半年後、蒼斗と葵は晴れて結婚し、夫婦となった。
結婚式には、翔太はもちろん、井上や遠野、職場の同僚や上司、数十人を呼んで、賑やかなものとった。
葵が喋らず、人間関係に積極的ではなかったことを知っている井上や遠野、職場の上司は、蒼斗と付き合い始めて、みるみる明るくなった葵に、雛鳥が巣立つのを見送る親鳥のような感情を抱いた。
食べて、飲んで、歌って、踊って。
みんなが笑顔に包まれる、とてもいい式だったと、蒼斗も葵も振り返る。
そして、今、葵は声を生かして、理由があって読書できない人たちのために、本を読み上げる仕事をしている。
出版社と契約を結び、人気シリーズの本を読み上げた録音CDや音声を、手軽に入手できるようにした。
点字に訳されていない本も多く、読書を好きに楽しめない視覚障害者たちのために、活動しているのだ。
もちろん勤めている会社でそのまま働きながら、副業でしていることで、そう多い数の本を読み上げることはできない。
中には、かなりのボリュームがある作品を読み上げることもあり、録音だけでも時間がかなりかかる。
しかし、何もしていなかった時よりも、音声として読み上げられ、障害という壁を感じずに本を楽しめる人が着実に増えてくれたのでは、とやりがいを感じている。
葵の声は、華やかさもありつつ、穏やかさも、優しさも感じられる、あたたかな声質だと、とても人気だ。
蒼斗は葵の人気があがることに時折嫉妬してしまうのか不満気だが、葵がしたいことを楽しんでしていることはとても喜んでくれている。
「.....葵、今日はどこに行こうか?」
「ふふ、どこがいいかな。久しぶりにゆっくりケーキが食べたいわ」
「じゃぁ、以前通りを歩いていた時に、葵が気にしてたお店に行ってみる?」
「......気付いてたの?本当、何でもお見通しね」
「愛しい君のことなら、何でもわかるよ。表情を見ていればすぐにね」
ゆったりコーヒーを飲みながら、リビングの椅子に腰掛けて話す、休日の二人。
その隣には、木の柔らかな色合いが気持ちを穏やかにする棚が置かれ、その上では、蒼斗の手作りのぬいぐるみたちが仲良く並んで座っていた。
セイクマと、桜色のワンピースを着たセイクマの奥さん。
2体の目の前には、シェル型の器。
そこには蒼斗が葵にプレゼントした桜色のハートの石がついた指輪と、婚約指輪。
大切な思い出たちを守るように、二体は器に手を添えている。
優しい微笑みをたたえてーーー。
二人の笑い声がこだまするリビングに、開いた窓から爽やかな風が吹く。
さて、今日はどんな休日になるのだろう。
どんな一日も、あなたと一緒なら。
きっと、平和で、特別で、楽しい一日ーーーーー。
