私のこと好きなんでしょ」
「好きだ、好きです!」
俊は茹でダコのように顔面を赤くし、ベッドの上で身悶える
(うわぁなに言ってたんだ俺)
「うん、ありがとう
でも付き合えない」
「えっ」
「私ね好きな人がいるんだ」
「誰?」
「頭の中の王子様
幼稚園の頃から想い続けた人」
「俺はその人にはなれないか」
「なれないよ」
「もしもさ、頭の中の王子様に会えたらどうする」
「健後君と同じこと訊くね」
「ごめん」
「いいよ・・・好きだけど付き合えない
変なこと言ってるよね私」
「いや
頭の中の王子様以上の人なら付き合いたいってことだろ
なにも可笑しくないよ」
「そういうことが言いたかったの」
「会えるといいな」
「そうだね」
「明日また朝早いんだろ」
「おやすみ」
「あ、そうだ
後で金払うからお土産買って渡してくれない
健後に」
「いいよ」
「ごめんな
じゃあおやすみ」
俊は通話を切ると、その場でうなだれた
スマホの黒い画面をじっと見つめる
(寂しい思いをさせてごめん)
俊はいつか奏と付き合えると思っていた
比喩ではなく、いつか本当に家族になれたらと願っていた
もしも、付き合えないのなら-
何事もなく一緒にバンドをやれるであろうか
いいやきっとこの手で奏を壊してしまう
俊は覚悟を決めて兄にラインでメッセージを送る
「またサッカーやりたいと思う」
◇
1年生はポジション別に集まり、2・3年生のシュート練習が始まる
健後の放ったボールがゴールポストを跳ね返り俊の方へ向かってくる
俊はボールをピタリと止め、ゴールにシュートを入れた
ゴールキーパーは咄嗟に腕を伸ばすが、反応が遅く、後ろでネットが揺れる
コーチがすぐに声を上げる
「俊勝手に蹴るな」
「ボールが2個に増えた時の練習です」
部員達の顔が緩む
「アップ済ませたなら早く練習するぞ」
「うっす」
俊は軽く足踏みをするとコートの中に足を踏み入れた
「俊行きまーす」
俊はコート外で見守るsatoshiのところへ行った
「想像以上に強かったです」
「そうだろ。全国クラスだからな」
俊はあのスピードなら世界に行ってもおかしくないと思う
「皆あのレベルなんですかね」
「いいや。大抵は亀の足のように遅い
それでも十分偉いが」
「確かに。自分なら挫折しそうです」
「一見すると楽しそうだが、実際やると地味なことの積み重ねだ。投げ出す人は多い」
「ドラムと同じですね」
「そうだな
派手なパフォーマンスに惹かれて始めても長く続かない人は多いからな
俊は何度やめてやると言ったか」
「それはすいません」
「特に俊と競り合っていた4番
あいつは高校時代、サッカー部で全国大会を優勝している」
「やっぱり経験者か」
「病気で失明してから始めたが、最初はチームと馴染めなかった
特に12番は知的障がい者でもあって
4番が12番に暴力を振るう場面もしばしあった」
「やっぱり現実を受け入れられないんですね」
「そうだな
健常者が障がい者になると一番の壁は自分が障がい者であるという自覚を持つことだ」
「そうですね」
「あいつらみたいに身体的な障がいなら嫌でも病院に行くとこになるが
精神の場合は、病んでも否定して、健常者であり続けようとする」
「確かに精神障がいは病気じゃなくて個性だってなにかの本で読んだことあります」
「それも間違いではないが、健常者と障がい者はどこかで区別しなければならない
でないと生き辛さを生む原因となる」
「なるほど、深いです」
「4番も時間は掛かったが障がい者として自覚してから人を頼るのが上手くなった
なんでも自分でやろうとしてそれが負荷になっていたから安心した」
「なんか障がい者についてここまで詳しく話すとは意外です」
「ドラマーが恐れている病気はなんだ」
「ジストニアでしたっけ
神経系の機能が異常になる病気ですよね」
「ああ。自分が明日障がい者になるかもしれない
ドラムが叩けなくなるかもしれない
そう考えると自然と障がい者に手を差し伸べたくなる」
satoshiの心情は憐れみや慈悲とは違うものだ
俊には理解が追いつかなかったが、その精神は自分も見習わなければと思った
監督は俊に声を掛ける
「この後、シュート練習してみませんか」
「はい。分かりました」
俊はsatoshiに頭を下げコートに戻る
satoshiは俊の背中に声を掛ける
「お前は2つの居場所を行き来できる
サッカーかバンドマンか
今、生き急いで一つに決める必要はねぇよ」
◇
俊は帰宅すると速攻でシャワーを浴びた
それから数時間後、俊は夕食を食べ終え、自室で休んでいると奏から連絡が来る
「奏旅行は楽しい」
「うん。健後君結構面白い子だね」
「なんで健後が」
「あれラインしたのに」
「ごめん一旦切る」
「うん」
慌ててトーク画面を見ると、健後と楽しそうにする奏の写真が送られていた
奏に電話をする
「俺も呼んでくれよ」
「先に声掛けてくれたの健後君だから
勝手に人数増やすと悪いじゃん
それに二人共なにかありそうだし」
俊は健後を邪険に思ったことは一度もない
それよりも今でも良き親友だと思っている
だが健後は違うのかと、俊は首を傾げた
「今ホテルなんだけど」
「ビジホ」
「そうビジホ」
俊は落ち着いて話す
「まさかと思うけど同じ部屋じゃないよな」
「そのまさかだったら」
「それは嫌だっ!じゃない選ぶのは奏自身だから」
「やっぱりそうなんだ」
奏はケラケラとからかうように笑う
「健後君から聞いたよ
俊は私のこと好きなんでしょ」
「好きだ、好きです!」
俊は茹でダコのように顔面を赤くし、ベッドの上で身悶える
(うわぁなに言ってたんだ俺)
「うん、ありがとう
でも付き合えない」
「えっ」
「私ね好きな人がいるんだ」
「誰?」
「頭の中の王子様
幼稚園の頃から想い続けた人」
「俺はその人にはなれないか」
「なれないよ」
「もしもさ、頭の中の王子様に会えたらどうする」
「健後君と同じこと訊くね」
「ごめん」
「いいよ・・・好きだけど付き合えない
変なこと言ってるよね私」
「いや
頭の中の王子様以上の人なら付き合いたいってことだろ
なにも可笑しくないよ」
「そういうことが言いたかったの」
「会えるといいな」
「そうだね」
「明日また朝早いんだろ」
「おやすみ」
「あ、そうだ
後で金払うからお土産買って渡してくれない
健後に」
「いいよ」
「ごめんな
じゃあおやすみ」
俊は通話を切ると、その場でうなだれた
スマホの黒い画面をじっと見つめる
(寂しい思いをさせてごめん)
俊はいつか奏と付き合えると思っていた
比喩ではなく、いつか本当に家族になれたらと願っていた
もしも、付き合えないのなら-
何事もなく一緒にバンドをやれるであろうか
いいやきっとこの手で奏を壊してしまう
俊は覚悟を決めて兄にラインでメッセージを送る
「またサッカーやりたいと思う」
◇
1年生はポジション別に集まり、2・3年生のシュート練習が始まる
健後の放ったボールがゴールポストを跳ね返り俊の方へ向かってくる
俊はボールをピタリと止め、ゴールにシュートを入れた
ゴールキーパーは咄嗟に腕を伸ばすが、反応が遅く、後ろでネットが揺れる
コーチがすぐに声を上げる
「俊勝手に蹴るな」
「ボールが2個に増えた時の練習です」
部員達の顔が緩む
「アップ済ませたなら早く練習するぞ」
「うっす」
俊は軽く足踏みをするとコートの中に足を踏み入れた
「俊行きまーす」


