○冒頭・教室・休み時間・昼
それなりに騒がしい教室。
「俺は『理想の彼氏様』を探してる!」
(そう言ったのは間違いないけど)
『好感度ポイント手帳』と表紙に癖のある字で書かれたスケジュール帳。先生に呼ばれて席を外している香。
それを見ながら、両手で目を覆う凪。
「こんなにポイント積み上げてくるのは反則だろ」
ぐぬぬっと唸りながら、言葉とは反対に『好感度ポイント手帳』を大事そうに抱きしめる凪。
○教室・昼間
入学式後のうっすらと騒がしい教室。
教師が声を張り上げて、学校の説明をしている。手を叩き完全に静かになったところで、教師が口を開く。
担任教師「じゃあこれから自己紹介してもらうから。はい、一番は欠席だから。まずは出席番号二番、相沢から」※やる気のなさそうな顔、出席簿みている
凪「俺の名前は相沢凪! 好きなことは身体を動かすことと、ゲーム全般! オススメとかあったら教えて欲しい! あとあと、一番重要なこととして」※満面の笑み
椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、教師の言葉に食い込むように自己紹介をしてから、一旦言葉を切る。
大きく深呼吸をして、目を輝かせながら。不思議そうなクラスメイトたちをぐるっと見渡す。
凪「俺は『理想の彼氏様』を探しているんだ! でも紹介や自己推薦はいらない。俺がこの目できっちり見極めるつもりだから、よろしくな!」
輝かんばかり人懐っこい笑顔で、宣言した凪に引き気味の男子たちと、気を引かれたような女子たちで相反する反応。中には、項垂れている女子もいる。凪に一瞬でも恋愛的な好意を抱いた女子だ。
そんな中、凪に反応を示さずに眼鏡を外して熱心にカバーのかかったハードカバーを読んでいる香。
そんな香の反応が目の端に引っかかって、にっと笑う。
担任教師「はい、次出席番号三番〜」※やる気のない顔
と続いていって、一人一人立って自己紹介をしていく中で、香の番になる。
担任教師「はい、次。出席番号七番、佐倉」※やる気のない顔
香「……」※俯いてる
担任教師「佐倉?」※不思議そうな顔
香「……」※俯いてる
反応がないため、不審げな顔をした教師。凪は教師に見えないように順番を教えるため香の肩を軽く叩く。
ゆっくりと本から顔を上げて凪を見た香に、小声で「自己紹介」と告げる凪。目を見開いたあと、頷いて。
香「佐倉香だ。よろしく頼む」※真顔
凪「いや、俺にじゃなくて」※困った顔
香「?」※眉をひそめる
担任教師「んっ、ふふっ。……ごほっ、次、出席番号八番、佐藤」※出席簿で顔を隠しつつ
佐藤「はひっ」※笑いに引きつりながら
凪に向かい合い自己紹介をした香だったが、その次の佐藤の自己紹介を聞いて。なるほど、合点のいった顔をした香。その後、特に恥ずかしがるでもなく本に目を落としたが、その本の文字がいつの間にか上下逆さまになっていることに凪だけが気づいた。しかも文字が妙にでかい。
凪(後で話しかけてみよう!)
目を光らせる凪。もしかしたら、理想の彼氏様候補を見つけたかもしれないため。
○教室・休み時間
休み時間で声の大きくなった教室。頬を片肘を机につけ、手の上に顔をのせた凪がハードカバーを真剣に読んでいる香に話しかける。
凪(さっそく調査だ!)
凪「なぁ、佐倉。なんの本読んでるんだ?」※満面の笑顔
香「かいけつソロリくんだ」※真顔
凪「ぶふっ」※手で口を覆う
香「?」※眉をひそめた顔
突然の児童書、それも小学校低学年向けの本の登場につい吹き出してしまった凪。
それに対して不思議そうな顔をしている香。吹き出したのをなかったことにするために口を拭い、凪は昔読んだ記憶を思い出しながら口を開いた。
凪「かいけつソロリくん、面白いよな」※懐かしげな顔
香「あぁ、弟のために買ったんだが、俺が読んでる」※真顔
凪「なんで?」※不思議そうな顔
香「わからん」
心底わからず出てしまったツッコミに、香も「わからない」と真顔のまま返す。
凪「なんで逆さまで読んでるんだ?」※人の良さげな笑顔
香「逆さま……? あ」※僅かに目を見張る
凪「気づいてなかったのか?」※驚いた顔
香「逆さ文字なのかと思っていた」※眉を下げる
凪(そんなわけないだろ!?)※笑わないように片手で顔を抑える
その面白さと会話のテンポの良さに、凪は決意した。そして、宣戦布告をするため拳を握る。
凪「なぁ、佐倉」※俯き顔が見えない
香「なんだ」※真顔
凪「俺な『理想の彼氏様』を探してるんだ」※深刻そうな顔
香「は?」※真顔で固まる
凪「その理想の彼氏様候補に、入ったのは佐倉が初めてなんだ。これは誇るべきことだぞ!」※一転して輝かしい笑顔、香の背中を叩きながら
香「……」※驚いた顔
凪「ふむ、驚いた顔は案外あどけないんだな。可愛いぞ、好感度ポイント一点」
胸を張り好感度ポイントととやらを加算してきた凪に呆気にとられる香。よくわからないが、特に困ることでも馬鹿にしているわけでも、害もなさそうだから「……そうか」ですます香。呆れてはいる。
○教室・お昼休み
がやがやした教室。それぞれグループごとに机を、くっつけて弁当やコンビニのパンを食べている。
当然のようにお昼を一緒に食べようと、机をくっつけてきた凪。特に嫌なわけでもなく抵抗もせず受け入れた香。
凪は弁当とゴツい水筒を机の横にかけたカバンから取り出す。それに倣って机の上にめんつゆのボトルとめちゃくちゃでかい弁当を取り出す香。
急に出てきためんつゆをガン見している凪に気づく。
香「どうかしたか」※真顔
凪「いや、その、机の」※言いづらそうに困り顔
香「弁当か? 昔から燃費が悪くてな」※真顔
凪「いやそっちじゃなくて……」※困り顔
香「麦茶がどうかしたのか?」※不思議そうな顔
凪「麦茶?!」※驚いた顔
思わず叫んだ凪に振り返るクラスメイトたち。机の上に鎮座しているめんつゆのペットボトルに目を剥く。ざわざわしだす。
なぜそんな反応をするのか分からなくて、麦茶(のつもりで)を見た香は固まる。
香「めんつゆだ……めんつゆだな?」※目を僅かに見開いている
凪「そんなに確認しなくても、事実は変わらずめんつゆだから。……この棟自販機あるし、行く?」※首を傾げて、伏し目がちに
香「行く……」※真顔に戻る
「おかしい、麦茶のボトルを入れてきたはずなのに……」ぼそぼそ真顔で呟いている香に、凪は笑いを必死に抑えるため、震えながら「好感度ポイント一点」と呟く。
※冷蔵庫の横の麦茶のペットボトルの隣が空いている描写。
連れ立って教室を出ていく。
○階段下の自販機前・昼休み
三つ並んだ自販機。周りには誰もいない。
かいけつソロリくんの子供用財布から小銭を取り出して自販機に入れている香の後ろで、笑わないように、悶えながら口を抑えている凪。自販機で飲み物を買おうと近づいてきた二人組の生徒が、そんな凪を見て逃げる。
凪(ギャップ萌えで好感度ポイント一点!!)
脳内で叫びながら、こほんと咳をして普通に立っていると、香が小さい缶を片手に近づいてくる。五百ミリリットルの麦茶も売ってるよな? と自販機の内容を確認しつつ、香が持っている缶を見て、変な声が出る。その声に首を傾げて凪の顔を見た香に、微振動しながら凪が問いかける。
凪「本当にそれでいいのか?」※不安気な表情
香「お前はお汁粉が嫌いなのか? 俺は好きだが」※不思議そうな顔
凪「いや、弁当にお汁粉を合わせるのかって意味なんだけど……」※眉をハの字にしながら
香「あ」
凪「忘れてたな、うっかりやさんめ。好感度ポイント二点」
楽しそうな笑顔でそう言うと、凪は自分の財布を出して香から離れ自販機で麦茶を買う。教室でゴツめの水筒を出していたのを見ていた香は、少し首を傾げて凪に問いかける。
香「お前は水筒持ってきてなかったか?」
凪「これは今日半日で五点も貯めた佐倉へのプレゼント!」※笑顔
香「プレゼントがあるのか?」※不思議そうな顔
凪「あわよくば、があるかもしれないからな!」※笑顔
香「なるほど?」
よく意味がわからないが、くれると言うなら……。麦茶のペットボトルを差し出してくる凪の手から受け取る。その冷たさと、何だかんだフォローしてくれた嬉しさに香は照れたように微笑んで。
香「ありがとう」
凪「きゅんとさせてもダメだからな! 好感度ポイント三点!!」
香「……採点甘くないか?」
ふざけたように胸を抑え、頬をほのかに染めながら走り去る凪。その後ろで、立ち尽くしたまま汗のかいた麦茶のペットボトルを見て呟く香。
○教室・お昼休み
凪「お、戻ってきた」※そわそわしてる
香「教室にいたのか」※真顔
凪「え、探させちゃった? ごめん」※慌てた顔
香「いや、帰りに職員室を覗いた程度だ」※真顔
凪「俺、呼び出されたように見えたの??」※不満げな顔
不満げな顔をしつつ、弁当の包みを開けている凪の姿を見ながら、自分が戻るまで待っててくれたのか、と香は思う。胸が少し温かくなる。
香モノ(いままで、やらかすたびに色々と言われてきた。だから友達なんて出来ず、一人だったが。……友というのも悪くないな)
香も弁当の包みを開け、まずはお茶を飲もうと凪にもらった麦茶のペットボトルを手に持ち、口に持っていったところ。凪から笑いをこらえたような声がかかった。
凪「……佐倉、キャップ開けてないぞ」
香「あ」
○一週間後・放課後・まだ昼間のように明るい
男子生徒A「相沢ー、また助っ人頼むって、な? 今日だけだから」※ぱんっと手を合わせて頭を下げる
凪「昨日もそう言ってただろ。とにかく、助っ人は一週間に一回!」※迷惑そうな顔
男子生徒B「じゃあ男バス入ってくれよ、相沢が入れば全国狙えるって!」※笑顔
凪「俺帰宅部希望だから。色々忙しいし、その言い方今のメンバーに失礼だろ」※眉根を寄せて
男子生徒C「サッカー! サッカーならいいだろ!?」※必死な顔
凪「何がいいんだよ、全然よくないから。とにかく俺は帰宅部なの!」※威嚇
男子生徒A・B・C「頼むってー!!」※両手を合わせながら
凪「や・だ!」※顔をそむける
香と一緒に課題をやっていると、男子生徒三人に廊下に呼び出された凪。それぞれの部活に助っ人として入ったことがあり、かなり活躍してしまったことから、運動部からのラブコールがやまない状態に辟易している。呼び出された時も肩を落として香に「ごめん」と言ってからとぼとぼ教室を出ていった凪。
全力で断った凪は、三人の返事も聞かずに教室の中に入っていった。そんな凪の後ろ姿にがっくりする三人。
席に座りくっつけたテーブルの上にチョコやらポッキーやらのお菓子を隅に置いてあり、チョコを一つ口にいれると眉をひそめたままシャープペンを握り直す凪に、香が首を傾げる。
凪「はー、困っちゃうよな。元々助っ人は一回だけっていう話だったのに」※ため息
香「お前は」※ちらっと見上げながら
凪「ん?」※少し首を傾げ
香「部活に入らないのか? かなり望まれてるみたいだが」※真顔
凪「入んない。だって佐倉といる時間なくなっちゃうじゃん」※あっけらかん
香「そう……か」※目を少し見開く
凪「ん」※問題集を見る
当然のように言いながら、問題集に目を落として解いていく凪は真剣な表情。
真顔の香だが、髪に隠れている耳が優越感やら嬉しさに僅かに赤くなっている。目を伏せる香。
香(そこまで明け透けだと、逆に困るな。……いや、何に困るんだ?)
自分の中に生じた感情に香が内心首を傾げていると、凪から声がかかる。
凪「なー、佐倉。ここの答えってさぁ」※唇にボールペンを当てながら、上目
香「あ、あぁ。そこは」※真顔
この後、問題集を解き終わって夕方になる前に解散。
○香のジョギング道・土手・夕暮れ
一定のリズムで息を吐きながら、市販のジャージで無表情に走る香。立ち止まって、首にかけたタオルで汗を拭っている。
ふと、河原に目をやると着物の老婆がおろおろとしつつ「お兄さん、もういいよぉ!」と川に向かって声をかけていた。
不審に思い川を見ると、数時間前にわかれたはずの凪の姿。袖とズボンをめくり橋の下にある浅い川の中を浚っている。鞄と靴は丁寧に揃えて河原に置いてあった。
ぎょっと目を剥いて、あわてて香が老婆に駆け寄る。話を聞くと、橋から落とした簪を探してくれているのだという。
ざばざば音がして顔を上げると、凪が河原まで戻って来ていた。手にきらりとしたものを持っている。凪はここで香に気づく。
凪「あれ、佐倉、その格好どうしたんだ!?」※びっくりした顔
香「それはこっちのセリフだ! なぜ靴のまま入らなかった! ガラス片だって落ちている場合があるんだぞ!? 切り傷から菌がはいったらどうする!」※心配のため肩を掴んで怒る
凪「う、うん、ごめん。悪かったって。制服は濡れても替えがあるけど靴はなかったから……」※勢いに驚いた顔
香「……怒鳴って悪かった。あったのか?」※肩を離して予備の腰につけていたタオルで濡れてた顔を拭ってやる
凪「うん。でも……」※顔を拭われながら悲しそうに肩を落とす
言いにくそうに口ごもって、老婆と香に簪を見せる。
二又の簪のあしが一本、落ちた衝撃にだろう、欠けていた。肩を落として怒られたような顔をする凪に、老婆は何度も涙混じりの声で「ありがとう」と伝えてくる。亡くなったお爺さんからのプロポーズに貰ったものなんだと。凪が泣きそうな顔で「ごめんなさい」としょぼくれているのを見て、老婆は持っていた巾着から黒飴を出して凪と香に握らせる。
老婆「お兄さんたち、ありがとうねぇ」
香「俺は何もしてないです」
凪「結局欠けちゃってたし……」
老婆「欠けようが折れようが戻ってきてくれたことが嬉しいんだよ。お兄さんは何もしてないっていうけど、大事なお友達、心配させちゃったからねぇ」
そう言って、それぞれに「ありがとうねぇ」ともう一回言ってからゆっくり去っていく老婆。
その後ろ姿を見送ってから、スマホを取り出す香。
香「スマホは?」※真顔
凪「あ、鞄の中」※鞄をちらっと見る
香「このタオルは予備だから存分に使っていい。ちゃんと身体を拭け、春だろうと油断ならない。拭き終わって服を正したらスマホを出せ」※圧のある真顔
凪「わ、わかった。あ、タオルは洗って返すから」※あわててタオルを掴む
香「どうせこの後洗うんだ、そのままでいい。スマホ」※真顔
凪「う、うん」※引きつった顔
腕や足を拭いて、靴下と靴を履き濡れたタオルを肩にかけた凪。それをするりと回収して、腰の紐にかける香。あまりにも鮮やかな手腕に袖をおろしながら驚く凪だったが、香の低い声にあわてて鞄からスマホを出す。
香「連絡先交換するぞ」※眉を下げつつ
凪「えっ! いいのか!?」※ぱぁと顔を明るくする
香「お前がまたこういう事をする時には呼べ、出来る限り手伝う」※真顔
凪「佐倉……ありがとう。待って、コード出してて。俺受信するから」※真剣な顔
香「わかった」※真顔で画面を差し出す
凪「はい……って違う! 割り勘決済のほうじゃないって! QRコード!」※凪のスマホのカメラに香の画面を映そうとしてバーコードなことに気づき叫ぶ
香「……」※顔をそむける
凪「まさか……やり方わからないのか?」※呆然とした顔
結局凪が黙り込む香の手からスマホを取り、操作して連絡先を交換した。
○凪の部屋・夜
ゲーム雑誌やゲームの設定集などの分厚い本が本棚に乱雑に入っており、机の上には大きな画面のパソコンがある凪の部屋、いかにもゲーマーの部屋という感じ。ベッドに横になりながら香に最初になんて送ろうか悩んでいる凪。
お気に入りのもっちりした感触の「かまってペンギン」のぬいぐるみを抱えこみながらスマホとにらめっこすること十数分。
ピロン。
かいけつソロリくんの丸いアイコンの横に「香」と一文字だけの名前が記されていた。
抱えていた「かまってペンギン」のぬいぐるみを放り出してあわてて画面をタップする。青空の背景に綴られていた言葉は。
凪「牛乳、プロテイン、ミックスナッツ?」※不思議そうに首を傾げる
ピロン。
続いてきた、かいけつソロリくんが喋っているような吹き出しの中には。
香:すまない、自分用のメモと間違えた
そんな言葉が書かれていて。直後に。
ごめんねと書かれた、項垂れた可愛い半泣き猫のスタンプ。
凪「スタンプがかわいい! 好感度ポイント一点」※思わず破顔する
凪:だろうな、と思った(笑)
香:いつもメモを一番上に設定していたから、つい間違えた
その言葉ににまにまと口元を緩める凪。それはつまり、凪のアカウントを自分用のメモに使っていたアカウントよりも上にアカウント留めしたということが嬉しい凪。
風呂上がりで頭を拭きながらスマホをいじる香。
凪:別にいーよ! っていうかプロテイン飲むのか?
香:いや、母さんに頼まれた。うちは母さんがジムのトレーナーでな、俺もよく付き合わされる。ミックナッツは父さんのカフェで出すケーキ? に使うらしい
凪:ジムのトレーナーも凄いけど、カフェも凄いな。何よりナッツのケーキとか絶対美味いじゃん。
香:良かったら試食に付き合ってやってくれ。俺は戦力外通告されてるんだ
凪:なんで(笑)
香:いいんじゃないか? って言っていたら外された
凪:それは戦力外通告だ!
香:なんで
そんなやり取りをしていたら、いつの間にかいつもは寝ている時間を過ぎていて、あわてておやすみと送ろうとして、凪の手が止まる。
香:相沢のこと、凪って呼んでもいいか?嫌だったら言ってくれ
凪:全然、まったく! 嫌じゃない! 俺も佐倉のこと香って呼んでいい?
香:あぁ、そのほうが嬉しい
凪:俺も!
「嬉しい」という言葉に胸が妙に騒いだ凪。落ち着かないでいると香から猫のおやすみスタンプが来て、それに対し、ゲームキャラのおやすみスタンプを送ってそのまま充電器にスマホをさした。「かまってペンギン」のぬいぐるみを椅子に座らせ、自分はベッドに潜り込む凪。
香もソファに居たら母に「早く寝なさいねー」と言われ自分の部屋に行き、ベッドに潜り込む。
その夜は何だかんだ宝物を手に入れたような、胸がそわそわしてなかなか寝付けない凪と香。
それなりに騒がしい教室。
「俺は『理想の彼氏様』を探してる!」
(そう言ったのは間違いないけど)
『好感度ポイント手帳』と表紙に癖のある字で書かれたスケジュール帳。先生に呼ばれて席を外している香。
それを見ながら、両手で目を覆う凪。
「こんなにポイント積み上げてくるのは反則だろ」
ぐぬぬっと唸りながら、言葉とは反対に『好感度ポイント手帳』を大事そうに抱きしめる凪。
○教室・昼間
入学式後のうっすらと騒がしい教室。
教師が声を張り上げて、学校の説明をしている。手を叩き完全に静かになったところで、教師が口を開く。
担任教師「じゃあこれから自己紹介してもらうから。はい、一番は欠席だから。まずは出席番号二番、相沢から」※やる気のなさそうな顔、出席簿みている
凪「俺の名前は相沢凪! 好きなことは身体を動かすことと、ゲーム全般! オススメとかあったら教えて欲しい! あとあと、一番重要なこととして」※満面の笑み
椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がり、教師の言葉に食い込むように自己紹介をしてから、一旦言葉を切る。
大きく深呼吸をして、目を輝かせながら。不思議そうなクラスメイトたちをぐるっと見渡す。
凪「俺は『理想の彼氏様』を探しているんだ! でも紹介や自己推薦はいらない。俺がこの目できっちり見極めるつもりだから、よろしくな!」
輝かんばかり人懐っこい笑顔で、宣言した凪に引き気味の男子たちと、気を引かれたような女子たちで相反する反応。中には、項垂れている女子もいる。凪に一瞬でも恋愛的な好意を抱いた女子だ。
そんな中、凪に反応を示さずに眼鏡を外して熱心にカバーのかかったハードカバーを読んでいる香。
そんな香の反応が目の端に引っかかって、にっと笑う。
担任教師「はい、次出席番号三番〜」※やる気のない顔
と続いていって、一人一人立って自己紹介をしていく中で、香の番になる。
担任教師「はい、次。出席番号七番、佐倉」※やる気のない顔
香「……」※俯いてる
担任教師「佐倉?」※不思議そうな顔
香「……」※俯いてる
反応がないため、不審げな顔をした教師。凪は教師に見えないように順番を教えるため香の肩を軽く叩く。
ゆっくりと本から顔を上げて凪を見た香に、小声で「自己紹介」と告げる凪。目を見開いたあと、頷いて。
香「佐倉香だ。よろしく頼む」※真顔
凪「いや、俺にじゃなくて」※困った顔
香「?」※眉をひそめる
担任教師「んっ、ふふっ。……ごほっ、次、出席番号八番、佐藤」※出席簿で顔を隠しつつ
佐藤「はひっ」※笑いに引きつりながら
凪に向かい合い自己紹介をした香だったが、その次の佐藤の自己紹介を聞いて。なるほど、合点のいった顔をした香。その後、特に恥ずかしがるでもなく本に目を落としたが、その本の文字がいつの間にか上下逆さまになっていることに凪だけが気づいた。しかも文字が妙にでかい。
凪(後で話しかけてみよう!)
目を光らせる凪。もしかしたら、理想の彼氏様候補を見つけたかもしれないため。
○教室・休み時間
休み時間で声の大きくなった教室。頬を片肘を机につけ、手の上に顔をのせた凪がハードカバーを真剣に読んでいる香に話しかける。
凪(さっそく調査だ!)
凪「なぁ、佐倉。なんの本読んでるんだ?」※満面の笑顔
香「かいけつソロリくんだ」※真顔
凪「ぶふっ」※手で口を覆う
香「?」※眉をひそめた顔
突然の児童書、それも小学校低学年向けの本の登場につい吹き出してしまった凪。
それに対して不思議そうな顔をしている香。吹き出したのをなかったことにするために口を拭い、凪は昔読んだ記憶を思い出しながら口を開いた。
凪「かいけつソロリくん、面白いよな」※懐かしげな顔
香「あぁ、弟のために買ったんだが、俺が読んでる」※真顔
凪「なんで?」※不思議そうな顔
香「わからん」
心底わからず出てしまったツッコミに、香も「わからない」と真顔のまま返す。
凪「なんで逆さまで読んでるんだ?」※人の良さげな笑顔
香「逆さま……? あ」※僅かに目を見張る
凪「気づいてなかったのか?」※驚いた顔
香「逆さ文字なのかと思っていた」※眉を下げる
凪(そんなわけないだろ!?)※笑わないように片手で顔を抑える
その面白さと会話のテンポの良さに、凪は決意した。そして、宣戦布告をするため拳を握る。
凪「なぁ、佐倉」※俯き顔が見えない
香「なんだ」※真顔
凪「俺な『理想の彼氏様』を探してるんだ」※深刻そうな顔
香「は?」※真顔で固まる
凪「その理想の彼氏様候補に、入ったのは佐倉が初めてなんだ。これは誇るべきことだぞ!」※一転して輝かしい笑顔、香の背中を叩きながら
香「……」※驚いた顔
凪「ふむ、驚いた顔は案外あどけないんだな。可愛いぞ、好感度ポイント一点」
胸を張り好感度ポイントととやらを加算してきた凪に呆気にとられる香。よくわからないが、特に困ることでも馬鹿にしているわけでも、害もなさそうだから「……そうか」ですます香。呆れてはいる。
○教室・お昼休み
がやがやした教室。それぞれグループごとに机を、くっつけて弁当やコンビニのパンを食べている。
当然のようにお昼を一緒に食べようと、机をくっつけてきた凪。特に嫌なわけでもなく抵抗もせず受け入れた香。
凪は弁当とゴツい水筒を机の横にかけたカバンから取り出す。それに倣って机の上にめんつゆのボトルとめちゃくちゃでかい弁当を取り出す香。
急に出てきためんつゆをガン見している凪に気づく。
香「どうかしたか」※真顔
凪「いや、その、机の」※言いづらそうに困り顔
香「弁当か? 昔から燃費が悪くてな」※真顔
凪「いやそっちじゃなくて……」※困り顔
香「麦茶がどうかしたのか?」※不思議そうな顔
凪「麦茶?!」※驚いた顔
思わず叫んだ凪に振り返るクラスメイトたち。机の上に鎮座しているめんつゆのペットボトルに目を剥く。ざわざわしだす。
なぜそんな反応をするのか分からなくて、麦茶(のつもりで)を見た香は固まる。
香「めんつゆだ……めんつゆだな?」※目を僅かに見開いている
凪「そんなに確認しなくても、事実は変わらずめんつゆだから。……この棟自販機あるし、行く?」※首を傾げて、伏し目がちに
香「行く……」※真顔に戻る
「おかしい、麦茶のボトルを入れてきたはずなのに……」ぼそぼそ真顔で呟いている香に、凪は笑いを必死に抑えるため、震えながら「好感度ポイント一点」と呟く。
※冷蔵庫の横の麦茶のペットボトルの隣が空いている描写。
連れ立って教室を出ていく。
○階段下の自販機前・昼休み
三つ並んだ自販機。周りには誰もいない。
かいけつソロリくんの子供用財布から小銭を取り出して自販機に入れている香の後ろで、笑わないように、悶えながら口を抑えている凪。自販機で飲み物を買おうと近づいてきた二人組の生徒が、そんな凪を見て逃げる。
凪(ギャップ萌えで好感度ポイント一点!!)
脳内で叫びながら、こほんと咳をして普通に立っていると、香が小さい缶を片手に近づいてくる。五百ミリリットルの麦茶も売ってるよな? と自販機の内容を確認しつつ、香が持っている缶を見て、変な声が出る。その声に首を傾げて凪の顔を見た香に、微振動しながら凪が問いかける。
凪「本当にそれでいいのか?」※不安気な表情
香「お前はお汁粉が嫌いなのか? 俺は好きだが」※不思議そうな顔
凪「いや、弁当にお汁粉を合わせるのかって意味なんだけど……」※眉をハの字にしながら
香「あ」
凪「忘れてたな、うっかりやさんめ。好感度ポイント二点」
楽しそうな笑顔でそう言うと、凪は自分の財布を出して香から離れ自販機で麦茶を買う。教室でゴツめの水筒を出していたのを見ていた香は、少し首を傾げて凪に問いかける。
香「お前は水筒持ってきてなかったか?」
凪「これは今日半日で五点も貯めた佐倉へのプレゼント!」※笑顔
香「プレゼントがあるのか?」※不思議そうな顔
凪「あわよくば、があるかもしれないからな!」※笑顔
香「なるほど?」
よく意味がわからないが、くれると言うなら……。麦茶のペットボトルを差し出してくる凪の手から受け取る。その冷たさと、何だかんだフォローしてくれた嬉しさに香は照れたように微笑んで。
香「ありがとう」
凪「きゅんとさせてもダメだからな! 好感度ポイント三点!!」
香「……採点甘くないか?」
ふざけたように胸を抑え、頬をほのかに染めながら走り去る凪。その後ろで、立ち尽くしたまま汗のかいた麦茶のペットボトルを見て呟く香。
○教室・お昼休み
凪「お、戻ってきた」※そわそわしてる
香「教室にいたのか」※真顔
凪「え、探させちゃった? ごめん」※慌てた顔
香「いや、帰りに職員室を覗いた程度だ」※真顔
凪「俺、呼び出されたように見えたの??」※不満げな顔
不満げな顔をしつつ、弁当の包みを開けている凪の姿を見ながら、自分が戻るまで待っててくれたのか、と香は思う。胸が少し温かくなる。
香モノ(いままで、やらかすたびに色々と言われてきた。だから友達なんて出来ず、一人だったが。……友というのも悪くないな)
香も弁当の包みを開け、まずはお茶を飲もうと凪にもらった麦茶のペットボトルを手に持ち、口に持っていったところ。凪から笑いをこらえたような声がかかった。
凪「……佐倉、キャップ開けてないぞ」
香「あ」
○一週間後・放課後・まだ昼間のように明るい
男子生徒A「相沢ー、また助っ人頼むって、な? 今日だけだから」※ぱんっと手を合わせて頭を下げる
凪「昨日もそう言ってただろ。とにかく、助っ人は一週間に一回!」※迷惑そうな顔
男子生徒B「じゃあ男バス入ってくれよ、相沢が入れば全国狙えるって!」※笑顔
凪「俺帰宅部希望だから。色々忙しいし、その言い方今のメンバーに失礼だろ」※眉根を寄せて
男子生徒C「サッカー! サッカーならいいだろ!?」※必死な顔
凪「何がいいんだよ、全然よくないから。とにかく俺は帰宅部なの!」※威嚇
男子生徒A・B・C「頼むってー!!」※両手を合わせながら
凪「や・だ!」※顔をそむける
香と一緒に課題をやっていると、男子生徒三人に廊下に呼び出された凪。それぞれの部活に助っ人として入ったことがあり、かなり活躍してしまったことから、運動部からのラブコールがやまない状態に辟易している。呼び出された時も肩を落として香に「ごめん」と言ってからとぼとぼ教室を出ていった凪。
全力で断った凪は、三人の返事も聞かずに教室の中に入っていった。そんな凪の後ろ姿にがっくりする三人。
席に座りくっつけたテーブルの上にチョコやらポッキーやらのお菓子を隅に置いてあり、チョコを一つ口にいれると眉をひそめたままシャープペンを握り直す凪に、香が首を傾げる。
凪「はー、困っちゃうよな。元々助っ人は一回だけっていう話だったのに」※ため息
香「お前は」※ちらっと見上げながら
凪「ん?」※少し首を傾げ
香「部活に入らないのか? かなり望まれてるみたいだが」※真顔
凪「入んない。だって佐倉といる時間なくなっちゃうじゃん」※あっけらかん
香「そう……か」※目を少し見開く
凪「ん」※問題集を見る
当然のように言いながら、問題集に目を落として解いていく凪は真剣な表情。
真顔の香だが、髪に隠れている耳が優越感やら嬉しさに僅かに赤くなっている。目を伏せる香。
香(そこまで明け透けだと、逆に困るな。……いや、何に困るんだ?)
自分の中に生じた感情に香が内心首を傾げていると、凪から声がかかる。
凪「なー、佐倉。ここの答えってさぁ」※唇にボールペンを当てながら、上目
香「あ、あぁ。そこは」※真顔
この後、問題集を解き終わって夕方になる前に解散。
○香のジョギング道・土手・夕暮れ
一定のリズムで息を吐きながら、市販のジャージで無表情に走る香。立ち止まって、首にかけたタオルで汗を拭っている。
ふと、河原に目をやると着物の老婆がおろおろとしつつ「お兄さん、もういいよぉ!」と川に向かって声をかけていた。
不審に思い川を見ると、数時間前にわかれたはずの凪の姿。袖とズボンをめくり橋の下にある浅い川の中を浚っている。鞄と靴は丁寧に揃えて河原に置いてあった。
ぎょっと目を剥いて、あわてて香が老婆に駆け寄る。話を聞くと、橋から落とした簪を探してくれているのだという。
ざばざば音がして顔を上げると、凪が河原まで戻って来ていた。手にきらりとしたものを持っている。凪はここで香に気づく。
凪「あれ、佐倉、その格好どうしたんだ!?」※びっくりした顔
香「それはこっちのセリフだ! なぜ靴のまま入らなかった! ガラス片だって落ちている場合があるんだぞ!? 切り傷から菌がはいったらどうする!」※心配のため肩を掴んで怒る
凪「う、うん、ごめん。悪かったって。制服は濡れても替えがあるけど靴はなかったから……」※勢いに驚いた顔
香「……怒鳴って悪かった。あったのか?」※肩を離して予備の腰につけていたタオルで濡れてた顔を拭ってやる
凪「うん。でも……」※顔を拭われながら悲しそうに肩を落とす
言いにくそうに口ごもって、老婆と香に簪を見せる。
二又の簪のあしが一本、落ちた衝撃にだろう、欠けていた。肩を落として怒られたような顔をする凪に、老婆は何度も涙混じりの声で「ありがとう」と伝えてくる。亡くなったお爺さんからのプロポーズに貰ったものなんだと。凪が泣きそうな顔で「ごめんなさい」としょぼくれているのを見て、老婆は持っていた巾着から黒飴を出して凪と香に握らせる。
老婆「お兄さんたち、ありがとうねぇ」
香「俺は何もしてないです」
凪「結局欠けちゃってたし……」
老婆「欠けようが折れようが戻ってきてくれたことが嬉しいんだよ。お兄さんは何もしてないっていうけど、大事なお友達、心配させちゃったからねぇ」
そう言って、それぞれに「ありがとうねぇ」ともう一回言ってからゆっくり去っていく老婆。
その後ろ姿を見送ってから、スマホを取り出す香。
香「スマホは?」※真顔
凪「あ、鞄の中」※鞄をちらっと見る
香「このタオルは予備だから存分に使っていい。ちゃんと身体を拭け、春だろうと油断ならない。拭き終わって服を正したらスマホを出せ」※圧のある真顔
凪「わ、わかった。あ、タオルは洗って返すから」※あわててタオルを掴む
香「どうせこの後洗うんだ、そのままでいい。スマホ」※真顔
凪「う、うん」※引きつった顔
腕や足を拭いて、靴下と靴を履き濡れたタオルを肩にかけた凪。それをするりと回収して、腰の紐にかける香。あまりにも鮮やかな手腕に袖をおろしながら驚く凪だったが、香の低い声にあわてて鞄からスマホを出す。
香「連絡先交換するぞ」※眉を下げつつ
凪「えっ! いいのか!?」※ぱぁと顔を明るくする
香「お前がまたこういう事をする時には呼べ、出来る限り手伝う」※真顔
凪「佐倉……ありがとう。待って、コード出してて。俺受信するから」※真剣な顔
香「わかった」※真顔で画面を差し出す
凪「はい……って違う! 割り勘決済のほうじゃないって! QRコード!」※凪のスマホのカメラに香の画面を映そうとしてバーコードなことに気づき叫ぶ
香「……」※顔をそむける
凪「まさか……やり方わからないのか?」※呆然とした顔
結局凪が黙り込む香の手からスマホを取り、操作して連絡先を交換した。
○凪の部屋・夜
ゲーム雑誌やゲームの設定集などの分厚い本が本棚に乱雑に入っており、机の上には大きな画面のパソコンがある凪の部屋、いかにもゲーマーの部屋という感じ。ベッドに横になりながら香に最初になんて送ろうか悩んでいる凪。
お気に入りのもっちりした感触の「かまってペンギン」のぬいぐるみを抱えこみながらスマホとにらめっこすること十数分。
ピロン。
かいけつソロリくんの丸いアイコンの横に「香」と一文字だけの名前が記されていた。
抱えていた「かまってペンギン」のぬいぐるみを放り出してあわてて画面をタップする。青空の背景に綴られていた言葉は。
凪「牛乳、プロテイン、ミックスナッツ?」※不思議そうに首を傾げる
ピロン。
続いてきた、かいけつソロリくんが喋っているような吹き出しの中には。
香:すまない、自分用のメモと間違えた
そんな言葉が書かれていて。直後に。
ごめんねと書かれた、項垂れた可愛い半泣き猫のスタンプ。
凪「スタンプがかわいい! 好感度ポイント一点」※思わず破顔する
凪:だろうな、と思った(笑)
香:いつもメモを一番上に設定していたから、つい間違えた
その言葉ににまにまと口元を緩める凪。それはつまり、凪のアカウントを自分用のメモに使っていたアカウントよりも上にアカウント留めしたということが嬉しい凪。
風呂上がりで頭を拭きながらスマホをいじる香。
凪:別にいーよ! っていうかプロテイン飲むのか?
香:いや、母さんに頼まれた。うちは母さんがジムのトレーナーでな、俺もよく付き合わされる。ミックナッツは父さんのカフェで出すケーキ? に使うらしい
凪:ジムのトレーナーも凄いけど、カフェも凄いな。何よりナッツのケーキとか絶対美味いじゃん。
香:良かったら試食に付き合ってやってくれ。俺は戦力外通告されてるんだ
凪:なんで(笑)
香:いいんじゃないか? って言っていたら外された
凪:それは戦力外通告だ!
香:なんで
そんなやり取りをしていたら、いつの間にかいつもは寝ている時間を過ぎていて、あわてておやすみと送ろうとして、凪の手が止まる。
香:相沢のこと、凪って呼んでもいいか?嫌だったら言ってくれ
凪:全然、まったく! 嫌じゃない! 俺も佐倉のこと香って呼んでいい?
香:あぁ、そのほうが嬉しい
凪:俺も!
「嬉しい」という言葉に胸が妙に騒いだ凪。落ち着かないでいると香から猫のおやすみスタンプが来て、それに対し、ゲームキャラのおやすみスタンプを送ってそのまま充電器にスマホをさした。「かまってペンギン」のぬいぐるみを椅子に座らせ、自分はベッドに潜り込む凪。
香もソファに居たら母に「早く寝なさいねー」と言われ自分の部屋に行き、ベッドに潜り込む。
その夜は何だかんだ宝物を手に入れたような、胸がそわそわしてなかなか寝付けない凪と香。
