○学校・HR後・夕方(まだ明るい)
五月の末にある文化祭で、一年生は休憩所と決まっていた。それぞれのクラスで特色を出すために朝にアンケートを行った。
その結果発表のために担任の話が終わったHR後、学級委員長が前にでて話し始める。
委員長「はい、じゃあ朝にアンケ取った結果を発表するね。男子から二人引いた分の人数でメイド喫茶と書かれてました、メイド喫茶に決定です。喜べ野郎ども諸君らの勝ちだ」※にこやか
男子生徒「「「うおおおおおおお!!」」」※歓喜
委員長「うちのクラス女子少ないから、当然男子諸君にもメイドをやってもらいます。勝利の味はどうかな?」※にこやか
男子生徒「「「うおおおおおおんんん」」」※身体を震わせて
委員長「とんだ馬鹿犬もいたものだね。ってことで、文化祭の準備期間は明日から二日間だから、全力で行くよ!」
きらりと眼鏡を光らせる委員長。それを見ながら、それまでぺったりと机に頬をつけていた凪が起き上がって呟く。香は真面目にメモをとっていた。
凪「俺のゲーム喫茶は却下されたかー」
香「俺の朗読喫茶もダメだったらしい」
凪「朗読喫茶って何すんの?」※首かしげ
香「貞子やこぐまさんのパンケーキ、着信事故やローストビーフの夢、ある地域にてや禊の朗読を流す」※真顔
凪「いや、こぐまさんのパンケーキ以外怖いやつだろ? ローストビーフの夢なんてマッサージ受けてると思ったら自分がローストビーフになって薄く切られるオチって聞いたことあるぞ、怖すぎて却下」※眉しかめ
香「凪が言うならしょうがない」※肩すくめ
凪「香ー!」※抱きつくまね
委員長「そこのイケメン二人組、聞いてた?」※呆れた表情
イケメンという言葉に、ぴくりと反応した香。周りを不思議そうに見回しながら。
香「イケメン……凪が、二人いる?」
凪「んっふ……そんなわけ。でもイケメンって思ってくれてありがとうな、香はいつでもかっこいいぞ!」※笑いそうになりながら
香「ありがとう」※真顔
委員長「いやありがとうじゃなくて。君もイケメンだよ佐倉くん」※呆れ
香「そんなわけないだろう」※真顔
委員長「この差は何なんだ!?」
憤慨する委員長をさておき、ちらりと凪は横目で女子を見る。香を見てきゃあきゃあと騒いでいる。さっぱりした髪型は香の顔を見せるには充分だった。つまり、硬派なイケメンであるその顔を。
加えて、凪と約束したりその日の気分で眼鏡をつけることで知的クールを纏っている香は、いまや凪と並んでクラスの……いや、学年の二大イケメンだ。
凪の方は自分が、顔がいい自覚はあるものの、香は無頓着なため自覚なしだ。
凪(香のこと、陰口言ってたくせに……)
香の顔が明らかになる前、凪と仲良く話しているのを見て陰でこそこそ言われていた。それなのにイケメンとわかった瞬間に騒ぎ出す。他のクラスからも見にくる。むすっとした顔を隠すように再び机に顔をくっつける。その頭を香が不器用に撫でてくれたため、凪のささくれだった心は和んだ。にへっと笑えば、香が薄く微笑みを返してきて。
凪(不器用だけど優しい、好感度ポイント二点!)
一通り憤慨した委員長は気が済んだらしく、教卓に手をついて話し出す。
委員長「と言っても予算は少ない、全員分のメイド服は用意できない。だから、ジャージの上にひらひらのエプロンとレースで作ったメイドが頭に乗っけているやつをつけることでジャージメイドとする」※真剣な顔
副委員長「委員長! ホワイトプリムです!」※必死
女子生徒「えー、可愛くない」
男子生徒「メイド服期待してたのに」
委員長「苦肉の策だ。その代わりジャージは手持ちがある場合好きなものを着ていいことにする。あと副委員長から」※呆れたような顔
副委員長「ジャージメイドにルーズソックスは正義だ!!」※必死
委員長「……との申し出が入ったからカイソーで買うことにした。それと、当日はインスタントコーヒーに市販のカップケーキを添えることにしている。手作りをして食中毒、なんてことがあったら困るからね。文化祭当日、お客は現金ではなく千円十枚綴りのチケットを購入している。それを二枚貰うように!」※声を張り上げて
女子生徒「ね、ね、いま調べたんだけどジャージメイド可愛くない?」
女子生徒「それな! こうゆう星とかハートとかのピン探そ!」
女子生徒「副キモいけどこれにルーソとかわかってんじゃん」
女子から酷評されてもジャージメイドの素晴らしさを語っている副委員長。委員長は頭が痛そうに額を押さえている。
委員長「これから文化祭で使う小物やアイテムは領収書を貰ってきてくるように。以上、明日から頑張るよ!」
生徒「「「はーい」」」
担任教師「……いつもこのくらい素直だったら嬉しいだがな」※残念そうな顔
担任教師の呟きは誰にも聞こえなかった。
○教室・放課後・夕方(まだ明るい)
明日からの文化祭の準備に向けて、それぞれ散っていった教室で、机をくっつけ今日の数学の課題をしている凪と香。
かちかちとシャープ芯を出そうとしている香。
凪「どうしたんだ?」※首をひねっている香に気づいて
香「シャープ芯が出てこない、この間入れたばかりなんだが」※首ひねり
凪「えー、壊れたのか? あれ? 香シャーペン二本持ってなかったか?」※思い出したように
香「あ」
凪「ふっ……、普通にシャー芯切れだと思うぞ」※小さく笑いながら
香「俺もそう思う」※頷く
シャープペンの、後ろの蓋を取って消しゴムを取り、逆さにしてみれば中身がなかった。
思わず、あははと笑った凪に香が呟く。
香「やっと、笑ったな」
凪「ふくく、え? ごめんなんて?」
香「なんでもない。それより、早く課題を終わらせよう、良いものを持ってきた」※真顔
凪「え、なになに? 気になる!」※わくわくした顔
香「終わらせてからのお楽しみだ」※真顔
そう言って課題に向き合ってしまった香に、凪はこれ以上ごねても仕方ないと諦めて課題に取り組む凪。いつもより早く終わったところで、凪が目を輝かせて香に催促する。
凪「それでそれで!? 良いものってなんなんだ?!」
香「待て、すぐに出す」
まずは課題を片付けといてくれ、と言われとりあえず二人分の課題をまとめて机の端に乱雑に置く凪。いつものリュックサックとは違うぱんぱんに膨らんだ中学の時のものだろう、古いが綺麗な手提げバッグをロッカーから持ってくる香。香はチャックを開けてバッグから中身を取り出す。
香「巨大ポテチ」
凪「でっか!? やだ、香ちゃんサイズが男前! ……本当にでかいな!?」※驚き
香「香ちゃんはやめろ。……さらに」※真顔
凪「まだあるのか!?」※目を丸くする
香「ドデカサラミ」※真顔
凪「ふっくくく……待って、歯が勝てないどころか口に入らないレベルの太さ」※笑う
香「最後に」※真顔
凪「まだあるのか!?」※つばを飲み込む
香「ミックスナッツ」※真顔
凪「大トリー!! まさかの缶で?! 俺のこと太らせようとしてる!?」※小さく叫ぶ
香「バレたか」※真顔
凪「バレたか!?」※口をぽかんとして
机サイズのコンソメポテチに五百ミリリットルのペットボトルサイズのサラミ、缶入りのミックスナッツ。どれも一つで成人男性の目標摂取カロリーを越えるものばかりだ。
次々に取り出して、最後に凪がツッコめばふいっと顔をそらす香。
香「まずはこのポテチから」※真顔
凪「あ、待って。俺が開ける」※あわてて
香「大丈夫だ、俺にも開けられる」※真顔
凪「いやそっちじゃ」※あわてて
香「ふん」※真顔
ぱあんっ。凪の予想通り、袋を思いっきり横に引っ張った香は、ポテチの中身を全て上に飛ばした。妙にスローモーションに宙を舞うポテチ。香はびっくりしたのか固まっている。顔はぽかんとしながらも、凪の頭の中は妙に冷静で。
凪(今日の天気は晴れ時々ポテチ、なおコンソメの香りってか?)
担任教師「名簿名簿……うっわコンソメくさっ。何やってんだ、お前たち!?」※驚き
ポテチをちゃんと片付けることと、ドデカサラミを献上することによって説教を免れた二人。
なお。
担任教師「こんなサラミどうやって食うんだよ」※呆れ
香「ナイフとフォークあります」※真顔
凪「え、持ってきたのか!?」※驚き
香「あぁ。先生どうぞ」※真顔
すっと香が差し出したのはプラスチック製のナイフとフォーク。凪と担任教師は二人で顔を香からそらした。吹き出しそうになったからだ。
担任教師「こ……、こほん。こんなちゃっちいので切れるわけないだろ」※忍び笑いしながら
香「え」※驚き
凪「悪い、香。俺もそう思う」※頷く
香「そんな」※真顔
担任教師「まあ、これはつまみにするとして。さっさと帰れ……あの缶は?」※缶を見つつ
香「ミックスナッツです」※真顔
担任教師「どんだけ食うつもりだったんだお前ら」
呆れた顔で、取りに来た出席名簿で香と凪の頭を軽く叩くと「ちゃんと掃除しろよー」と言って去っていく担任教師。そのポケットはサラミで大きく膨らんでいる。
凪「とりあえず片付けるか!」※元気に
香「……すまない、俺が余計なことを」※落ち込み
凪「全然余計じゃないって! 楽しかったぞ、晴れ時々ポテチ!」※笑顔
香「ふは、なんだそれは」
先ほどまで落ち込んでいた香が笑ったのと、吹き出したのを初めて見たので、凪はびっくりした顔をしている。それから、じわじわと笑顔になって。
凪「香が笑った! 今日は、良い日だな!」
香「俺はそんなに笑ってないか?」※真顔
凪「あんまり笑顔! って感じのはないな、だから嬉しい!」※笑顔
香「俺も、凪が笑顔で嬉しい」※真顔
凪「え、俺いつも笑ってただろ?」※不思議そうに
香「俺が髪を切った次の日から、どことなく不機嫌だっただろう」※真顔
凪「あれは香が悪いんじゃなくて! ……女子がさ、香の良いところなんてずっとあったのに、顔一つで態度変えてやだなって」※眉をハの字に下げて
唇を尖らせて子どものように椅子の上で体育座りして言う凪に、その言葉を噛み砕いた香の胸が温かくなる。香の良いところは元々あったのに、一つ見つけただけで態度を変えて! と要は香のために凪は拗ねているのだ。それが妙に……可愛らしくて。
香は、不器用に凪の頭をなでた。
にへっと崩れた幼い笑みに、菓子を持ってきてよかったと香は、思えたのだった。
○正門までの道・放課後・夕方(暗くなりかけ)
ポテチを掃除したり換気したりしていたら暗くなってしまった。靴を履き替え、階段を降りながら昇降口を出ながら話していると、先ほどのお菓子の話になる。
凪「そういえば、香はあのカロリー食べて大丈夫なのか?」※心配そう
香「……これからしばらくハードメニューを母さんに組まれていたんだが、ポテチもサラミも食べなかったことを言えば何とかなると思う」※げんなりした顔
凪「ハードメニュー……聞くだけで恐ろしい響きだ」※自身の腕を抱いて震え
香「悪くはないんだがな。少しキツい」※真顔
凪「お疲れ様です。……そういえばさっき貰ったナッツ缶さ」※思い出したように
香「ん?」※真顔
凪「はい」※ナッツ缶差し出し
香「いらないのか?」※ナッツ缶受け取り
凪「違うよ、もう俺のだもん。そのミックスナッツで、香が作ったお菓子が食べたいなー」※首を斜めにかしげてあざとく香を見る
香「俺に製菓の才能はないんだが……やってみる」※ため息をついて
凪「へへっ、香が作るお菓子楽しみ!」※にこにこ
香「……期待はするなよ」※薄く笑顔
そう会話する二人分の影が夕暮れの中、長く伸びる。
次の日「なんかコンソメっぽい匂いしない?」と女子たちが話しているのを聞いて素知らぬ顔で通した香と凪。
五月の末にある文化祭で、一年生は休憩所と決まっていた。それぞれのクラスで特色を出すために朝にアンケートを行った。
その結果発表のために担任の話が終わったHR後、学級委員長が前にでて話し始める。
委員長「はい、じゃあ朝にアンケ取った結果を発表するね。男子から二人引いた分の人数でメイド喫茶と書かれてました、メイド喫茶に決定です。喜べ野郎ども諸君らの勝ちだ」※にこやか
男子生徒「「「うおおおおおおお!!」」」※歓喜
委員長「うちのクラス女子少ないから、当然男子諸君にもメイドをやってもらいます。勝利の味はどうかな?」※にこやか
男子生徒「「「うおおおおおおんんん」」」※身体を震わせて
委員長「とんだ馬鹿犬もいたものだね。ってことで、文化祭の準備期間は明日から二日間だから、全力で行くよ!」
きらりと眼鏡を光らせる委員長。それを見ながら、それまでぺったりと机に頬をつけていた凪が起き上がって呟く。香は真面目にメモをとっていた。
凪「俺のゲーム喫茶は却下されたかー」
香「俺の朗読喫茶もダメだったらしい」
凪「朗読喫茶って何すんの?」※首かしげ
香「貞子やこぐまさんのパンケーキ、着信事故やローストビーフの夢、ある地域にてや禊の朗読を流す」※真顔
凪「いや、こぐまさんのパンケーキ以外怖いやつだろ? ローストビーフの夢なんてマッサージ受けてると思ったら自分がローストビーフになって薄く切られるオチって聞いたことあるぞ、怖すぎて却下」※眉しかめ
香「凪が言うならしょうがない」※肩すくめ
凪「香ー!」※抱きつくまね
委員長「そこのイケメン二人組、聞いてた?」※呆れた表情
イケメンという言葉に、ぴくりと反応した香。周りを不思議そうに見回しながら。
香「イケメン……凪が、二人いる?」
凪「んっふ……そんなわけ。でもイケメンって思ってくれてありがとうな、香はいつでもかっこいいぞ!」※笑いそうになりながら
香「ありがとう」※真顔
委員長「いやありがとうじゃなくて。君もイケメンだよ佐倉くん」※呆れ
香「そんなわけないだろう」※真顔
委員長「この差は何なんだ!?」
憤慨する委員長をさておき、ちらりと凪は横目で女子を見る。香を見てきゃあきゃあと騒いでいる。さっぱりした髪型は香の顔を見せるには充分だった。つまり、硬派なイケメンであるその顔を。
加えて、凪と約束したりその日の気分で眼鏡をつけることで知的クールを纏っている香は、いまや凪と並んでクラスの……いや、学年の二大イケメンだ。
凪の方は自分が、顔がいい自覚はあるものの、香は無頓着なため自覚なしだ。
凪(香のこと、陰口言ってたくせに……)
香の顔が明らかになる前、凪と仲良く話しているのを見て陰でこそこそ言われていた。それなのにイケメンとわかった瞬間に騒ぎ出す。他のクラスからも見にくる。むすっとした顔を隠すように再び机に顔をくっつける。その頭を香が不器用に撫でてくれたため、凪のささくれだった心は和んだ。にへっと笑えば、香が薄く微笑みを返してきて。
凪(不器用だけど優しい、好感度ポイント二点!)
一通り憤慨した委員長は気が済んだらしく、教卓に手をついて話し出す。
委員長「と言っても予算は少ない、全員分のメイド服は用意できない。だから、ジャージの上にひらひらのエプロンとレースで作ったメイドが頭に乗っけているやつをつけることでジャージメイドとする」※真剣な顔
副委員長「委員長! ホワイトプリムです!」※必死
女子生徒「えー、可愛くない」
男子生徒「メイド服期待してたのに」
委員長「苦肉の策だ。その代わりジャージは手持ちがある場合好きなものを着ていいことにする。あと副委員長から」※呆れたような顔
副委員長「ジャージメイドにルーズソックスは正義だ!!」※必死
委員長「……との申し出が入ったからカイソーで買うことにした。それと、当日はインスタントコーヒーに市販のカップケーキを添えることにしている。手作りをして食中毒、なんてことがあったら困るからね。文化祭当日、お客は現金ではなく千円十枚綴りのチケットを購入している。それを二枚貰うように!」※声を張り上げて
女子生徒「ね、ね、いま調べたんだけどジャージメイド可愛くない?」
女子生徒「それな! こうゆう星とかハートとかのピン探そ!」
女子生徒「副キモいけどこれにルーソとかわかってんじゃん」
女子から酷評されてもジャージメイドの素晴らしさを語っている副委員長。委員長は頭が痛そうに額を押さえている。
委員長「これから文化祭で使う小物やアイテムは領収書を貰ってきてくるように。以上、明日から頑張るよ!」
生徒「「「はーい」」」
担任教師「……いつもこのくらい素直だったら嬉しいだがな」※残念そうな顔
担任教師の呟きは誰にも聞こえなかった。
○教室・放課後・夕方(まだ明るい)
明日からの文化祭の準備に向けて、それぞれ散っていった教室で、机をくっつけ今日の数学の課題をしている凪と香。
かちかちとシャープ芯を出そうとしている香。
凪「どうしたんだ?」※首をひねっている香に気づいて
香「シャープ芯が出てこない、この間入れたばかりなんだが」※首ひねり
凪「えー、壊れたのか? あれ? 香シャーペン二本持ってなかったか?」※思い出したように
香「あ」
凪「ふっ……、普通にシャー芯切れだと思うぞ」※小さく笑いながら
香「俺もそう思う」※頷く
シャープペンの、後ろの蓋を取って消しゴムを取り、逆さにしてみれば中身がなかった。
思わず、あははと笑った凪に香が呟く。
香「やっと、笑ったな」
凪「ふくく、え? ごめんなんて?」
香「なんでもない。それより、早く課題を終わらせよう、良いものを持ってきた」※真顔
凪「え、なになに? 気になる!」※わくわくした顔
香「終わらせてからのお楽しみだ」※真顔
そう言って課題に向き合ってしまった香に、凪はこれ以上ごねても仕方ないと諦めて課題に取り組む凪。いつもより早く終わったところで、凪が目を輝かせて香に催促する。
凪「それでそれで!? 良いものってなんなんだ?!」
香「待て、すぐに出す」
まずは課題を片付けといてくれ、と言われとりあえず二人分の課題をまとめて机の端に乱雑に置く凪。いつものリュックサックとは違うぱんぱんに膨らんだ中学の時のものだろう、古いが綺麗な手提げバッグをロッカーから持ってくる香。香はチャックを開けてバッグから中身を取り出す。
香「巨大ポテチ」
凪「でっか!? やだ、香ちゃんサイズが男前! ……本当にでかいな!?」※驚き
香「香ちゃんはやめろ。……さらに」※真顔
凪「まだあるのか!?」※目を丸くする
香「ドデカサラミ」※真顔
凪「ふっくくく……待って、歯が勝てないどころか口に入らないレベルの太さ」※笑う
香「最後に」※真顔
凪「まだあるのか!?」※つばを飲み込む
香「ミックスナッツ」※真顔
凪「大トリー!! まさかの缶で?! 俺のこと太らせようとしてる!?」※小さく叫ぶ
香「バレたか」※真顔
凪「バレたか!?」※口をぽかんとして
机サイズのコンソメポテチに五百ミリリットルのペットボトルサイズのサラミ、缶入りのミックスナッツ。どれも一つで成人男性の目標摂取カロリーを越えるものばかりだ。
次々に取り出して、最後に凪がツッコめばふいっと顔をそらす香。
香「まずはこのポテチから」※真顔
凪「あ、待って。俺が開ける」※あわてて
香「大丈夫だ、俺にも開けられる」※真顔
凪「いやそっちじゃ」※あわてて
香「ふん」※真顔
ぱあんっ。凪の予想通り、袋を思いっきり横に引っ張った香は、ポテチの中身を全て上に飛ばした。妙にスローモーションに宙を舞うポテチ。香はびっくりしたのか固まっている。顔はぽかんとしながらも、凪の頭の中は妙に冷静で。
凪(今日の天気は晴れ時々ポテチ、なおコンソメの香りってか?)
担任教師「名簿名簿……うっわコンソメくさっ。何やってんだ、お前たち!?」※驚き
ポテチをちゃんと片付けることと、ドデカサラミを献上することによって説教を免れた二人。
なお。
担任教師「こんなサラミどうやって食うんだよ」※呆れ
香「ナイフとフォークあります」※真顔
凪「え、持ってきたのか!?」※驚き
香「あぁ。先生どうぞ」※真顔
すっと香が差し出したのはプラスチック製のナイフとフォーク。凪と担任教師は二人で顔を香からそらした。吹き出しそうになったからだ。
担任教師「こ……、こほん。こんなちゃっちいので切れるわけないだろ」※忍び笑いしながら
香「え」※驚き
凪「悪い、香。俺もそう思う」※頷く
香「そんな」※真顔
担任教師「まあ、これはつまみにするとして。さっさと帰れ……あの缶は?」※缶を見つつ
香「ミックスナッツです」※真顔
担任教師「どんだけ食うつもりだったんだお前ら」
呆れた顔で、取りに来た出席名簿で香と凪の頭を軽く叩くと「ちゃんと掃除しろよー」と言って去っていく担任教師。そのポケットはサラミで大きく膨らんでいる。
凪「とりあえず片付けるか!」※元気に
香「……すまない、俺が余計なことを」※落ち込み
凪「全然余計じゃないって! 楽しかったぞ、晴れ時々ポテチ!」※笑顔
香「ふは、なんだそれは」
先ほどまで落ち込んでいた香が笑ったのと、吹き出したのを初めて見たので、凪はびっくりした顔をしている。それから、じわじわと笑顔になって。
凪「香が笑った! 今日は、良い日だな!」
香「俺はそんなに笑ってないか?」※真顔
凪「あんまり笑顔! って感じのはないな、だから嬉しい!」※笑顔
香「俺も、凪が笑顔で嬉しい」※真顔
凪「え、俺いつも笑ってただろ?」※不思議そうに
香「俺が髪を切った次の日から、どことなく不機嫌だっただろう」※真顔
凪「あれは香が悪いんじゃなくて! ……女子がさ、香の良いところなんてずっとあったのに、顔一つで態度変えてやだなって」※眉をハの字に下げて
唇を尖らせて子どものように椅子の上で体育座りして言う凪に、その言葉を噛み砕いた香の胸が温かくなる。香の良いところは元々あったのに、一つ見つけただけで態度を変えて! と要は香のために凪は拗ねているのだ。それが妙に……可愛らしくて。
香は、不器用に凪の頭をなでた。
にへっと崩れた幼い笑みに、菓子を持ってきてよかったと香は、思えたのだった。
○正門までの道・放課後・夕方(暗くなりかけ)
ポテチを掃除したり換気したりしていたら暗くなってしまった。靴を履き替え、階段を降りながら昇降口を出ながら話していると、先ほどのお菓子の話になる。
凪「そういえば、香はあのカロリー食べて大丈夫なのか?」※心配そう
香「……これからしばらくハードメニューを母さんに組まれていたんだが、ポテチもサラミも食べなかったことを言えば何とかなると思う」※げんなりした顔
凪「ハードメニュー……聞くだけで恐ろしい響きだ」※自身の腕を抱いて震え
香「悪くはないんだがな。少しキツい」※真顔
凪「お疲れ様です。……そういえばさっき貰ったナッツ缶さ」※思い出したように
香「ん?」※真顔
凪「はい」※ナッツ缶差し出し
香「いらないのか?」※ナッツ缶受け取り
凪「違うよ、もう俺のだもん。そのミックスナッツで、香が作ったお菓子が食べたいなー」※首を斜めにかしげてあざとく香を見る
香「俺に製菓の才能はないんだが……やってみる」※ため息をついて
凪「へへっ、香が作るお菓子楽しみ!」※にこにこ
香「……期待はするなよ」※薄く笑顔
そう会話する二人分の影が夕暮れの中、長く伸びる。
次の日「なんかコンソメっぽい匂いしない?」と女子たちが話しているのを聞いて素知らぬ顔で通した香と凪。
