○本屋店頭・休日(学校の創立記念日)・昼
男性向けの髪型の雑誌を立ち読みしている香。眉をしかめて、そこだけ雰囲気が重苦しい。そんな香の背中に声がかかる。
凪「あれ、もしかして香?」※きょとんとした顔
香「……凪」※眉根を寄せた困った顔
凪「何読んでって……どうかしたのか?」※首を傾げ
香「これから、初めて美容院に行くんだが。髪型を決めて行かないといけないらしくてな。困ってる」※困った顔
凪「初めて!? 今までどこで切ってたんだ?!」※驚き顔
香「千円カットだが?」
不思議そうに小さく首を傾げながら言う香。生まれてから美容院しか行ったことのなかった凪は、家庭は色々だ、と耐える。だがよく考えたら千円カット興味あるな? と思いつつ、今は香の髪型だ! と切り替える。
凪「香はどんな髪型にしたいんだ?」※わくわくした顔
香「このままでいいかと思ってる」※真顔
凪「……香、嫌じゃなければ俺が決めていいか?」※生易しい眼差し
香「いいのか? 正直どれも同じように見えてよくわからん。……だが、その」※真顔
凪「どうした? 香のことだからどんどん意見は欲しい」※真剣な顔
香「リーゼントや丸刈りはちょっと」※真顔
凪「ぶふっ、安心してくれ。『理想の彼氏様』にはだいぶ相応しくないから却下だ」※笑いながら
香「よかった」
香の「このままでいいかと思ってる」という発言を聞いて一番に浮かんだ光景が、美容師を困らせる香。
さすがにそれは、と思い凪は自分が決めるといい出す。言いづらそうにリーゼントや丸刈りはやめて欲しいという香の発言に吹き出しながらも、却下すれば、ほっとしたように小さく笑う香。その笑顔に妙にそわそわしながらも、凪は店員に見られていることに気づき、雑誌を戻した香の手を引き本屋から離れる。
○ハンバーガーチェーン店・休日(創立記念日)・昼
平日とはいえ、早めに食べに来たのか少し混んでいる。作戦会議だ! と凪が連れてきて、先払いでアイスコーヒーを頼み、香に注文の順番を譲る。
店員「いらっしゃいませ、お決まりでしょうか?」※営業的な笑顔
香「フレッシュチーズバーガー八個とホットのアイスコーヒーお願いします」※真顔
店員「はい、繰り返しますね。フレッシュチーズバーガー八個とホットの……え?」※困惑顔
香「?」※不思議そうな顔
凪「ふふっ、香。コーヒーはホットかアイスかのどっちかだぞ?」※優しく笑って
香「あ」
店員「え、えっと」※困惑顔
香「アイスでお願いします」※真顔
店員「アイスコーヒーですね、承りました!」※ほっとした顔
真顔で笑顔の店員に注文する香。バーガーの数に目を丸くしていた凪だが、店員が困っていたので、つい笑いながら指摘。言い直した香に安堵した様子の店員。
先にコーヒーを受け取った凪がスマホをいじりながら(無表情のため美人に見える)席確保のため座っていると、女子がちらちら見ながら声をかけようとしているのを、バーガーとアイスコーヒーの盆を持った香は見て、もやっとする。
女子「あの」
香「凪、待たせた」※真顔
凪「全然待ってないぞ! いまスマホで調べてるところだったからな!」※スマホから顔を笑顔で上げる
香「そうか、ありがとう」※微笑み
凪「ところで、バーガー多いな?」※驚き
香「そうか? 小腹がすいたから少ししか頼んでないんだが。凪も食べるか?」※不思議そう
凪「小腹!? ……俺は見てるだけで気持ちがいっぱい」※手で止める
香「そうか」
話しかけようとした女子を遮り凪に話しかける。凪は髪型をスマホで調べてた。凪は女子の存在に気づかずに、香に応答する。
女子は香を睨むが無視されて、苛ついたようにさっさと店をでていく。
小腹と言いつつ八個もバーガーを頼んだことに驚きつつ、断る凪。
断られ、頷いて大きく口を開けてバーガーにかぶりつく香、一口の大きさとちらりと見えた鋭い犬歯にどきっとする凪。
(学校とは違うから新鮮なのか?)
香「凪?」※真顔
凪「……男らしい食べ方といっぱい食べる君が素敵ってことで好感度ポイント三点!」※にこにこ肩肘を付きながら
香「いっぱい食べるのは素敵なのか」※真顔
凪「少食が悪いわけじゃないけど、香は見てて気持ちいい食べっぷりだからな!」※笑顔
香「そうか」
照れたように、片手でバーガーを持ちながら、アイスコーヒーのカップをもつ。刺さっているストローを咥えようとするが、空振る。何回も空振った末、とうとうハンバーガーを置いてストローを食んだ香だったが、あることに気づく。
香「あ」
凪「え、どうした?」
香「曲がる方を下にいれてしまっていた」※しょんぼり
凪「んふふ、案外あるあるだよな!」
笑いながらもフォローする凪に、どこかほっとしながら最後のバーガーに手を伸ばす香。
凪が真剣な顔でスマホをいじっているのが、自分の髪型を決めるためだと知っているからどことなく優越感を抱く香。そんなこととは知らずに凪はぶつぶつと髪型について難しい顔で呟いている。
凪「マッシュは鉄板なんだよな、でもただのマッシュだとちょっと可愛すぎ……いっそツーブロ、いやでもナチュラルも捨てがたい……あ、全部合わせたのある。へー、これいいな。かっこいい。香、これどう?」※画面を見せる
香「いいんじゃないか?」※ちらりと画面を見て
凪「もう。香ちゃんたら、いつもそうなんだから」※すねたように
香「香ちゃんはやめろ。俺はお前を信じているしここまで真剣に考えてくれているんだから、変な髪型を勧めるはずないだろう」※真顔
凪「もちろん! 香の良さを一番に引き出す髪型を選んだぞ」※照れた笑顔
真摯なまでの信頼にちょっと照れくさくなって、ちょっと早口に一番良い髪型を選んだ、という凪。その言葉が、香の良さをわかってるのは自分だから、みたいにだいぶ歪曲して聞こえて、思わず「そうか」と声が小さくなる香。
凪「いいか、髪型はこのツーブロックマッシュナチュラルだ」※真剣な顔
香「ツーブロックマッシュルームナチュラルチーズ?」※不思議そうな顔
凪「んぐっ、余計なのが増えてる」※飲み物をつまらせる
結局、凪が店員に髪型を伝えることになった。
○美容院に行く道中・休日(創立記念日)・昼
歩きながら、香がいいづらそうな声で凪に話しかける。自転車が通り過ぎる。
香「凪」
凪「ん?」※不思議そうな顔
香「俺の用事につき合わせてしまっているが、もしかして凪も用事があったんじゃないか?」※心配そうな顔
凪「うーん? いやほら、突然出来た休みだろ? 暇だから駅ビルの百円均一行こうと思って。ほら、アイマスク」※にこにこ
香「あぁ、なるほど」※真顔
凪「だから香に着いてってる。他にも予定があるのか?」※首を傾げ
香「予定、というか。相談なんだが」※躊躇いがちに
凪「なんだ?」
香「眼鏡を辞めるかどうかについて」※真顔
凪「え!? それ、伊達なのか!?」※叫ぶ
香「あぁ」※真顔
思わず叫んだ凪に、毛を逆立たせる猫。「あらまぁ、元気だねぇ」と言ってるおばちゃん二人組。
そんな分厚い黒縁眼鏡をファッションでつけてるとは思えなくて、聞いていいのか悩んだ凪だったが、香が話し出す。
香「元々祖父の物だったんだが、形見分けでもらったんだ」※真顔
凪「お祖父さんの……」※しんみりした顔
香「だが部屋に置いておくと邪魔になってしまうからつけてる」※真顔
凪「そんな理由!?」※驚き
香「元から度は入っていなかった」※真顔
凪「なんで?」※スペースキャット
香「わからない」※真顔
香の祖父が不思議過ぎて、スペースキャットになる凪。そんな凪の肩を叩いて、香は美容院に到着したことを告げる。
横を向くと、ガラス張りの壁に優しい明るさの店内の様子がよく見える、雰囲気いい美容院だった。
○美容院内・休日(創立記念日)・昼
さっそく予約していた時間になり。番号を呼ばれていくと男の美容師だった。眼鏡を外し、散髪ケープと首にタオルを巻かれる香。
美容師「どんな髪型になさいますか?」※営業スマイル
凪「ツーブロックマッシュナチュラルで」※真剣
美容師「え、いや、お客さんの」※困惑
香「ツーブロックマッシュルームナチュラルチーズでお願いします」※真顔
凪「……こんな感じなんで」※肩をすくめて笑顔
美容師「ぶふっ、……んっん、わかりました」※肩で笑いを隠す
凪が要望を言うと、え? と振り返った美容師だったが、香が要望をなぜ凪が言ったのかを理解したらしく、吹き出しながらも了解してくれた。
それからは霧吹きで髪を湿らせクリップを使い分けながら切っていってくれた。
凪が後ろでじっとその様子を見ていたから、美容師の緊張もひとしおだ。
さっそく切り終わり、シャンプーをしてもらって、さっぱりしたところで。
凪「香、かっこいいぞ!」※目を輝かせる
香「なんか、不思議な感じだ。頭が軽い」※不思議そうな顔
凪「頭が軽くなってよかったな、でも髪が舞うから踵だけとはいえ跳ねるのはダメだぞ」※子どもを叱る顔
香「すまない」※真顔
美容師「んっふっ……」※箒ではきながら下を向いて笑いを隠す
凪が香を褒めると、今までずっと重かった頭が軽くなったのを確かめるように踵だけで跳ねたり勢いよく横を向いてみたりしていた香は肩を落とした。
黒縁眼鏡をかけようと手に取る香。
凪「ダーメだ」※悪戯げに
香「凪」※真顔
凪「度がある眼鏡ならともかく、度なしなら百円均一にも売ってるだろ、お揃いの買わない?」※眼鏡を両手で持ちながら
香「買う」※真顔
凪「折角だから色々ためしてみようぜ」※眩しい笑顔
香の黒縁眼鏡を取り上げた凪。それを咎めるように名前を呼んだ香に、お揃いの眼鏡を買わないかと肩を組む凪。即答した香に眼鏡を返しながら、笑いかける凪。その光景を見て、青春だなぁと思う周りの客たち。
○駅ビルに向かう道・休日(創立記念日)・昼
香が会計しているのを外で待っていた凪。合流した香と百円均一でもカイソーよりゼリエのほうがおしゃれなのありそう、という理由で両方入ってる駅ビルに向かう。
その途中で数回逆ナンされるも。
香「お前が凪の良さを、俺よりわかっていると思うのか?」※真顔
凪「香は元々イケメンだったの、気づかなかったのにいまさら?」※冷たい笑顔
という謎のマウントの取り合いで逆ナンは失敗に終わる。最終的に「あの二人なに?」と逆ナンはなくなる。
○駅ビル・休日(創立記念日)・昼
ゼリエの一角がざわついている。主に女子。なぜならイケメンたちが伊達メガネコーナーにいるから。香と凪のこと。
香「どうだ?」※真顔
凪「あー、かっこいい!! 知的クール! 俺はどう?」※眼鏡の縁に手を当てながらキメ顔
香「凪はいつもかっこいい」※真顔
凪「そ、そうじゃなくて……眼鏡」※照れ顔
香「あ」
凪「も、もう! 本当そういうところ! 好感度ポイント二点!」※頬をほんのり赤くする
香「青だと凪の雰囲気に合わない気がする。最初の銀色がよかった」※気づかずに真顔
凪「じゃあ最初の銀色買うか! あ、あとアイマスク!」※笑顔
香「アイマスクのコーナーならこっちなんじゃないか?」※真顔
度の入ってないメガネをそれぞれ一本ずつ持ちながら、アイマスクをパッケージの上からあーでもないこーでもないと話している二人。
最終的に、何故かくまちゃん柄のアイマスクを買うことになった。香の強いおすすめ。
香「前はうさぎも居たのに……消えたか」※哀しげ
凪「んんっ……ただ買われていっただけだと思うぞ」※吹き出さないようにしつつツッコミ
香「いい飼い主に当たるといいな」※哀しげ
凪「アイマスクだからな!? 世話とかないから!」※耐えきれずツッコミ
香「あ」
凪「もう、香の天然!」※にやけちゃう
哀愁漂う感じでうさぎのアイマスクの話をしている香。ツッコミどころ満載でつい笑っちゃう凪。周りで聞き耳を立ててた周りの客のほうが大ダメージ。
凪「香ー、明日、お揃いでつけていかないか?」※悪戯げに
香「アイマスクを?」※不思議そうな顔
凪「ふふっ、眼鏡だって」※笑顔
香「あ」
凪「さては眼鏡の存在忘れてたな、うっかりさんめ!」※悪戯げに
香「忘れてない、つけていく!」※拳を握って
凪「ふは、そんな気負わなくていいって」※空気が抜けるような笑顔
笑いながらゼリエで買い物を済ませ、駅ビルを出る。コンビニに寄りたいという香に、近くにあったローゾンに寄る。
○ローゾン店内・休日(創立記念日)・昼
香が扉の前に立っている。開かないのを不思議そうに下がってみたり近づいてみたりしているのを、下を向きつつ吹き出さないように震えている凪が。
凪「香、それ、手動」※震えながら
香「あ」
リリリラリリリーン。入店を知らせる音がなった途端、香の踏み出そうとしていた足が止まる。入り口だったため、他の客の入店の邪魔にならないように香の手を引き飲食コーナーに連れてくる凪。
凪「香、どうかした?」
香「凪、大変だ」※真顔
凪「え、財布落としたとか!?」※驚き顔
香「いや、違う」※真顔
凪「じゃあなんだ?」※不思議そうな顔
香「俺は何をしにここに来たんだ」※真剣な顔
凪「んははっ! 俺に聞かれても、ふふっ」
香「何か買おうと思っていたんだが……メロディを聞いたら忘れてしまった」
深刻そうな顔で告げる香に、つい声を上げて笑ってしまう凪。
近くで話を聞いていたらしき、揚げたばかりのコンビニチキンをケースに入れようとしていた店員のトングからチキンが落ちそうになる。
凪「うーん、とりあえず飲み物買えばいいんじゃないか? 違ったら帰りに違うとこ寄ればいいし」※気軽に
香「あ、思い出した。凪に明太子汁粉サイダーを見せようと思ったんだ。ローゾンにしか売ってないんだ」※目を開いて、手をうつ
凪「なんて?」※眉根を寄せて
今度は凪の手を引いて香がホットコーナーに近づく。
二百五十ミリリットルのペットボトルに、溝色の中身がシュワシュワしながらホットコーナーに置かれていた。
香「これだ」※真顔
凪「香……」
それに手を伸ばす香の肩に手を置いた凪。振り返った香に首を悲しげにゆっくりと横に振った。手を引っ込めて、普通に冷蔵コーナーに向かって、香のお茶と凪のミルクティーをまとめて香が買う。
え? え? となっているうちにローゾンの外に出ると、ミルクティーを凪に渡す。
凪「あ、待って。いま小銭」※あわてて財布をだそうとする
香「いい。今日はたくさん付き合ってもらったからな。今日は……いや、今日も楽しかった。ありがとう」※真顔
凪「俺も楽しかった……って今日はここでお別れか?」※不思議そうな顔
香「今日は母さんからジムに来いって言われてるから」※真顔
凪「なるほど。じゃあ、ありがたく頂くな! また明日!」※笑顔で手を振る
香「また明日」※優しげな微笑み
香の微笑みに一瞬見惚れ、手を降ってから人に紛れていなくなるのまで見送ったところで一瞬で顔が赤くなり、うずくまる。それを誤魔化すかのようにミルクティーを開けて一気飲みする凪。
男性向けの髪型の雑誌を立ち読みしている香。眉をしかめて、そこだけ雰囲気が重苦しい。そんな香の背中に声がかかる。
凪「あれ、もしかして香?」※きょとんとした顔
香「……凪」※眉根を寄せた困った顔
凪「何読んでって……どうかしたのか?」※首を傾げ
香「これから、初めて美容院に行くんだが。髪型を決めて行かないといけないらしくてな。困ってる」※困った顔
凪「初めて!? 今までどこで切ってたんだ?!」※驚き顔
香「千円カットだが?」
不思議そうに小さく首を傾げながら言う香。生まれてから美容院しか行ったことのなかった凪は、家庭は色々だ、と耐える。だがよく考えたら千円カット興味あるな? と思いつつ、今は香の髪型だ! と切り替える。
凪「香はどんな髪型にしたいんだ?」※わくわくした顔
香「このままでいいかと思ってる」※真顔
凪「……香、嫌じゃなければ俺が決めていいか?」※生易しい眼差し
香「いいのか? 正直どれも同じように見えてよくわからん。……だが、その」※真顔
凪「どうした? 香のことだからどんどん意見は欲しい」※真剣な顔
香「リーゼントや丸刈りはちょっと」※真顔
凪「ぶふっ、安心してくれ。『理想の彼氏様』にはだいぶ相応しくないから却下だ」※笑いながら
香「よかった」
香の「このままでいいかと思ってる」という発言を聞いて一番に浮かんだ光景が、美容師を困らせる香。
さすがにそれは、と思い凪は自分が決めるといい出す。言いづらそうにリーゼントや丸刈りはやめて欲しいという香の発言に吹き出しながらも、却下すれば、ほっとしたように小さく笑う香。その笑顔に妙にそわそわしながらも、凪は店員に見られていることに気づき、雑誌を戻した香の手を引き本屋から離れる。
○ハンバーガーチェーン店・休日(創立記念日)・昼
平日とはいえ、早めに食べに来たのか少し混んでいる。作戦会議だ! と凪が連れてきて、先払いでアイスコーヒーを頼み、香に注文の順番を譲る。
店員「いらっしゃいませ、お決まりでしょうか?」※営業的な笑顔
香「フレッシュチーズバーガー八個とホットのアイスコーヒーお願いします」※真顔
店員「はい、繰り返しますね。フレッシュチーズバーガー八個とホットの……え?」※困惑顔
香「?」※不思議そうな顔
凪「ふふっ、香。コーヒーはホットかアイスかのどっちかだぞ?」※優しく笑って
香「あ」
店員「え、えっと」※困惑顔
香「アイスでお願いします」※真顔
店員「アイスコーヒーですね、承りました!」※ほっとした顔
真顔で笑顔の店員に注文する香。バーガーの数に目を丸くしていた凪だが、店員が困っていたので、つい笑いながら指摘。言い直した香に安堵した様子の店員。
先にコーヒーを受け取った凪がスマホをいじりながら(無表情のため美人に見える)席確保のため座っていると、女子がちらちら見ながら声をかけようとしているのを、バーガーとアイスコーヒーの盆を持った香は見て、もやっとする。
女子「あの」
香「凪、待たせた」※真顔
凪「全然待ってないぞ! いまスマホで調べてるところだったからな!」※スマホから顔を笑顔で上げる
香「そうか、ありがとう」※微笑み
凪「ところで、バーガー多いな?」※驚き
香「そうか? 小腹がすいたから少ししか頼んでないんだが。凪も食べるか?」※不思議そう
凪「小腹!? ……俺は見てるだけで気持ちがいっぱい」※手で止める
香「そうか」
話しかけようとした女子を遮り凪に話しかける。凪は髪型をスマホで調べてた。凪は女子の存在に気づかずに、香に応答する。
女子は香を睨むが無視されて、苛ついたようにさっさと店をでていく。
小腹と言いつつ八個もバーガーを頼んだことに驚きつつ、断る凪。
断られ、頷いて大きく口を開けてバーガーにかぶりつく香、一口の大きさとちらりと見えた鋭い犬歯にどきっとする凪。
(学校とは違うから新鮮なのか?)
香「凪?」※真顔
凪「……男らしい食べ方といっぱい食べる君が素敵ってことで好感度ポイント三点!」※にこにこ肩肘を付きながら
香「いっぱい食べるのは素敵なのか」※真顔
凪「少食が悪いわけじゃないけど、香は見てて気持ちいい食べっぷりだからな!」※笑顔
香「そうか」
照れたように、片手でバーガーを持ちながら、アイスコーヒーのカップをもつ。刺さっているストローを咥えようとするが、空振る。何回も空振った末、とうとうハンバーガーを置いてストローを食んだ香だったが、あることに気づく。
香「あ」
凪「え、どうした?」
香「曲がる方を下にいれてしまっていた」※しょんぼり
凪「んふふ、案外あるあるだよな!」
笑いながらもフォローする凪に、どこかほっとしながら最後のバーガーに手を伸ばす香。
凪が真剣な顔でスマホをいじっているのが、自分の髪型を決めるためだと知っているからどことなく優越感を抱く香。そんなこととは知らずに凪はぶつぶつと髪型について難しい顔で呟いている。
凪「マッシュは鉄板なんだよな、でもただのマッシュだとちょっと可愛すぎ……いっそツーブロ、いやでもナチュラルも捨てがたい……あ、全部合わせたのある。へー、これいいな。かっこいい。香、これどう?」※画面を見せる
香「いいんじゃないか?」※ちらりと画面を見て
凪「もう。香ちゃんたら、いつもそうなんだから」※すねたように
香「香ちゃんはやめろ。俺はお前を信じているしここまで真剣に考えてくれているんだから、変な髪型を勧めるはずないだろう」※真顔
凪「もちろん! 香の良さを一番に引き出す髪型を選んだぞ」※照れた笑顔
真摯なまでの信頼にちょっと照れくさくなって、ちょっと早口に一番良い髪型を選んだ、という凪。その言葉が、香の良さをわかってるのは自分だから、みたいにだいぶ歪曲して聞こえて、思わず「そうか」と声が小さくなる香。
凪「いいか、髪型はこのツーブロックマッシュナチュラルだ」※真剣な顔
香「ツーブロックマッシュルームナチュラルチーズ?」※不思議そうな顔
凪「んぐっ、余計なのが増えてる」※飲み物をつまらせる
結局、凪が店員に髪型を伝えることになった。
○美容院に行く道中・休日(創立記念日)・昼
歩きながら、香がいいづらそうな声で凪に話しかける。自転車が通り過ぎる。
香「凪」
凪「ん?」※不思議そうな顔
香「俺の用事につき合わせてしまっているが、もしかして凪も用事があったんじゃないか?」※心配そうな顔
凪「うーん? いやほら、突然出来た休みだろ? 暇だから駅ビルの百円均一行こうと思って。ほら、アイマスク」※にこにこ
香「あぁ、なるほど」※真顔
凪「だから香に着いてってる。他にも予定があるのか?」※首を傾げ
香「予定、というか。相談なんだが」※躊躇いがちに
凪「なんだ?」
香「眼鏡を辞めるかどうかについて」※真顔
凪「え!? それ、伊達なのか!?」※叫ぶ
香「あぁ」※真顔
思わず叫んだ凪に、毛を逆立たせる猫。「あらまぁ、元気だねぇ」と言ってるおばちゃん二人組。
そんな分厚い黒縁眼鏡をファッションでつけてるとは思えなくて、聞いていいのか悩んだ凪だったが、香が話し出す。
香「元々祖父の物だったんだが、形見分けでもらったんだ」※真顔
凪「お祖父さんの……」※しんみりした顔
香「だが部屋に置いておくと邪魔になってしまうからつけてる」※真顔
凪「そんな理由!?」※驚き
香「元から度は入っていなかった」※真顔
凪「なんで?」※スペースキャット
香「わからない」※真顔
香の祖父が不思議過ぎて、スペースキャットになる凪。そんな凪の肩を叩いて、香は美容院に到着したことを告げる。
横を向くと、ガラス張りの壁に優しい明るさの店内の様子がよく見える、雰囲気いい美容院だった。
○美容院内・休日(創立記念日)・昼
さっそく予約していた時間になり。番号を呼ばれていくと男の美容師だった。眼鏡を外し、散髪ケープと首にタオルを巻かれる香。
美容師「どんな髪型になさいますか?」※営業スマイル
凪「ツーブロックマッシュナチュラルで」※真剣
美容師「え、いや、お客さんの」※困惑
香「ツーブロックマッシュルームナチュラルチーズでお願いします」※真顔
凪「……こんな感じなんで」※肩をすくめて笑顔
美容師「ぶふっ、……んっん、わかりました」※肩で笑いを隠す
凪が要望を言うと、え? と振り返った美容師だったが、香が要望をなぜ凪が言ったのかを理解したらしく、吹き出しながらも了解してくれた。
それからは霧吹きで髪を湿らせクリップを使い分けながら切っていってくれた。
凪が後ろでじっとその様子を見ていたから、美容師の緊張もひとしおだ。
さっそく切り終わり、シャンプーをしてもらって、さっぱりしたところで。
凪「香、かっこいいぞ!」※目を輝かせる
香「なんか、不思議な感じだ。頭が軽い」※不思議そうな顔
凪「頭が軽くなってよかったな、でも髪が舞うから踵だけとはいえ跳ねるのはダメだぞ」※子どもを叱る顔
香「すまない」※真顔
美容師「んっふっ……」※箒ではきながら下を向いて笑いを隠す
凪が香を褒めると、今までずっと重かった頭が軽くなったのを確かめるように踵だけで跳ねたり勢いよく横を向いてみたりしていた香は肩を落とした。
黒縁眼鏡をかけようと手に取る香。
凪「ダーメだ」※悪戯げに
香「凪」※真顔
凪「度がある眼鏡ならともかく、度なしなら百円均一にも売ってるだろ、お揃いの買わない?」※眼鏡を両手で持ちながら
香「買う」※真顔
凪「折角だから色々ためしてみようぜ」※眩しい笑顔
香の黒縁眼鏡を取り上げた凪。それを咎めるように名前を呼んだ香に、お揃いの眼鏡を買わないかと肩を組む凪。即答した香に眼鏡を返しながら、笑いかける凪。その光景を見て、青春だなぁと思う周りの客たち。
○駅ビルに向かう道・休日(創立記念日)・昼
香が会計しているのを外で待っていた凪。合流した香と百円均一でもカイソーよりゼリエのほうがおしゃれなのありそう、という理由で両方入ってる駅ビルに向かう。
その途中で数回逆ナンされるも。
香「お前が凪の良さを、俺よりわかっていると思うのか?」※真顔
凪「香は元々イケメンだったの、気づかなかったのにいまさら?」※冷たい笑顔
という謎のマウントの取り合いで逆ナンは失敗に終わる。最終的に「あの二人なに?」と逆ナンはなくなる。
○駅ビル・休日(創立記念日)・昼
ゼリエの一角がざわついている。主に女子。なぜならイケメンたちが伊達メガネコーナーにいるから。香と凪のこと。
香「どうだ?」※真顔
凪「あー、かっこいい!! 知的クール! 俺はどう?」※眼鏡の縁に手を当てながらキメ顔
香「凪はいつもかっこいい」※真顔
凪「そ、そうじゃなくて……眼鏡」※照れ顔
香「あ」
凪「も、もう! 本当そういうところ! 好感度ポイント二点!」※頬をほんのり赤くする
香「青だと凪の雰囲気に合わない気がする。最初の銀色がよかった」※気づかずに真顔
凪「じゃあ最初の銀色買うか! あ、あとアイマスク!」※笑顔
香「アイマスクのコーナーならこっちなんじゃないか?」※真顔
度の入ってないメガネをそれぞれ一本ずつ持ちながら、アイマスクをパッケージの上からあーでもないこーでもないと話している二人。
最終的に、何故かくまちゃん柄のアイマスクを買うことになった。香の強いおすすめ。
香「前はうさぎも居たのに……消えたか」※哀しげ
凪「んんっ……ただ買われていっただけだと思うぞ」※吹き出さないようにしつつツッコミ
香「いい飼い主に当たるといいな」※哀しげ
凪「アイマスクだからな!? 世話とかないから!」※耐えきれずツッコミ
香「あ」
凪「もう、香の天然!」※にやけちゃう
哀愁漂う感じでうさぎのアイマスクの話をしている香。ツッコミどころ満載でつい笑っちゃう凪。周りで聞き耳を立ててた周りの客のほうが大ダメージ。
凪「香ー、明日、お揃いでつけていかないか?」※悪戯げに
香「アイマスクを?」※不思議そうな顔
凪「ふふっ、眼鏡だって」※笑顔
香「あ」
凪「さては眼鏡の存在忘れてたな、うっかりさんめ!」※悪戯げに
香「忘れてない、つけていく!」※拳を握って
凪「ふは、そんな気負わなくていいって」※空気が抜けるような笑顔
笑いながらゼリエで買い物を済ませ、駅ビルを出る。コンビニに寄りたいという香に、近くにあったローゾンに寄る。
○ローゾン店内・休日(創立記念日)・昼
香が扉の前に立っている。開かないのを不思議そうに下がってみたり近づいてみたりしているのを、下を向きつつ吹き出さないように震えている凪が。
凪「香、それ、手動」※震えながら
香「あ」
リリリラリリリーン。入店を知らせる音がなった途端、香の踏み出そうとしていた足が止まる。入り口だったため、他の客の入店の邪魔にならないように香の手を引き飲食コーナーに連れてくる凪。
凪「香、どうかした?」
香「凪、大変だ」※真顔
凪「え、財布落としたとか!?」※驚き顔
香「いや、違う」※真顔
凪「じゃあなんだ?」※不思議そうな顔
香「俺は何をしにここに来たんだ」※真剣な顔
凪「んははっ! 俺に聞かれても、ふふっ」
香「何か買おうと思っていたんだが……メロディを聞いたら忘れてしまった」
深刻そうな顔で告げる香に、つい声を上げて笑ってしまう凪。
近くで話を聞いていたらしき、揚げたばかりのコンビニチキンをケースに入れようとしていた店員のトングからチキンが落ちそうになる。
凪「うーん、とりあえず飲み物買えばいいんじゃないか? 違ったら帰りに違うとこ寄ればいいし」※気軽に
香「あ、思い出した。凪に明太子汁粉サイダーを見せようと思ったんだ。ローゾンにしか売ってないんだ」※目を開いて、手をうつ
凪「なんて?」※眉根を寄せて
今度は凪の手を引いて香がホットコーナーに近づく。
二百五十ミリリットルのペットボトルに、溝色の中身がシュワシュワしながらホットコーナーに置かれていた。
香「これだ」※真顔
凪「香……」
それに手を伸ばす香の肩に手を置いた凪。振り返った香に首を悲しげにゆっくりと横に振った。手を引っ込めて、普通に冷蔵コーナーに向かって、香のお茶と凪のミルクティーをまとめて香が買う。
え? え? となっているうちにローゾンの外に出ると、ミルクティーを凪に渡す。
凪「あ、待って。いま小銭」※あわてて財布をだそうとする
香「いい。今日はたくさん付き合ってもらったからな。今日は……いや、今日も楽しかった。ありがとう」※真顔
凪「俺も楽しかった……って今日はここでお別れか?」※不思議そうな顔
香「今日は母さんからジムに来いって言われてるから」※真顔
凪「なるほど。じゃあ、ありがたく頂くな! また明日!」※笑顔で手を振る
香「また明日」※優しげな微笑み
香の微笑みに一瞬見惚れ、手を降ってから人に紛れていなくなるのまで見送ったところで一瞬で顔が赤くなり、うずくまる。それを誤魔化すかのようにミルクティーを開けて一気飲みする凪。
